第十六話 ガンディア
その後は、少々大変であった。横転した馬車を起こすという大作業が始まったのだ。
幸いな事に、馬も車輪もほぼ無傷の状態だったので、馬車は直ぐに発射させる事が出来た。
忙しい重労働を終えた龍輝達は再び馬車に乗り込むと、散らかった荷物を軽く整理し、今度は馬車の出入り口に腰を下ろした。
足をぶらぶら揺らしながら龍輝を見るリリア。疲れた様に溜め息を吐きながら、自分が着ていたコートに付いた砂や草をはたき落とす龍輝。それを手伝うセルフィ。微笑ましいような、そうでもないような光景であった。
「おーい、見えて来たぞ!」
その声を聞いたリリアは入り口から身を乗り出し、馬車の進行方向に顔を向ける。龍輝も気になったので、コートを着込むと馬車の横の窓から顔を出した。
そこから見えたのは大きな町だった。ファロンよりは大きくはないが、城壁があり、その中は密集した様に建物が建っているのは変わらなかった。
水の流れる堀を渡って、馬車は真っ直ぐに道の真ん中を進んで行くと、やがてファロンで見た様な噴水のある円形の広場に付いた。
と、噴水の近くで馬車は止まった。セルフィは馬車から下りたので、龍輝達も下りて、トーマスの所に向かった。
トーマスは馬車から降りると、小さな袋を取り出して笑顔を三人に向ける。
「さて、ここがワシの目的地、ガンディアじゃ。もう君達の護衛はここら辺までで良いじゃろう。今から報酬を配るぞ。ほれ、」
と言って三人に金貨を渡してきた。龍輝はリリアと一緒に三枚の金貨、計六枚の金貨を受け取ると、袋に入れて、自分のポーチに仕舞い込んだ。
「ワシはこの町の更に奥に進んで商売仲間の所に行くつもりじゃが、一緒に来るかの?」
と、トーマスは提案してきた。が、龍輝より先に、セルフィの口が開いた。
「あ、いえ、私はここで下りる事にします」
「あ、あの・・・俺とリリアも・・・・ここで・・・・・」
言おうとした言葉を取られて、龍輝は少しだけ焦った。
トーマスは残念そうな顔をしたが、直ぐにもとの気さくな顔を見せると
「フム、そうか。では依頼はここで完了としよう。寿命が縮む様な思いをしたが、君達がいてくれて本当に助かったぞ。ありがとう」
頭を下げてお礼を言い、馬車へと乗りこんだ。
「またの。ではさらばじゃ!」
ヒヒーン、という馬の鳴き声と共にトーマスの乗った馬車はゆっくりとスピードを上げて龍輝達から離れて行った。
「じゃーねー、トーマスさーん」
リリアの声が聞こえたのだろう。馬車の端っこから小さな手が見えた。と言っても龍輝が気が付いた頃には見えなくなってしまったのだが。それを見ていたリリアは笑顔を龍輝に向ける。
なんだかよくわかっていない龍輝にセルフィが話しかけた。
「さあ、これからどうするつもりだね?、君達は」
いきなり話しかけられたので何を聞かれているのか分からなかったのか、少しズレた答えを龍輝は答えた。
「・・・え、と・・・・、・・・・・・明日には・・・・・ここを・・・・出ます・・・」
「・・・そうか。私は今日の内にここを出る。少し急いでいるのでね」
安心した様にセルフィは話しながら龍輝を見た
「そっか〜」
残念そうな、ほのぼのした様な口調でリリアが呟く。しかしセルフィは龍輝から離れると。
「なに、またどこかで会えるだろう。あくまで私の勘なんだが・・・」
そう言って爽やかな笑顔をリリアに向けた。
「ん〜そうだよね。」
納得したのか、リリアもいつもの笑顔をセルフィに向けた。彼女は満足そうな顔でまた龍輝に近付くと彼の耳元で呟いた。
「可愛い彼女をしっかり守ってやるのだぞ♪」
龍輝は黙って首をコクンと頷き、一瞬だけセルフィを見た。彼女は満足そうに二人を見ると、最後にゆっくりと別れを告げる。
「フフフ♪。・・・・では・・・・また、どこかで・・・・」
「・・はい、・・・・・・、・・・・・ありがとう・・・ございます・・・・」
「さよ〜なら〜♪」
最後にリリアへ手を振るとセルフィは小さめのマントをなびかせ、人ごみの中に消えて行った。
「・・・・・きっと・・、・・・必ず・・・・」
人々とすれ違う中、ポツリと呟いたセルフィの声は誰にも聞こえる事は無かった。




