2章②
「ちなみに将也、分かってる?」
「何を?」
「女の子と挨拶が出来た程度じゃ、女の子とコミュニケーションがとれたって言わないからね?」
「あ、挨拶だって立派なコミュニケーションだし!挨拶が出来ない人間に碌な奴はいないって婆ちゃんが言ってたし!」
ま、まあ、仁美の言ってることも一理あるけど?
「挨拶程度で終わってちゃいつまでたっても上部だけの薄っぺらい付き合いしかできないんだよ」
「もうちょっと言葉は選んでほしいけど、まあ同意は出来る」
「そこから一歩踏み込まないといけないんだよ!」
「なるほどな」
「ちなみに将也へのちょっと攻撃的な行動は一歩踏み込んだ結果だからね?」
「何故手を出さないとコミュニケーションがとれないんだ!?」
いつかこいつに大怪我させられるんじゃないだろうか…
「まあまあ、それは今は置いておいて」
俺にとっては生き死にに関わってくるかもしれない大事な案件なんだけど…
「…まあいい。んで?一歩踏み込む?俺は具体的に何をすればいいんだ?いきなり張り手をかましに行けばいいのか?」
「そんなことしたら下手したら牢屋行きかもねー」
あれ…?おかしいな。じゃあこいつは牢屋に入っているべきじゃない…?
「じゃあなんなんだよ」
「ふっふっふー。その答えは、これでーす!」
仁美はポケットから勢いよく何かを取り出した。よく見てみるとそれは…
「遊園地の…チケット?」
「そう!つまり、休日に一緒に遊びに行くんだよ!」
「お、おう」
案外まともな提案だった。というか意外性がなさ過ぎて反応に困る。
「ちなみに有効期限は明日まで」
「はや!ってことは明日行くのかよ!?」
「いいじゃん。どうせ予定ないでしよ?」
「…ないけどさ」
ちなみに明日は部活が休みになってる。
「じゃあ決まり!4人まで一緒に入れるから、滝本君は明日どう?空いてる?」
おい。俺と光希でなんで誘い方にそんな差があるんだ。
「明日はちょうど部活の練習もないし、暇してるな。俺も行っていいのか?」
「もちろん!じゃあこれで3人ね。んで、ここからが重要。あと1人、誰を誘うかだけど」
まあもちろん女の子だろう。このままじゃ代わり映えのしない面子だし。誰を誘うんだろうか。と考えていると、仁美はパッと後ろを向き、
「美月ちゃーん!ちょっといいー?」
そう宣った。まさか…
「…おい仁美!まさか成瀬さんを誘うのか…?」
「そうだけど」
「お前ってそんなに成瀬さんと仲良かったっけ?」
「何言ってんの。これも将也のためでしょ?」
「俺のため?」
「将也は美月ちゃんと部活でほぼ毎日顔合わせるでしょ?なら一番仲良くならないといけない相手じゃん」
「た、確かに」
「しかも、1学期中挨拶もまともに出来なかったとか聞いちゃったらなんとかしないとと思うでしょ」
「う…」
それを言われてしまうと何も言い返せない。まあ俺ももっと成瀬さんと仲良くなりたいと思ったばかりだし、もし一緒に遊びに行けるならそれは願ってもないことだ。
「しかし仁美、お前意外とちゃんと考えてくれてたんだな…なんか、ありがとな」
「いやー、面と向かって言われると照れますなー…」
はにかんだ笑顔を見せる仁美。なんだかんだこいつにはいつも世話になっt
「今さら将也のことなんかどうでもよくて、ただ単に遊園地に行きたかっただけなんて言えないね」
「俺の感謝の気持ちを返せ」
そういうことは心の中に留めとけよ!本当にこいつは…
「まあ、三枝の本心はどうであれ、お前にとってはいい機会じゃないか?」
「まあ、確かに。いざとなったらお前だけが頼りだからな光希…!」
「ははっ。まあ何が出来るって訳じゃないが任せとけ」
「心の友よ!」
そんなやり取りをしていると、成瀬さんがこちらに歩いてくる姿が目に入った。
「何かしら三枝さん」
「ごめんね美月ちゃん、いきなり呼んで!ちょっと話があってさ」
「かまわないわ、用って何かしら。…っ」
「…ど、どうも」
ふと、成瀬さんと目が合いぎこちない挨拶をする俺。実はあれから全然話せてなかったりするのだ。あの時は彼女から声をかけてくれたからなんとかなったが、いざ話しかけようとするとなんと話しかけていいか分からないんだよな…。だから仁美の提案は俺にとってはかなりありがたい。
「美月ちゃん、明日って用事ある?」
「明日?何故かしら?」
「実は遊園地のタダ券もらったんだけど、有効期限が明日までなんだよね。だから一緒にどうかなーと思って!」
「遊園地…」
思案顔になる成瀬さん。ここは仁美に頼ってばかりじゃいけない…!
「ど、どうかな成瀬さん!もし予定がなかったら一緒に行かない…?」
「っ、土田君も一緒に行くの?」
「う、うん。あと光希も。なんか4人まで一緒入れるみたいで」
「どうも」
軽く挨拶する光希。こいつって成瀬さんと話したことあるんだっけ?すごいな、堂々として…
「どうかなー美月ちゃん?」
改めて問いかける仁美。さあ、どうなる…!
「…分かったわ。予定も無かったし、お邪魔させてもらうわ」
よっしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
「やったー!じゃあ詳しくはまた連絡するね!」
「ええ、お願いするわ。じゃあ、私は戻るわね」
「了解ー!ありがとね!じゃあ私も自分の教室戻るねー。またラインするから」
「ありがとう三枝さん」
自分の席へ戻っていく成瀬さん。俺はその後ろ姿をぼーっと見送っていた。仁美が何か言っているようだが、俺の意識はそちらに全く向かなかった。
「…お前…好きになったか?」
「バッ…!」
いきなり爆弾を投下してくる光希。いやいやいやいやいやいやいや!
「そ、そんな訳ないだろ!?俺は部活のこともあるしもうちょっと仲良くなっておかないとなって!」
「はいはい、そういうことにしておこうか」
「…光希ェ…」
なんだこいつの全て分かってますよ的な態度は…本当に違うからね!?
「まあ、頑張れよ」
そう言い俺の肩を叩き去っていく光希。
「…おう」
それを見送りながら俺は頑張ろと決意し直した。決戦は明日だ…!




