表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/19

買い物

僕とフェアリーがリビングで朝のコーヒーを飲んでいると突然、

「隆文いるー?」玄関で声がした。

「どちら様でしょう?」リビングから走り出たフェアリーが声をかける。

「どちら様と言う、あなたのほうこそ、どちら様?」

来客は挑発的に答えた。

「私はここの家政婦です。」

「はぁ家政婦?隆文も偉くなったもんだねぇ。」

何か言い返そうとしていたフェアリーに僕は声をかけた。

「フェアリー、その人はいいんだ。」

フェアリーは驚いてこっちを向いた。

目を大きく開いて文句を言いたげだ。

「森野の家内、智美です。」

来客はもったいぶって名乗った。

「『元の』が抜けてるよ。」

僕の言葉に智美はガハハと笑った。

「智美ちゃん、こちらは家政婦をお願いしている鈴木涼音さん。」

「フーン」と智美はそっぽを向いた。

「フェアリー、こちら林智美さん。僕の別れた奥さん。」

「失礼しました。それではこちらへどうぞ。」

フェアリーが応接間に案内しようとすると

「いいの、いいのダイニングで。私なんか客じゃないんだから。」

智美は勝手にダイニングに入っていこうとした。

「智美ちゃん、君はもうこの家の人間じゃない。応接間に行って。」

僕が怒ると、しぶしぶ応接間に入っていった。

「前の亭主が『頼みたいことがある』っていうから慌てて来たのに、

これだもんなぁ。あなたも結婚相手には気を付けないとだめよぉ。」

なんてフェアリー相手に憎まれ口をきいている。



「で、その相手はだれなの?」

僕が座るのを待ちかねて智美が聞いてきた。

「あの子」

僕がフェアリーに目を向けると、智美が大きな声を出した。

「エーッ、私に家政婦の服を選べっていうの?」

「どういうことですか、旦那様?」

フェアリーもやってきた。

「あのね」僕は一呼吸おき、姿勢を整えてから説明を始めた。

「再来週、佐藤の結婚式がある。僕も彼女も呼ばれている。

でも彼女はあまり服を持っていない。買ってあげたいけど、

僕は女性の服を選べない。それで智美ちゃんに頼みたいんだ。」

「ありえないでしょう。別れた女房に新しい女の服、探させるか?」

「彼女と付き合ってなんかないよ。」

「だいたい、その子いくつ?二十代前半にしか見えないけど。」

「19歳。」

「はあ20歳も違うの?大丈夫か、こいつ。」

智美は呆れ顔で大きなため息をついた。

「旦那様、服は自分で用意しますから大丈夫ですよ。」

フェアリーが断ろうとする声を遮って、智美が質問してきた

「結婚式の会場どこ?」

「ちょっと覚えてないけど、レストラン・ウェディング。立食だって」

「カジュアルな感じでいいのね。で、あなたは何着るの?」

「えっ、僕?何も考えてないよ。」

「あなたの服っとつり合いが取れないとおかしいでしょ。」

「旦那様だったら紺の麻のジャケットと白いカットソー、

下はスラックスを合わせるというぐらいでどうでしょう。

まだ暑い日、続いていますし。」

フェアリーが代わり応えてくれた。

「フン、悪くないかもね。」

智美は面白くなさそうに言った。

「予算は?」

「3万とかでどうだろ?」

智美が眉間にシワを寄せた。

「で、何を買えばいいの?」

「何が必要とかいくらぐらいとか、さっぱり分からないから頼んでるんじゃない」

「旦那様、本当にいいんですよ。私、何も...」

智美は再びフェアリーの話を遮った。

「分かった。3万円でカジュアルなフレンチに行くための一通り

用意すればいいんだよね。」

「予算は多少オーバーしても構わないから」

それを聞くと智美は肩をすくめた。

「東急前まで車出してちょうだい。」



フェアリーが慌てて身支度をして、いざ出発。

ところが車に乗る時に、また揉めた。

フェアリーが後部座席を示したのが気に入らなかったらしい。

「この家は、お客様を狭いところに押し込めるのかしら?」

フェアリーは何も言わず後ろに乗り込んだ。

智美は助手席に何度も座り直し、シートを叩いた。

「やっぱり、この車の助手席が気持ちいいわぁ。」

智美の声にフェアリーはふてくされて横を向いた。



車を降り、二人だけになると、智美はフェアリーに指示を出した。

「いろんなお店があるけど、今日は時間優先でここに絞ります。

ターゲットは大人し目のワンピースかブラウス、スカートの組み合わせ。

あなたの年齢なら2階ね。

まずフロアを一通り回って気になる店を5つまで選ぶ。

それから、それぞれの店で気になる服をチェック。

全部の店をチェックし終わったら、上位3位に絞り込んで私に報告。

選んだ理由は後で説明してもらうからね。

制限時間は今から2時間。

今、11時だから1時までに裏のスターバックスに来てちょうだい。」

フェアリーは小走りで店に入って行った。

「動くのはそこそこ速そうね」

智美はその背中を見送った。



フェアリーが戻ってきたのは12時50分。

「智美さん、お腹すいてませんか?パスタとかいかがです?」

「そりゃお腹もすいたけど、選んだ服は大丈夫?

