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01:機械仕掛けは疲労する


 中二病。その残念極まりないものが、転入早々アルトに付けられたレッテルだった。

 田舎の中学校の名前を出し偽造して、入学生ではなく転入生としてこの学校に来た彼の自己紹介は、衝撃的の一言に尽きる。


 まず『麻妃以外云々』で、名前を出された彼女にクラスメイトの目線が集まり。

 次に『宜しくするなよ』で、アルトの顔を見て目の色を変えていた女子生徒が肩を落とす。

 更に『俺は高位の悪魔なんだからな、人間如きと馴れ合うわけないだろ!』で、違う意味に目の色を変えたクラスメイトは。

 最後に『ふんッ』と鼻で笑った偉そう笑みを浮かべ、やりきったと胸を張る彼に生暖かい空気を作らせ歓迎した。


 今だから追記しておくべきだろう。このクラスはあからさまな被虐趣味(駿)や、授業前の休み時間にいなくなる放浪癖(和葉)に慣れているため、触らぬ神にたたりなし精神な生徒と好奇心満載の生徒が多いのだ。今頃中二病一人――いや、一匹増えたところで同様しない。それどころか、容姿がよくハーフだということもあり、彼は人に囲まれていた。戦闘狂な彼は弱い人間を見下していが、今ではちやほやされて満更でもないように笑っている。


 それに対し麻妃は。

 これほどないほどまでに機嫌が悪かった。


「、ねばいいのに……」

 ポツリ、と。

「きぃちゃん、ぼかしているつもりかもしれないけど、普通に意味分かるよ」

「きぃちゃん、残念だけど行動しない限り死なないよ。騒がしいの嫌いかもしれないけど、昼休みまでには皆興味なくしてるよ」

 クラスメイトがアルトを見る目とはまた違った温かい目で麻妃を見る双子、早坂姉弟は八つ当たりで投げられたノートを避けながらカラカラと笑う。

「もしかして、ラブっちゃってるのかなー」

「もしかして、嫉妬しちゃってるのかなー」

「「きぃちゃんに春が来たとか!」」

 手を取り合ってぐるぐるとまわる。騒がしい傍で騒がしい姉弟が騒がしくしている。ああ、どうしよう、窓の外に投げ飛ばしたい。

 短く嘆息する。

「……変な勘違いしないでくださいね。煩いのは嫌なだけですから」

「またまたこのツンデレめ!」

 背後からの声に凄まじい速度で振り返った麻妃は相手を確認せずにノートを投げつけた。誰がツンデレだ誰が。はたして一体、駿はどこからそういう知識を拾ってくるのだろう。

 人間として(・・・・・)過ごすようになって六年。彼はまだ(・・・・)二年目に入った(・・・・・・・)ばかりだと(・・・・・)いうのに(・・・・)

 投げられたノートをキャッチして凝視し、何を思ったか自分の机に持っていこうとしたのを止めようとすると、行き成りぐりんと振り返りその目はアルトへ向いている。アルトは人の壁により見られていることにまだ見付いていない。ノートの次はアルト、と何故そこまで凝視するのか疑問に思いながら、目を彼から離さない駿の手からノートを取り返す。そこでようやく、アルトが視線に気付いた。

 見つめ合う――というより、睨みあう?

 カッと効果音の付きそうな感じで目を大きく開いてアルトを見る駿に、きょとんと瞬きをしながら応えるように視線を逸らさない彼。ぶつかり合う黒と赤。

 アルトをまわりを囲んでいたクラスメイトも見合う二人に気付いて、話し声をやめて駿を振り返る。先に動いたのは、駿だった。

 ツカツカと目を逸らさないまま自分の席に戻ろうとしていた足を動かす。なんとなく気圧される無表情と開いたままの目に、群がっていたクラスメイトはアルトの目の前にスペースをあて、駿を避けるように自分の席に戻って行った。

 机の前で止まった駿は、まだ目を離さないまま。アルトの手を取り、彼はされるがままに手を取られ、麻妃はノートを準備した。


「踏んでくださ、」

 ――――――――ぱあん!

