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00:機械仕掛けは真の鬼を有する

説明回です



 ――――昔を何百回繰り返すほどの、大昔。

その時代には、魑魅魍魎(ちみもうりょう)が世に蔓延(はびこ)っていた。


 その存在を認識されているのが普通で、その排除法に封印の仕方まで熟知している人間も、そう珍しくなかった。

 (あやかし)は元々異形だったものから、人間の怨念からも生まれるものまで。その数は人口の半分まで到達する。それは、これからもずっと続いていく世界の(ことわり)であるはずだった。


 だが、いつの日か転機(てんき)が訪れる。

『契約すれば対抗するだけの力をやろう』と、囁かれた甘言。

 悪魔が人間と契約し、今まで妖に恐れをなしていた人間の逆襲が始まった。


 妖と悪魔は、まったくの別物だ。

 妖は、ただ異形の姿で人間の恐怖心を喰らうもので。しかし、悪魔は誑かし獄界へ(いざな)い、その後契約を持ち込んで契約者の心の隙に乗り込み操る。

 それまでの作業が難しく面倒だが、その分悪魔は妖よりも強力になる。逆襲は、妖にとっては虐殺だった。


 目につく妖は殺されていき、その中で唯一生き延びたのが、麻妃の血である鬼の家系。鬼は一番人型に近く、違いと言えば派手な髪色と目。使わなければ分からない力のみ。


 その時代に残った鬼が始祖の鬼と呼ばれた。

 その始祖は女が二つと男が一つ。子孫を残すために女がそれぞれ子を産み、血が受け継がれていく。


 それが――――今の、鬼の四家。鬼四家(きしけ)と呼ばれる家系の正体だ。

 四つの色と四つの力を持って、それは現代で同族殺しの称号を謳われている。

 妖を滅ぼした人間に力を貸し、またその同種である悪魔を刈っていく様は、まるで。


 囁かれた蔑称は『働き(アリ)』。

 偉業を積み重ねていく度に伸し掛かる、始祖への裏切り。人間界を襲う異形の正体は、悪魔や、始祖への裏切りを許せない鬼の者が創り出した、自分の眷属である。


 その異形を殺すのが、鬼四家が設立した『緋狼会』と『搭楼会』の人外たち。中には鬼だけではなく、負けて服従させられた悪魔も混じっている。


 そもそも、家系として鬼が四つに分けられたのは、人間の血が混じった黒髪の鬼が生まれたからだ。

 初め生まれた時は忌むべき子なのだと蔑まれてきたが、赤と青の色しか現れない髪に黒が混じって何人も生まれた。それは、とある女の鬼が人間との間に子を()した結果。


 突然変異で生まれた、もう一つの色の鬼。

 それが――――麻妃が籍を置いている黒翅(くばね)四家(よんけ)の始まりだ。


 赤色の髪を持つ赤鬼族の、赤里(あけさと)一家(いっけ)

 青色の髪を持つ青鬼族の、青島(さおじま)二家(にけ)

 二つの家は考えた。異端の黒い鬼が増え、我ら鬼族の一員となるくらいなら、色で家を分ければいい。

 そして生まれたのが、別離された鬼の家。鬼四家となった原因だが、これでは鬼の四家ではなく鬼の三家となり、鬼四家にはならない。


 それで生まれたもう一つの色――――正体不明の色、または無色透明の鬼の色。

 それが色の定まらない(・・・・・)鬼の家。現在黒翅の家に使えている緑の名を持つ、緑中(えなた)三家(さんけ)

 黒髪が鬼の中で既に異端ではなくなり、これこそが異端だと呼ばれている。髪の色が定まらないが故に、能力で緑だと呼ばれる家。


 赤里(あけさと)の一家。青島(さおじま)の二家。緑中(えなた)の三家。黒翅(くばね)の四家。

 この場合で家の数字が意味するのは、生き残っている鬼の数の順位である。


 いろいろな障害がありながらも、現代まで続いている鬼四家。

 だが、障害はこれで終わったりはしない。今度は、鬼の血によって得られる力の差についての問題だ。


 一家の赤里には、人格を創り操る力がある。自他に使って辛いことや嫌な過去を分別することもできるが、破壊衝動を作り精神を壊すことも可能。

 二家の青島には、思考を操る力がある。簡単に言ってしまえば、人の行動や心を好き勝手にできるのだ。その代わり制限を守らなければ、疲労で植物状態になる可能性も。

 三家の緑中には、自然を操る力がある。植物は勿論、虫や空気の五大元素を使える。力の統一性がない上に多種多様なため、赤と青の鬼族に恐れられている。

 四家の黒翅には、森羅万象は操り干渉することができる力。鬼四家で一番強いと言われるその力は、秩序を壊したり、無から有を生み出したりすることも可能。神のような力だと、緑中の家系から崇められている。


 黒翅は一番数が少ない鬼の家だったが、緑中を服従させているのもあり、また強力な異能を持っているが故に、青と赤に恐れられた。

 蔑み血の繋がりを否定した二つの家にどう思われてもよかった黒翅(くろ)緑中(みどり)

