第十七話 買い物
「行っちゃったね・・・」
無邪気に喋るリリア。ほんの少しだけ、悲しそうな響きの混じった声だ。
「・・・・そう・・・だな・・・・」
セルフィの消えて行った場所を眺める龍輝。不思議な人であった。自分達をからかっておいて、自身の事は一切教えてくれなかった。MPBも見せてもらっていない。最後まで疑問を残したまま彼女は去った。
これ以上考えていても何も出ないだろう、と龍輝は溜め息を吐くとリリアに体を向けた。
「・・・・・、・・・買い物しよう・・・・」
「え、なにかうの?」
不思議そうに龍輝を見るリリア。彼は少しだけ楽しそうに答える。
「・・・・服・・・」
リリアは無言で自分の服を見ると、直ぐに満面の笑みで龍輝に抱き付いた。ハイハイとリリアを落ち着かせ、龍輝は場所も分からない服屋を探す事にした。
歩いて探して十数分、漸くそれらしい店を見つける事が出来た。服屋にしてはやけに屋根がカラフルな気がしたが、そんな事は直ぐにどうでも良くなり、二人は店の中へと入って行く。
棚が並び少し狭いが、その上には色とりどりの服が綺麗に陳列されていた。
リリアは目を輝かせて女性向けの服に近付き、広げてみる。彼女が着ている服とは若干デザインが違っている可愛らしいドレスだ。
龍輝も店の中の一つに目を付けた。が、それは服ではなかった。店内の隅、ひっそりと飾られていたバックに彼は見とれていた。
背伸びをしてバッグを手に取ると、さらにそのバッグを見入る龍輝。もう服の事は完全に頭から離れていた。
龍輝の見とれるそのバッグ・・・。色は黒で大きさは今彼が持っているポーチより更に大きい。両端に小さなポッケが付いたウエストバッグだったのだ。
今龍輝の持っているポーチは小さい。硬貨の入った袋を入れるだけで中はぎゅうぎゅう詰めになってしまう。だから大きめの、それも戦いの時、動きを制限しないような腰に付けるバックが欲しかったのだ。
まさか服屋で見つかるとは思わなかったであろう。それも用途だけではなく、彼の望む色、形まで忠実に再現した物が。
龍輝は黒が好きだ。理由、落ち着くからだそうだ。多分、理由はそれだけではなさそうだが・・・。ちなみに真っ黒は嫌いらしい。あまり良い印象を受けないからだろう。色気付く男子高校生のタンスの中は白と黒でいっぱいである。勿論、彼もその一人だっだのだ。
「お気に召し・・・ましたか?」
我に帰って横を見ると、質素な服を身に纏った金髪の女性が不思議そうにこちらを見ていた。言葉からして店員だろう、服に似合っていない、大きめのエプロンをしていた。
驚きつつも龍輝はバッグを見ながら返事をする。
「あ、ああ・・・・・。・・まさか服屋でバッグが売ってるなんて、」
すると店員は慌てた様に龍輝の言葉を遮った。
「あっ、いえ、それは私の趣味で作った物なんです・・・・」
(だからこんな隅っこに飾られていたのか・・・)
照れくさそうに喋る店員を見ながら感慨深く思う龍輝。まぁ、服屋が自分の作ったバッグを売り出そうとするなんて、なかなか無いだろう。彼女も龍輝と同じ、あまり自分に自信が無いのだろう。
「へ〜・・・、・・で、これ・・・売り物だよね・・・・?」
「え?、あっ、はい。そうですが?・・・」
変な事言った・・・。と龍輝は自分の頭を軽く抱える。が、とにかく、売り物と確定しただけ良しとしよう。と別の事で自分自身を慰める事にした。
「・・・・これ・・いくら・・?」
「はっ、はい!、それは・・・・・、・・・え・・と・・・・、・・・な、八千デーナですね、ハイ・・」
今値段付けただろう、と龍輝は思った。が、彼女の立場なら自分もそうしているので、彼は自重した。
