第十四話 事情
「龍輝君、君のMPBを見せてくれないだろうか?」
うっ、と言う顔で固まる龍輝。はっきり言ってしまえば見せたくはない。だが、そこを「何故」と言われてしまうと彼は答えづらくなってしまうのだ。
今、龍輝は馬車の中でセルフィに質問攻めを受けていた。リリアからは特に何もないのだが、龍輝にくっ付くセルフィが少し気に入らないのか、彼女も龍輝に密着していた。ほぼさっきの様な状態である。
で、何故またこうなっているのかと言うと、それは数分前の事である。
ゴブリンを蹴散らし、馬車へ戻ろうかとリリア達のところへ戻った時、セルフィに肩を掴まれこう言われた。
(「龍輝君、何故君は闇属性の魔法が使えるのだ?」)
一瞬、思考が停止したが、この一言で龍輝は全てを悟った。この世界に常人で闇属性の魔法を使う者は存在しない。ワープなどの様に、世界の理が壊れる様な魔法も無い。
よくよく考えてみたら尤もだ。少し話しがずれるが、ワープなどが一般に存在していては、トーマスの様に知っている隣町へ、馬車を動かして行く必要などない。下手に扱ったり、悪い者が使えば、プライバシーの侵害、泥棒、など簡単である。
ちなみに、この「ワープ」、使用者である龍輝が実際に見た事無い場所を指定しても発動しない。ゲーム画面で見た場所もである。
龍輝は盛大に溜め息を吐く。チラッと横を見れば、セルフィがこちらを見ている。かなり真剣な表情だから龍輝は余計に困っていた。
闇属性の魔法が使えるなんて、良い印象は無いだろう。がこのまま黙り込むのも印象的には良くない。つまりどっちにしろ自分の印象は悪くなる。何か良い案がないか頭を働かせようとするが、美女、美少女、二人の密着がそれを妨害する。完全に困っていた。
龍輝は諦めた様に溜め息を吐くと、ゆっくり内ポケットからMPBを取り出し、セルフィに見せる様に広げた。
<プロフィール>
・名前 空ノ龍輝
・年齢 17
・種族 人間
・性別 男
<能力値>
・Power 758
・Guard 341
・Skill 378
・Speed 395
・Intelligence 547
・Mind 420
・Luck 102
・HP 15627
・MP 9852
<Job>
<MJB>
・NJB 武士 Lv Max
・DJB 暗黒魔導師 Lv 78
・HJB 無し
<SJB>
・冒険者 Lv Max
・探求者 Lv Max
・吟遊詩人 Lv Max
・傭兵 Lv Max
・辻斬り Lv Max
・処刑人 Lv 58
処刑人のレベルが上がっていた事に気付く龍輝、今はどうでもいいのだが・・・。ちなみに名前はここに来る前に書き換えていた。現実の中でユーザーネームを使うのも変な気がしたのだ。
セルフィは顔を、ズイっと近づけて、書かれている項目に目を通していく。それにつられてリリアも、グイっと顔を龍輝に寄せた。彼は、冷や汗を垂らして、その様子を見守っている。自分の心臓の音が強くなっているのを感じていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
一瞬、セルフィがこちらを向いた。変に身構えてしまった龍輝だったが、彼女は、フフッと笑い、
「・・・もしやとは思ったが、まさかこれほどの力の持ち主だったなんて・・・、正直、驚きを超えて笑ってしまいそうだ、」
そう言うなり、クスクスと笑いながら優しそうな目で龍輝を見た。はっきり言ってしまえば、馬鹿にされているのだが、彼は自分がどれだけ異常な力を持っているかは薄々感づいていた。だから怒れない。笑われる位の力なのだと無理矢理納得した龍輝であった。
一通り笑い終わったセルフィは
「さて・・・、君には少し話しておきたい事がある。どうやら君は自分の凄さをほとんど理解していないようだからな・・・」
「あっ・・・はい・・・・、」
「ふふふ、・・っと、何から話そうか・・・
と言って龍輝を見ると、この世界の事を話し始めた。
体をセルフィに向けて話しを聞こうとする龍輝。今の龍輝にとって、この世界の情報が聞ける事は、かなり重要な事であった。彼はこの世界の常識を殆ど知らない。地図ならMPBに付いている、が、その外は全く知らない。だからこそ龍輝には情報が必要だった。この世界の地理。普通の人達の平均的な力。出回っている、または知られている魔法。色々な武器、魔法石。ほぼ全部だ。