 だが、赤と青はあろうことか自分達のことを差し置いて、政府に鬼の存在をばらしたのだ。それが、戒めになるように。自分の家に被害が及ばないように。


 勿論、黒翅と緑中は赤里と青島のことも報告し、道ずれにしたが。しかし、それだけでは済まない状態になってしまった。

 国から狙われる日々に、心に痛い監視の目。だが、鬼に反乱の意志はない。

 それを表すために国と協定した内容が、人間と同じように法律を守ることと、異形を退治すること。そうすれば生活も保障するし、秘密を守ると誓った。


 この協定内容が、同族殺しだと言われた作業をするはめになった原因と、別称の『働き蟻』と呼ばれる理由となった。なんでも、女王ではないが国に従って動いている上、その戒めからは逃げられない運命になるから、らしい。


 日常で蔑まれながら。珍しく崇拝されながら。よくも悪くも無抵抗に生きていく鬼四家。

 ずっと悪魔の相手をしていくとなると、力と員が必要になる。


 鬼四家の中で一番強力なのは、黒翅。その次に緑中。人数が少ない強力。減っていくのは、案の定。悲しむは崇拝する緑中。

 その内、先祖は滅んでしまう可能性を恐れた。


 そこで考え実行された、対滅亡の案。『子鬼(こおに)強化政策』と言われるもの。

 子孫がなくなっていくことに恐怖を感じた先祖が、そうならないためにこれまでにない最上の強化を願った。

 どうすればいいか、どうすれば生き残れるか。そこで採用されたのが、体の中に機械を取り入れ、鬼の力を使い錬金術を新たに武器にすることだった。


 初め、まだ幼い鬼はその実験対象になり、どんどん死んでいった。体が与えられた重さに耐えられず、それを乗り越えたとしても待っているのは過酷な訓練。何よりも、精神が追い付かず壊れていく例が多い。逆に減っていく血族を前に、なす術がなくなった。


 またどうすればいいか悩みぬいていた時、一人の鬼がとある子鬼に会う。その子鬼は悪魔と契約した酔狂な性格をしており、小さな体に魂を二つ所有していた。子鬼は寿命が少なく、生きるために悪魔と契約したのだと。子鬼は十に満たなかったが、三年前には既に死ぬ運命だったと。それでも、悪魔と契約してまで生きたいと思おう子鬼は珍しい。


 子鬼は言った。魂が増えて寿命が増えたのは、魂と入れ替えて過ごしているから。それなら、一つの魂が死を迎えようとしていても、もう一つの魂で生きていれば死にかけている魂も復活する。精神が耐えられなければ、耐えられるだけの違う精神を作ればいい。

 鬼はその発想を悪魔の甘言と変わらぬものとし、相手にしなかった。だが、言っていることは正鵠射っている。


 赤里の鬼の力を借り、子鬼に一つの新たな人格を与えた。すると、どうだろう。一つは日常生活で使われる純粋な魂となり、もう一つは殺戮を娯楽とする純粋な衝動の魂となった。やがて黒翅の子鬼は全て強化され、早死にする鬼が激減。

 鬼の案は、成功した。


 数年が経った。

 赤里の鬼ともそれなりの友好ができ、黒翅は滅亡を回避し、崇拝する緑中も満足に暮らしていけるように。

 だが、それを良いように思わない除け者にされた鬼の家――青島家。力も他に比べて特化せず、知能がいいわけでもない。緑中のように崇拝することを望んでいない。むしろ、自分たちが崇拝されるべきだと思っている、その青鬼の家。


 自分たちこそが古から続く、由緒正しき鬼。

 青島の鬼は、鬼四家の中で内乱を起こした。赤里の次に人数が多い青島。力はないが、無碍にできる問題ではなく、対抗するのに強化された鬼が戦闘に出される。

 反抗された三家は、勝利を確実なものだと思っていた。


 だが、何の策もなしに行動するほど、愚かでもない。

 青島は能力を使って人格を乱し、正気を消して殺戮衝動の塊と化した鬼を殺していく。思わぬ彼らの勝算に、三家は押される。


 ――――――だが、結局。

 戦闘の末、青島が勝つことはなかった。


 誤算は一つの鬼。黒翅の強化された子鬼の一員。正気を消されたと思われた鬼の中の例外で、唯一正気を保って青島を圧倒した。殺戮衝動に支配された仲間までを利用して。


 その鬼の人格(たましい)は、特殊だった。

 殺戮の情しか感じない新たな人格に、表情があった。語りかけてくる優しげな声があった。まるで心があるかのようなその人格には、本当の人格とは別の過去があった。

 つまりは、他の存在の魂が入ったようになっていたのだ。


 その魂に殺戮する以外の感情と心、壊れないようにと幸せだったらしい過去があったからこそ、その人格を有する子鬼はたった一人で一家を殺せた。

 後に青島は裏切りの家系として、赤里に服従されることとなる。また、反乱は自らの首を絞めることとなるため、政府には決して漏れない秘密とされた。


 して、一人で生き残った黒翅の子鬼はどうなったか。

 それは、畏怖と尊敬を込めて。また蔑称を込めて【黒の裁き】と謳われた。


 その子鬼の名前を…………黒翅麻妃という。

 そして、体の所有者の問いかけに答える人格を、真の鬼という意味で真鬼(まき)と呼んだ。


 嗚呼――――――『貴方は必ず』

『私の役に立ってくれるでしょう』と。



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