売れちゃうことは無い?」

「お店に頼んで3時まで取ってもらっています。

どうしてもってときは電話するって言ってきました。

写真を撮ってきたので、食べながら説明してもいいですか?

近くのパスタ屋さん、今ならすぐ座れます。」

「フーン、それなら大丈夫そうね」

智美も腰を上げた。



パスタが来るまでに、フェアリーは智美のPCに写真を送ると、

智美は食べながら、それを見て質問した。

「なんでこれを1位にしたの?」

「はい、予算も考えて、旦那様の服とのバランスを考えると

この色とスタイルが合うだろうと考えました。

2位の服も悪くないと思うんですが、少し大人しすぎる気もします。

逆に3位はカジュアルすぎて旦那様の服と合いません。」

そして自分のスマホに今朝出かける前に撮った、隆文が着る予定の

服を表示させ、合わせてみせた。

「バッグは?」

「少し安めに抑えたので、このクラッチバッグを入れても

予算内です。」そういってもう1つの写真を指差した。

「フーン」智美は手を頭の後ろで組み、口を大きくへの字に曲げた。

「面白くないわね。ケチをつけて泣かせてやろうと思ったのにさ。

私がいなくても全然大丈夫だったんじゃん。」

少し怒ったように言った。それから少し考えて、こう切り出した。

「でもさ、この服だけだとちょっと寂しいよね。」

「どういうことでしょう?」

「アクセサリが欲しいよねってこと。結婚式なんだしさ。

例えばこんなのとかさ。」

そう言ってパールのネックレスとピアスを表示させた。

「欲しいですけど予算オーバーです。

旦那様にこれ以上、出していただくわけにはいきません。」

「そこでよ。」

智美が身を乗り出した

「私が買ってあげるっていうのはどうよ?」

「智美さんには、なおさら買ってもらう理由がありません。」

フェアリーがいうと智美はニヤリと笑った。

「もちろん只じゃないわよ。

ウチにも来てほしいのよ。とりあえず1ヶ月、土曜日だけ。」

「土曜日ですか?

10時から3時ぐらいまでなら大丈夫ですけど。」

「じゃあ決まり。気にいったら延長してあげてもいいわよ。」

「あんまりこき使うと追加料金いただきますよ。」

フェアリーがやり返すと、二人で顔を見合わせ大笑いした。



「旦那様、買い物終わったんで迎えに来てもらえますか?」

フェアリーから電話がきたのは、もう七時近くになっていた。

迎えに行くと、フェアリーと智美の前には大きな紙袋が

いくつも並んでいた。

「涼音、しばらくの間、毎週土曜日はウチに来てもらうことに

なったから。料金は3か月分、前払いで済んでる。

隆文もそのつもりでね。」

何のことかわからない僕にフェアリーが笑って説明した。

「智美さんに服をたくさん買っていただいたんです。」

「そうなんだ?」僕が答えると

「ホラ、やっぱり気が付かない。私の勝ちだね。」

智美が笑いだした。フェアリーはちょっと怒った声でこう聞いた。

「旦那様、私の服に何か気が付きませんか?」

そういえば彼女が今朝とは違う新しい服を着ていた。

「旦那様もさすがに気が付くと思ったんだけどなぁ。

これで1回、ただ働きじゃないですかぁ。」

フェアリーは僕に文句を言った。キョトンとする僕の顔を

見て、二人で大笑いした。

買い物袋を車に載せて、後部座席に乗り込もうとする

フェアリーを智美が止めた。

「あなたは助手席に座りなさい。そこはもうあんたの場所だよ。

だれが来てもあんたが座るんだよ。」

「家まで送るよ」僕が声をかけると。

「いいよ。別れた亭主にいつまでも甘えるわけにはいかないからね。」

智美は手を振りながら駅に向かっていった。

フェアリーは助手席座り、何度も叩いたりさすったりして

感触を確かめてから、こうつぶやいた。

「やっぱり、この車の助手席は気持ちいいわぁ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