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海岸通り  作者: 高嶺富士
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晴れの日

「海って大好き」

 カナが叫ぶように言った。見てると落ち着くよね、と心にもないことを言って答えた。

 海岸沿いの防波堤の上。並んで座る僕たち。水平線をながめるには絶好のポイント。

「私ホントに青が好き。世界中が青になればいいのに。あ、森林の緑もないと困るね。じゃあ青と緑になればいいのに」

 そしたら世の中平和になるね、と屈託のない笑顔でカナは言う。

「そうだね。人間も穏やかになるかもね」

 また心にもないことを言って答えた。

 けど世界中が青と緑だらけになったら、哀しみと憂いが充満する世界になってしまうじゃないか。そんな世界を必要とする人間がいるのだろうか。そんなことになるくらいなら、僕は世界に色はいらないと思う。無色でいい。無色がいい。心が投影されない世界が欲しい。

 カナにとって街は灰色に見えるのだそうだ。道路、ビル、マンション、人、全部がなにかの色と黒と白を混ぜた色をしているから、どれも灰色っぽい色になってる。とよく頬を膨らませている。鮮やかなのは、馬力のない小さい車とタバコくらいじゃない、と。

 きっと「街は灰色」というキーワードをどこからか拾ってきたんだろう。

「ねえ。お母さんまだ帰ってこないの?」

 素朴な疑問、といった風に訊いてきた。

「……ああ、そうだね。遅いよね」

「一ヶ月もいないんでしょ。変だよー。いいお母さんだったのに」

「うん」

 カナは口をとがらせて、なにやらまだぶつぶつ言っている。僕は風で白波が目立つ海を黙って見ていた。


**********


 大好きな海を見て、心のままに叫んだ。気持ちいい。

 防波堤の上。わたしの大好きな場所。ホントは立って眺めたいけど、落ちたら危ないって言われるからいつも座って見てる。

 潮風が顔にあったって、たまらない。青っぽい匂い。いい匂い。

 ユウヤがなにか言っていたけど、風にかき消されてよく聞こえなかった。きっと聞き逃しても困らないことだろう。

 それにしてもこの青色は素敵。スカイブルーっていうんだっけ。海に対してスカイブルーっておかしくないかな。でもほかにこの色を表す言葉を知らない。青でいいや。

 私が思い描く青は、すきっと明るい空の青。泳ぎたくなるような海の青。まさしくこの海の青。

 世界中がこんな色で染まったら、楽しいだろうな。わくわくする。きっとみんなもうきうきして、やる気もでてくるんじゃないかな。

 緑も好き。生き生きした葉っぱの緑。晴れた空のしたで、堂々と立っている山はかっこいい。山の周りを一周したくなる。いつも半分も行かずに帰ってきちゃうけど。

 だから街は嫌い。どこ見ても同じ。全然生き生きしてない。硬いだけのアスファルトの道。光を反射するビル。黒い煙。無表情で歩く人。誰かと同じ恰好しかしない人。つまんない。色なんて取ってつけたようなものばかり。自分が買うものの色は選ぶくせに、誰も空を見ない。髪の色にはこだわるのに、道端の花を踏んで歩く。

 ヘンなの。

 変といえば、ユウヤのお母さんずっと帰ってきてないみたい。どうしてだろう。ユウヤは遠くに行ったみたいと言ってた。

 このことを訊くといつもユウヤは変な顔になる。泣き笑いみたいな変な顔。

 どうしてそんな顔をするのか、わからない。

 波の音が大きくなった。自分の声さえ消されてしまうくらい大きな音の中で、私は大声で叫ぼうとして止めた。

 ユウヤはわたしと居て、楽しいのかな。


初投稿作品です。アジアンカンフージェネレーションの「海岸通り」(アルバム「ソルファ」収録)を聴きながら書きました。他人に作品を見せるということ自体が初めてなので、叱咤激励の程よろしくお願いします。

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