1章⑬
「成瀬さんの家ってどこらへん?ここから近いの?」
ここまで同じ道ってことはご近所の可能性もある。でも今まで下校中に彼女を見たことはなかったけどなぁ…
「…そんなに近くはないわね」
「あ、そうなんだ」
ここからもっと先なのかな?
っと、そうこうしているうちに家の前に到着した。
「俺の家ここなんだよ」
「……」
自宅を指差して示しつつ成瀬さんの方を見ると、彼女はジッと俺の家を見ながら固まっていた。
「成瀬さん?」
「…っ。何でもないわ」
成瀬さんは慌てたように家から目を逸らす。何か気になることでもあったのか?
「じゃあ俺はここで。もう暗いし気をつけてね」
「…ええ。…さようなら」
成瀬さんの様子に少しの違和感を覚えながらも、特に気にすることでもないかと別れを告げて玄関へと歩を進める。いやぁ、まさか一日でこんなに話せるようになるとは思わなかったなぁ。しかも一緒に下校までして。
…ん?というか成瀬さんはなぜ声をかけてきたんだ?何か用事がーーっえ?
「な、成瀬さん?」
「…なに?土田君?」
別れてすぐに声を掛けたからか、キョトンとした顔で振り返る成瀬さん。その気持ちは十分分かる。なぜ俺がそんなことをしたかと言うとーー彼女が、俺たちが今まで歩いてきた道を戻り始めたからだ。
「えーと….これからどこに行くの?」
「?家に帰るんだけど」
さも当然だと言わんばかりの態度でそう返してくる。いやいやいや!
「な、成瀬さんの家って、もっと手前にあったの?」
「……」こくん。
無言で頷く成瀬さん。
「ええ!?」
どゆこと!?
「ご、ごめん成瀬さん!俺がもっと早く指摘してればっ!」
「土田君は私の家の場所知らないから、それは難しかったんじゃないかしら」
「ですよねぇ!!」
そんなことが出来たらエスパーだよ!
「で、でも、とにかくごめん!」
「…ふふっ。土田君は何に謝ってるのかしら」
俺の必死さが面白かったのかクスクスと笑い出す。確かに俺が悪いわけじゃないか…
「結果的に家に着くまで来てもらっちゃったし…な、なら家まで送るよ!ほら、もうかなり暗いしさ!」
なけなしの勇気を振り絞ってそう叫ぶ。半分は本当だが、まだ成瀬と話していたいという気持ちもあった。
「いや、悪いからいいわよ。私は別に大丈夫」
こ、断られた…い、いや諦めるな土田将也!お前ならもっとやれる!
「いやほら、ちょっとコンビニ行きたいなって思ってさ!送ってくついでにコンビニに行けば一石二鳥でしょ?お互いwin-winの関係っていうか!」
「…そう?じゃあ…お願いするわ」
ぃいやったぁぁぁぁ!焦り過ぎてちょっと意識高い系みたいになったけど!俺は勝ち取ったぜ!
「じ、じゃあ荷物だけ置いてくるから、ちょっと待ってて!」
「ええ、分かった」
こうして俺は勢いよく家に飛び込み荷物を放り投げ、不審そうに見る家族を無視してまた家から飛び出すのであった。




