2章⑤
ーーー「いいですかまーくん、あなたに試練を与えたいと思います。」
「…は?」
時は遊園地へ向かう電車の中。厳粛な雰囲気を漂わせいきなりそう宣う仁美に、訳も分からず聞き返してしまう俺。
「試練?」
「試練です」
「…おーい光k「まあ聞きなさい」もが!?」
とうとう仁美がおかしくなったと思い光希を呼ぼうとした口を塞がれる。
電車は混んでいて俺と仁美、成瀬さんと光希が2人ずつ別れて立っている。こんな訳の分からない女はほっといて俺もあっちに混ざりたい…ていうか光希は成瀬さんと楽しそうに会話をしている。余計にあの2人の間に入りたくなっちゃうね!
「んん?」
「ん?なにまーくん?」
「んむ、んー」
「え?」
「んーっ、んーっ」
「何言ってんのか全然分かんない」
バシッ!
「そりゃお前がずっと口おさてますからねぇ!」
手を外せって言うのも分からんでしょうよ!
「アハハッごめんごめん。まーくんのそういう反応を見たくてやってたとこある」
「鬼か!」
こいつは俺をおちょくらないと生きてられないんだろうか…?
「んで?」
「ん?」
「試練ってなんだよ」
「あー、『いいですかまーk「それはもういいよ!」」
いつまでたっても終わりそうにないので先を促す。
「ちぇー、ノリ悪いなー」
「…俺もうキレてもいいかい?」
俺頑張ったよね?もういいよね?
「ごめんごめん!ちゃんと説明するから!」
俺の怒りのボルテージが上がる気配を感じたのか、少し焦り気味に謝ってくる。ったく…
「それで?試練っていうのは?」
「まーくん今日の目的は覚えてる?」
「目的?…ああ、成瀬さんと仲良くなることだろ?」
「よろしい」
そう、成瀬さんと仲良くなる。そのために休日に一緒に遊園地に出かけようとなったのだ。まあ、こいつはただ遊園地で遊びたいだけだが。
「その目的を達成するための試練ってことか?」
「そのとおり。今回は4人で遊園地に行こうってことになったけど、ここに大きな問題がある訳ですよ」
「問題?」
なんだ問題って?ただ遊園地で楽しく遊ぶだけじゃだめなのか?
「じゃあ、想像してみて」
「おう」
「4人でアトラクションに乗って、4人で昼ご飯食べて、4人で目一杯遊んで帰りました」
ふむ。いいじゃないか、青春の1ページって感じで。どこに問題があるんだ?
「じゃあまーくんに聞きます」
「うん」
「遊びに行った次の平日、まーくんは美月ちゃんと仲良くなっていますか?」
「そりゃお前…」
当然仲良くなってると答えようとして、答えにつまる。いや待てよ…?
「4人で遊ぶことで、4人グループとしては仲良くなったとしても成瀬さん個人と仲良くなっているとは限らない…?」
「そのとおり!」
よく出来ましたと言わんばかりに指を指す仁美。確かに仁美も光希も仲がいいからその流れで成瀬さんと仲良く出来たとしても2人になった場合どうすれば分からなくなる、とかは大いにありそうだ。
「まあ私もフォローするとは言ったけど、やっぱりちゃんと美月ちゃん個人と仲良くなれなきゃ意味ないよねー」
「た、確かに」
「んで!そこで出て来るのが試練なわけ!」
やっと本題に入れるみたいだ。
「つまり俺と成瀬さんがちゃんと2人として仲良くなるためにやることってことか」
「そう!」
成る程な。成瀬さんと仲良くなれるなら、俺としてありがたいことだ。その試練、乗り越えてみせようじゃないか!
「んじゃ、その試練の内容を教えてくれ」
「OK!」
さあ、どうな内容だ?
「試練の内容は…どんな形でもいいから2人きりになって2人で遊ぶ時間をつくる、です!」
「な、成る程」
まあ、2人きりで遊んだらそりゃ仲良くなるよね…って!
「無理無理無理無理無理無理!いきなりそんな2人でって無理だろ!」
「無理じゃないよー!出来る出来るまーくんなら出来る!もっと熱くなれよ!」
いきなり○造先生出てくんな!
「そもそも、俺なんかと2人で遊ぶって、成瀬さん楽しくないだろ!」
「何言ってんの!そこを楽しませるのがまーくんの役目でしょ!」
「うぐっ、そ、それはそうかもしれないけどさ…」
仁美のもっともな指摘に何も言えなくなってしまう。
「大丈夫!この壁を乗り越えたら基本的に恐いものはもうなくなると思うから!」
「俺はその壁に押しつぶされる気がして恐いんだけど…」
まあでも、多少の荒療治は必要なのかもしれない。
「ちゃんとお膳立てはしてあげるから!」
仁美にここまでサポートされておいて中途半端な結果で終わるのも申しわけない。いっちょ気合いを入れますか!
「…分かった。なんとかやってみるわ!」
「よく言った!大丈夫!失敗しても骨は拾ってあげるから!」
「そういうこと言うのやめてくれる!?」