1章⑭
成瀬さんの家は俺の家から徒歩だとそこそこ離れたところにあるみたいだ。学校からの方角は同じだけど、途中で十字路を逆に行くみたいだった。それでも高校の同級生で考えると、ご近所に分類されるだろう。中には市外から電車で来てるやつもいるからな。
「ここまででいいわ土田君」
「え?あ、もしかしてもう見えてる?」
「ええ。私の家はあそこ」
そう言い少し離れたマンションを指差す。
「…おお」
そこにあったのはいかにも高級です!と言わんばかりのオシャレなマンションだった。いや、まあ偏見なんですけどね…
「送ってくれてありがとう」
「っい、いや!まあついでだったからね!コンビニにどうしても行きたかったからさ!」
「ふふっ、そうなんだ」
お礼を言われ、恥ずかしくなりつい誤魔化してしまったけど、これは成瀬さんじゃなくても誤魔化きれてないよな…
「でも、土田君も三枝さん以外の女の子と話すのに慣れてきたんじゃない?」
「まあね…成瀬さんに鍛えていただきましたから」
ここまでの道中、成瀬さんと色んな話をした。天気の話、授業の話、天気の話、時事ネタ、音楽のこと、天気の話、ってあれ?天気の話多くない?
そんな会話の中でちょくちょくイジられる俺。テンパる俺。笑う成瀬さん。それが延々と繰り返され、次第にそれが気持ちよk……コホン。何でもないです。俺はどちらかというとSだからね?
ま、まあ何が言いたいかというと、結構耐性がついてきたってこと!成瀬さんとこれだけ話せたら他の女子なんてわけない…はずだ!
そして、そんな中で彼女に言わなきゃならないことがあったことを思い出していた。
「…あの、成瀬さん?」
「なに?」
「いや、ええっと、成瀬さんに謝らないといけないことがあって」
「?」
そう、謝らないいけないこと。今日の部活のときの失態のことだ。
「あの、部活のとき、成瀬さんのことを名前呼びしてしまって…」
「…ああ、あれ」
どうやら思い出したようだ。出来れば記憶から完全に消去していて欲しかった…
「いや、あれには事情があって!たまたまタイミングが重なっただけで成瀬さん本人に言ったわけじゃなかったんだ!」
「どういうこと?」
事情説明中…届け俺の想い…!
「…っていう、こと、なんだけど…」
「……」
「…な、成瀬さん?」
「……ッ。アハハハハハハッ!」
もう我慢出来ないというように、お腹を抱えて笑いだす成瀬さん。こんなに大笑いする彼女は初めて見たよ…
「成瀬さん…」
「…ッ。フフッ。ご、ごめんなさいっ…でも、まさか私と会話するシミュレーションをしてたなんてっ…。フフフッ」
成瀬さんにこんなに笑っていただいて、俺は満足だよ…
「と、とにかく!そういうことだから、ごめん!」
「ハア、ハア…ご、ごめんなさい。全然気にしてないから大丈夫よ」
「ほ、本当に?」
「ええ」
ああ、良かった…これで肩の荷がおりt…
「まあ、あの話し方はどうかと思ったけど」
「グハァッ!!」
言葉のナイフが刺さり、崩れ落ちる俺。き、効いたぜ今のは…
「まあ、私は全然気にしてないから。…別に名前呼びしてもらっても…」
「え?」
「な、何でもない!」
よく聞こえなかったから聞き直すと、プイッとそっぽを向く成瀬さん。少し顔が赤い…?まあ、成瀬さんがそう言うならいいか。
「じ、じゃあ俺はもう帰るから!」
「…っ。ちょっと待って!」
「え?」
家にも到着したし、言いたかったことも言えたし、そろそろ帰ろうと踵を返そうとしたら引き留められた。どうしたんだ…?
「どうしたの成瀬さん?」
「……」
俺が問うと、少し思いつめたように目を伏せる。
なんだろう?そういえば、なぜ声をかけられたのか依然として分かっていなかった。何か言いたいことでもあるのだろうか。
彼女が話始めるのを待つ間、俺から話始めるわけにもいかず、辺りは静まり返ってしまった。通りに面していないため車が走る音も聞こえない。
「…あの、ね」
「…うん」
「私も、土田君に謝りたいことがあって」
「…え?」
俺に謝りたいこと…?