1章①
「うへぇ…ねむい…」
彼女をつくる宣言の翌日、俺はいつもと同じ時間にいつも通り眠い目をこすりながらノロノロと通学路を歩いていた。あれだけやる気に満ち溢れていた昨日の面影はどこにもない。人ってそう簡単には変わらないよね!
…とは言ったもののこのままではダメだっていうのは分かってるつもりだ。
「どうする…どうするんだ俺…!」
考えろ…!いきなり女子とウィットに富んだジョークを織り交ぜたナイスなトークをするのは無理だ。とすると…
「…ナイスなトークってなんか語感がいいな…」
ダメだ、あまりの難題に脳が思考を拒否してしまった。決して本心からの言葉ではない。
考えろ。今までの中に何かヒントはなかったか。いや、あったはずだ。そう、例えば昨日の光希とのトークの中に…そう!そうだ!ヒントはオールウェイズマイブレインのインサイドに「ぐあああああやめろおおおおぉぉ!」
いつのまにか○ー語に支配されていた。いったん落ち着こう…
「ふぅ…」
落ち着いた。じゃあ再開だ。昨日の会話の最後光希はなんて言っていた…?
ーーーとりあえず女の子と目を見て話すところからだな!ーーー
泣いた。
「くそぅ…あの野郎バカにしやがって…」
まあ実際それすら満足に出来ていないのが現状だ。今の俺には丁度いいハードルなのかもしれない。
「よし!俺は今日女の子と目を見て話す…世間話はちょっとハードル高いから…挨拶する!」
やっぱり泣いた。
「はぁ…こんなんで本当に彼女なんか出来「なーにブツブツ言ってん……の!」ぐはぁ!」
突然背中に強烈な衝撃が加わった。なんぞ!?
「いってぇ!急になん…ああ、仁美か」
振り向くとそこには女の子が立っていた。
「なにーその態度。失礼だなー」
「いや出会い頭に背中に張り手かます方が失礼だと思うんだが」
「確かに」
おい。
「あはは、ごめんごめん…おはよ!まーくん!」
「…おう」
こいつの名前は三枝仁美、俺の数少ない普通に喋れる女の子だ。ちなみに後喋れる異性は妹と母親だ。…やべ、また涙が…
中学時代からの仲でずっと同じクラスだったが、高校では別のクラスになった。まあ通学路は同じだから別のクラスになっても疎遠とかにはなってはないが。
「ていうか、いい加減そのまーくんってのやめろって」
高校生にもなってその呼び方は恥ずかしすぎる。
「なによー学校ではちゃんと将也って呼んでるでしょ」
「この年になってまーくんはねーだろ。そう呼ばれると怖気が走るんだよ」
「やだ…ゾクゾクするなんて…将也ってそっち?」
「気持ちよくなってねーよ!」
俺はMじゃねぇ!どちらかと言うと…朝っぱらからやめようこんな話。
「もうずっと将也でいいじゃねーか」
「えーやだ」
「なんでだよ…」
わざわざ使い分ける方がめんどくさいと思うんだが…
「じゃあ呼び名を変えてみる」
「まーくんよりマシなやつにしてくれ…」
まあ無難なやつなら妥協してやるか…
「じゃあ…」
仁美は少しの間思案顔になりうつむいていたが、やがてにっこりと笑顔で顔を上げ、
「マーク」
「なんで!?」
なんでいきなり外国人!?
「嫌?じゃあ…カール」
「もはや将也の原型が欠片も残ってねえ!」
「じゃあじゃあ、カーネル!」
「勘弁してくれ!」
○ンタッキーのおじさんと同じ呼び名は嫌だ!
「はい選んで!どれがいい?」
え?ここから選ぶの?冗談でしょ?
「…もうまーくんでいいや…」
もう諦めた…みんなの前では言わないようにしてるみたいだからそれで我慢しよう…
「なんだー結局まーくんが気に入ってんじゃん。無駄な時間使っちゃったよ」
こいつ…
何を言っても無駄だと悟った俺はため息をひとつつき歩き出す。
「もういい…ほら行くぞ。遅刻する」
「はいよー」
仁美は素直に了承し、横に並ぶ。このまま学校に一緒に行くこととなった。