 彼女が投げたノートは顔面にぶつかり、被虐趣味の鬼のライフはゼロに到達し死亡(誇張)。アルトは跳んできたノートに一瞬驚き、鼻をさする駿を見てニヤニヤしている。

「ハッ、さっきの奴らの態度といい、それといい。お前苛められてんの?」

 鼻で笑えば、しかし目を輝かせる駿。


「アハッ――――」

 それはもう、爛々と。


 恍惚としたような表情は、初めて麻妃と会った時のアルトのようで。一般人では理解できないほどの殺気をぶつけられれば、自然と悪魔の戦闘狂も先程とか違った笑いを浮かべる。ギラギラと光る目は紅くはないが、――そうなっているのだと、錯覚させられる。


「むしろ苛めてください」

「それで、倍返し、って?」


 シニカルに笑うアルトの言葉は、間違ってない。肯定も否定もせず、駿は似たように口角をあげた。

 ただならぬ雰囲気である二人がいながら、クラスメイトたちは和やかに談笑している。


「…………」

 正確にいえば、麻妃は騒がしいのが嫌い、というわけではない。嫌いなのではなく、ただ理解ができないが故に苦手なのだ。


 常識から外れた存在は、常に孤独だ。常識や凡庸から抜け出すと、得られるのは小さく秀でた何かの才能のみ。それは、天才や奇人、――そして人間ではないものが分類される。

 例えば、鬼だとか、悪魔だとか。結局、この騒がしさも一日すれば終わるだろう。しかし、人外の存在は常に孤独ではならないのだ。

 麻妃は、夏緒や捺美、駿と和葉の五人で共に、学校生活をそれなりに楽しんできた。しかし、一人ではないから孤独じゃないというわけではない。そもそも、五人集まっても孤独であるのは、何があっても変わらない。


 理由なんて、簡単なこと。

 麻妃も。捺美も。夏緒も。駿も。和葉も。全員が、人間ではなく(・・・・・・)鬼だから(・・・・)


 緋狼会の特攻隊でトップを誇る、真の鬼を有する黒翅の麻妃。

 子鬼の強化を拒み、その上で人間と生活することを許された赤里の捺美と夏緒。

 黒髪に生まれたが、鬼の力が弱く麻妃の従者として緑中に分類された駿。

 早坂姉弟の監視を買って出て、兄である和基の部下として籍を置く緑中の和葉。

 ――――そこに、また人外の悪魔が一つ、加わっただけ。


 ゴクリと息を飲む音が聞こえた。その発生源は、アルトと駿、どちらの喉だっただろうか。


 鬼で一番の戦闘狂である駿は、基本被虐趣味の変態と思われている。しかしその実態は戦闘狂が故に痛みを力に変え、殺戮を楽しむ悪魔のような男だ。一度戦い始めると骨を砕くまでやめないという、麻妃よりも上の残虐性もある。

 ――思えば思うほど、アルトと相性が良すぎる鬼だ。


 許可と求めチラチラと麻妃を見る二人は、首を振って一蹴され揃って肩を落とす。そんな戦闘馬鹿二人と横目に、双子が見下すように笑った。

「もー、本当に獣みたいだよね」

「でもやっぱり気になってたけどさぁ、」

「「あの転入生って、人外だよね?」」

 二人が探るような視線を麻妃に移すと、笑い声は増した。それはまるで、何も知らないクラスメイトが談笑している姿のように、和やかな表情。


「すぐるんの殺気に気付いて尚笑って交戦しようっていうぐらいだし」「かと言って自分の身を弁えてないで高慢な奴でもない」「周りが強すぎて弱いやつ認定されているけど、すぐるんって純粋なパワーでは結構強いよね」「戦ったらどっちが勝つのかな?」「負けたら鬼としてのプライドが粉々だよね」「というか鬼以外の人外が此処に来るなら、何か情報が来るはずなんだけど」「きぃちゃんは知ってたのかな?」「知ってて隠した?」「それとも知らなかった?」「搭楼会ですら知らなかった情報だったり?」「たかが人外、いや、悪魔の一つの情報が得られなかったって?」「それにしても正体を隠そうともせずに堂々と」「舐められてる?」「ああ、殺しちゃおうか?」「傲慢な悪魔に鉄槌を」「正義なる我らの敵に粛清を」「綺麗な顔を裏返して」「皮を薄く削ぎ取り」「血の一滴」「肉の一欠けら」「剥いでしまう爪の先まで」「苦痛と」「憎悪と」「悲痛と」「嫌悪と」「疼痛を」「注げて壊して」「貫いて服従させちゃおうよ」「満月の夜には化け物が舞い降り」「我ら鬼は駆って勝利を確実に」「強いからね」「強いもんね」「だから許せないね」「憎たらしいね」「僕らがいるのに」「私たちがいるのに」「のうのうと姿を現す悪魔」


