1章⑮
成瀬さんが俺に?謝りたいこと?なんかされたっけ?俺が謝るならまだしも…いや、何がまだしもなんだ…
「俺、成瀬さんになにかされたっけ?」
「……今日の練習で…」
「練習…?」
「…結構酷いこと言っちゃったかなって…全然ダメ、とか」
「あ、あ〜…」
ものすごく言いづらそうに話す成瀬さん。あのことね。確かに心にグサっとはきたけど…
「でもあれは言われても仕方ないかな〜とは思ったけどね。実際その通りだったし」
「でも、もうちょっと言い方があったんじゃないかなと後から後悔して…」
「確かに清々しいまでに直球勝負だったね」
「…っ。私そういうときに思ったことをそのまま言っちゃう癖があって!ご、ごめんなさい…」
俺の言葉にしゅんとしてしまう成瀬さん。あ、可愛い。
「あ、じゃあ今日帰りに声をかけてくれたのってこれを言うため…」
「え、ええ。そうね。言ってしまった後からずっと気になってて。下校中に土田君を見たとき何か考え事してるように見えたから。そのことを気にしてるのかなって思ったら思わず声をかけてしまって…結局この別れるタイミングまで切り出せなかったけど…」
ぽつぽつと話す成瀬さんを見ていて、この子に対する俺の印象がどんどん変わっていくのが分かった。今まで俺は、彼女は何でもそつなくこなす完璧超人なんだと思っていた。周りにもそう思っているやつは沢山いるだろう。
だけど、それは違ったんだ。
確かに、成瀬さんは勉強はできるし運動もそつなくこなす。だけど、他人から見ればそんなこと、と思うようなことで思い悩んだりもするし、別れ際まで言いたいことを切り出せないような不器用さもある1人の女の子なんだ。
俺は、この子ともっと仲良くなりたい、と思った。
「…成瀬さん、俺さ。今日の練習でああ言われて、色々考えてさ。1つ目標が出来たんだ。」
「目標?」
「そう、目標」
練習が終わってからずっと考えてた俺の目標。
「成瀬さんってすごく楽器が上手いよね?俺は、まあまだ楽器を始めたてだからあれだけど、成瀬さんのように演奏出来ることはないだろうなって心のどこかで思ってたんだ。成瀬さんは才能があってすごいなって」
「……」
「でも、今日の練習のときの成瀬の指摘を聞いて考えが変わった。音楽ってあんなに色々考えて演奏するんだって。成瀬さんは、もしかしたら才能があるのかもしれないけど、それだけじゃなくて、ちゃんと色々考えながら練習して、努力してきたからあんなに上手いんだって思ったんだ」
今までの俺はただ音が鳴らせれば満足だった。周りと合わせる、なんて頭では分かっていても、ちゃんとそれがどういう意味かは考えてこなかった。
「そう思ったら、なんか俺ももっとちゃんと練習すれば、成瀬さんみたいとまではいかなくても、もっと上手くなれるんじゃないかなって。それで上手くなって…成瀬さんと最高の演奏をしてみたいなって!それが今日決めた俺の目標!」
「…っ」
勢いよく言い切ると成瀬さんは驚いたように目を見開いた。…改めて考えるとすごくキザなこと言ってるな…ヤバい、どんどん恥ずかしくなってきた…!
「せっかく成瀬さんみたいな人がいるのに俺が下手なせいでいい演奏が出来なかったらもったいないしさ!でもそうなると、俺一人では上手くなるの限度があるし、成瀬さんに教えてもらいたいなって!ど、どうかな…?」
あせあせと俺が伺うように言うと、先程まで驚いていた彼女は、
ニコッ
「ええ、とても素敵だと思うわ」
と、見るもの全てを恋に落としてしまいそうな笑顔でそう返してくれた。やっぱりか、可愛い…!
「……」
「…?どうしたの?」
本日2度目の笑顔のあまりの衝撃にぽかんとしていると、小首を傾げて不思議そうな顔をされてしまった。やめて!その仕草も可愛い過ぎて俺が死んじゃう!
「い、いや!何でもない!成瀬さんの支持もいただけたし、明日から2人で頑張ろう!っていうか俺が頑張るのか」
「ふふっ。そうね。明日からビシバシいくから覚悟してね」
「お、おう!」
若干どもりながらも勢いよく答える。俺、成瀬さんにビシバシされちゃうの…?…ハァ、ハァ…おっとヤバい。こんなところはお茶の間にはお見せできない。
「よし!じゃあ今度こそ帰るね!」
「ええ、送ってくれてありがとう。さようなら」
「うん!じゃあまた明日!」
うし!明日からも頑張るぞい!
「ちなみに」
「え、何?」
「村山先輩のことも忘れないであげてね」
「あ…」
ごめん先輩忘れてた!