龍輝は袋から数枚の硬貨を取り出す。この世界、レジもレシートも無いのでお釣りが必要ないなら、その場で支払ってしまって良いのだ。
「あ、ありがとうございます!」
驚いたような、嬉しそうな表情で硬貨を受け取る店員。龍輝は苦笑いしながらポーチを外すと、軽くなったズボンにバッグのベルトを通していく。
ベルトが硬く、少々手こずったが、なんとかバックルでベルトを固定し、交換を終えた。新しいバッグに袋を入れ、内心とても満足している所にリリアの声が聞こえてきた。
「リューキ〜」
そして龍輝は当初の目的を漸く思い出すのであった。そう服だ。バッグに夢中ですっかり忘れていたのだ。
店員と一緒に早足で声のした所に向かう龍輝。なにか変な事していないかと少しだけ不安になり、心臓に緩い痛みを感じた。
だが、そこで彼が見たのは、レモン色の可愛らしい服を着たリリアの姿だった。
「えへへ〜♪、にあう〜?」
似合っている。いやそうではない。
「どうした・・・・、・・・その服・・・・」
「きせてもらったの〜」
リリアの奥、試着室の傍に金髪の女性が立っていた。にっこりと微笑みながら龍輝の方を見ている。見た目からして店員の姉だろう。こちらよりも大人びている印象があった。
適当に会釈をして、龍輝はリリアの方を見る。
「それ・・・、・・買いたいのか・・・?」
「うん!」
本当はリリアの服を買いに来た訳ではない。大きいし、何より荷物が嵩張ってしまう。だが彼女を放ったらかしにしてバッグを買った人間が言える台詞ではない。弁明出来る訳が無いのである。
龍輝は諦めた様に笑うとリリアの着ている服の値段を店員に尋ね、ついでに今回の目的の物も探す事にした。
「すいません・・・・、・・下着って・・・・どこですか・・・?」
そう下着だ。彼はここ三日間下着を着替えていない。考えるまでもないだろうが恐ろしく不潔である。
元の世界の生活の事もあるが。流石にこの気分の悪い感覚に耐えられなかったのだ。
「下着ですね、それならここの棚にある・・・」
と、龍輝とリリアは店員達に下着コーナーの所へと案内されるのであった。
「ありがとうございましたー」
二人の店員の声に軽く頭を下げる龍輝、ブンブンと手を振るリリア。ただ龍輝の方には若干、疲れの色が見えていた。
どうやら、女性の買い物時間は長いという噂は本当であった。と言う事を身に染みる思いで感じた様だ。
それだけではない。このリリア、けしからん事に自分の着る下着を龍輝に選ばしてきたのだ。こればかりは彼も本当に参った。店員には笑われ、とても恥ずかしい思いをしたのだ。店員の笑いが微笑ましく思われたのか、呆れられたのかは分からない。多分、後者だろう。龍輝の勘だ。
ちなみに、店員の妹の方へ(確認してみたら本当に姉妹だった)バッグを褒めたらとても嬉しそうにお礼を言ってくれた。と言っても龍輝の褒め方なんて、ガッタガタの話し方でしかなかったのだが・・・。それを見ていたリリアの視線が少し恐かったのを彼は覚えている。
まだ外は明るいが太陽は西へと傾いている。すっかりお昼ご飯を抜かしてしまった。そういえばこの世界は一日何食なのだろうかという疑問がわいたが、リリアによって止められた。
「リュ〜キ〜、おなかすいた〜」
「・・・・、・・・・・。・・・、」
今はリリアの言う事を優先しよう、と彼女と一緒に寝る宿を探し始める事にした龍輝。人通りの少なくなった大通りを、気怠そうに歩く青年と嬉しそうに歩く少女。時折彼に寄り添って歩くのを妨害しているが、本人は嫌でもなさそうな顔をしている。
それはいい雰囲気のカップルにはとても見えないが、仲の良い兄妹には見えたのかもしれない。
快晴の空は夕焼け色に染まり始めていた。