「ねえ」「きぃちゃん」

「説明はして貰えるんだよね?」


 据わった目が四つ、睨みあう駿とアルトを示す。悪魔に対して強い憎悪を持っている双子は、自分の聖域として大事にしているこの場所――星城中学校に入られたことに激怒しているらしい。上司の自分が止めないといけない事実に、精神が疲労していく麻妃。

「説明は放課後に。今日一日はどうにか我慢してください、――アルトに駿、貴方たちもですからね」

 未だ(楽しそうに笑顔で)睨みあっている二人に釘を刺す。夏緒と捺美も不満そうにしているが、流石に自分の上司に逆らうことが出来ず、不承不承といったように頷いた。


 そこで一つ、問題が解決したように…………思えただけだった。



 何かを競っているようにも見えるように、クラスメイトたちが教室から出て行く。HRが終わった今、家に帰ろうとするものに部活へ向かうもの。前者はのんびりと教室から出て行くものが多かった。

 その中で、美術部に所属している麻妃はアルトと駿の三人で教室に残っていた。机に突っ伏している麻妃の表情は、御世辞にも良いとは言えない。

「アルト、…………………………死んでください」

「お? 殺り合うか?」

「俺も参加するか?」

「…………………………」

 死ねばいいのに。麻妃は筆箱からシャーペンを取り出し、駿の顔面目掛けて投げる。完全な八つ当たりを彼はパシッと受け止め、全力で近くのアルトにぶん投げた。それを、頭を少し前に倒すだけで避けると、黒板にぶつかって粉々になったシャーペンを見て、アルトが一言。

「ナイフだったら面白かったけどな」

「――――」

 今度は何も言わずに、ノートを千切りぐしゃぐしゃと丸め、鬼の力で大きな石へと変えてからアルトに攻撃。被害はアルトの後ろにあった廊下側の窓だった。

 良い子も悪い子も、人間は絶対に真似しないでください。

「てか何だよ、行き成り。何かあったのかよ」

「原因はお前じゃないか、アルト」

 その通りだ。麻妃は心内で同意した。


 朝のHRで強烈な自己紹介を打ちかましたその後、アルトの暴走ぶりは授業でも通常運転していた。項垂れている彼女は、今日ずっとそれをフォローしてきた。

 体育ではボールが鉄球のような威力を出し、理科では下級の悪魔と思われる液体状のドロドロとした何かが生まれ、休み時間の毎に人の教科書に落書きを始める。全世界の全人類に忠告する、悪魔は学校に行くべきではない(注:そもそも悪魔が存在する場合のみ)。

 そんなわけで麻妃はアルトの奇行の所為で迷惑被っているわけだが、本人に自覚はなく、無神経に聞いてくるわそんな彼に早坂姉弟がキレかかるわ。トラブルメーカーもいいところだ。

「なんだよー、俺は学校生活を楽しんだだけじゃねえか」

 そういう彼の横顔が悪魔らしい意地の悪い笑顔だった。

「ああッ、その顔ゾクゾクする!」

「勝手に興奮すんなよ。俺はいいけど、お前がやったら死刑な死刑」

 親指を下に向けるアルトに、両手で親指を立てる駿。その後中指を立てるアルトに小指を立ててニヤニヤする駿や、人差し指と小指を立ててコンコンするアルトに親指を突き合わせて某イーとティーをする駿が見られた。

 それが三十分ほど続いた。


 季節は春と夏の間。五月の中旬に入った今、星城中学校では体育祭が六月の上旬にあるため、もうすぐ競技に関する決め事や練習が始まるだろう。窓からは中庭が見え、そこには少し大きい木があり、その向こうに美術室がある。学校公認のお喋り部と化している美術部は、今の麻妃のように来るのは自由だ。勿論、できるだけ行く人は多いが。談笑している生徒の中には、昨日魔神の被害にあった瑞貴もいる。何時もと変わらない笑顔は、緋狼会の人間によって守られているのだ。


 風邪に当たり木が揺れ葉が落ちる。不意に、麻妃が顔を上げた。

 そのことに気付いた、意味の分からない勝負をしていた二人が、段々と近づいてくる足音に耳を澄ます。

 人外の鬼と悪魔の聴覚だからこそ聞こえる、微かな足音。一般人では知ることもできないだろうソレは、麻妃たちがいる三組の教室の前で止まった。


 扉が開けば、無表情。アルトや駿とは違い、少し長めの黒髪が本来なら綺麗な銀髪であることを知っている。

「お帰りなさい、和葉。もう放課後ですよ」

「ラブカの胃に突っ込んでやろうか?」

 意味が分からなかった。



更新遅れてごめんなさい……。今回はギャグ回ですね。

ラブカ:古代ザメ

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