そんな龍輝の心など全く知らずに、セルフィは熱心に聞く龍輝を見ながら楽しそうに、自分の知る事を話していった。
簡単にまとめると・・・、
・この世界はミズガルズと言い、ファロン王国にあった大樹はユグドラシルと呼ばれ、この世の中心であると信じられている。
・この大陸自体は小さく、隣接する国は無い。、ファロンはこの大陸を統一している。
・ファロンに王様はおらず、最近別の町に引っ越した。なんでも、貿易で送られてくる品物に興味を持ち、一日でも早く品物を見たいが為に、港の近くに引っ越したらしい。ファロンに「王国」とつけているのは、王様が住んでいた後の名残だそうだ。
ここまではある程度、龍輝は知っていた。問題はここからである。
・遥か東には「ワ」と呼ばれる島国があり、他の国とは全く異なる技術、デザインを持ち、それで作った物を売って国の生計を立てる、かなりの貿易国らしい。その一方で、あくまでも売るのは物で技術は一切見せない、教えない。その上、貿易は自分の国では行わないという徹底的な鎖国を行っているらしい。
・闇の魔法はモンスターだけが覚える、邪悪な魔法である。また、光の魔法は聖職者のみが覚えられる特別な魔法らしい。
そして最後に、とても聞き捨てになど出来ない様な情報がセルフィの口から放たれた。
・「ワ」より更に東に大きな大陸があり、そこにある帝国はかつて資源困難で、他の国を攻め込み資源を奪い取っていた。しかし、ファロムの冒険者、兵士、その他大勢の国の団結により帝国を襲撃、圧倒、大陸の隅に追いやった。
だが、最近その帝国が悪魔を召喚し、力を借りて再起を起こそうとしているらしい。まだ噂程度の事でしかないようだが、近々偵察を行おうかと国同士で検討中だそうだ。
その説明をするセルフィの目は、やけに真剣だった。面白そうに聞いていたリリアも、おとなしく彼女の話しを聞いている。
全てを話し終えたセルフィは、少し疲れたのか、小さく息を吐いた。
「こんな一方的な説明になってしまって・・・・・・。・・・・私にも、もう少し会話力があれば良いのだが・・・」
「・・・いえ・・・、十分ですよ・・・・。・・・・おかげで、いろいろ・・・分かりました・・・・・・。」
だが、龍輝の中には疑問が残っていた。
「・・・・でも・・・、・・・・セルフィ・・・さん・・?」
「ん、どうした?」
「・・・・なんで・・・、・・・・そんな・・・、・・・俺に・・・・、そこまで・・・やさっ、・・・・してくれるんですか?・・・・・」
「?、」
「・・・俺が・・、・・・恐く・・・ないんですか・・・・」
闇の魔法が邪悪な魔法なら、それを使える自分は警戒される、いや、恐れるに決まっている。なのにセルフィは龍輝を恐れるどころか、笑い、更には情報提供をしてくれた。龍輝はそこがどうしてもわからなかったのだ。
ジッと見る龍輝にセルフィは少しだけ驚いた様な顔をすると、体を龍輝の方へと向けた。
「何を言っているのだ。困った時はお互い様という言葉があるだろう。闇の魔法を使える者が悪とは限らないし、こうやって私の話を熱心に聞いている君は恐ろしくも何ともない。リリアちゃんから聞いたぞ、君はとっても優しい人だって」
ちょっとだけ不意打ちだった。こんなに心の広いに出会えたのは、ほぼ奇跡に近いのかもしれない。嬉しさなのか恥ずかしさなのか、ブルッと体が震えた。
もちろん、その姿はセルフィに見られ、クスクスと笑われた。龍輝は少しだけ顔を赤くしてリリアの方を見た。彼女は二人の傍から離れて窓から身を乗り出し、空を見ているようだった。
「リューキみて〜、とりだ〜♪」
無邪気にリリアは鳥に向かって指を指す。龍騎はセルフィに軽く会釈しながら離れると、馬車の後ろから手と顔だけを出してそれを見た。遠くの方に見える鳥は羽を羽ばたかせ空を飛んでいた。
のんきそうに何かを考えながら鳥を見る龍騎、鳥に向かって口笛を吹くリリア、それを微笑ましく見るセルフィ、だが、彼女の目の輝きが一瞬変わった事に、二人は気が付かなかった。
鳥はこちらに気付いたのか、滑空しながら近づいてきた。だんだんと鳥のサイズが大きくなってくる、・・・カラス・・・いやそれ以上・・・・・・ワシ・・・・・さらに大きくなっていく鳥・・・・・・どんどん・・・
・・・どんどん・・・
・・・どんどん・・・
・・・・・・・・どんどん・・・・・・・・・・
「ピュイイィィィィィィィン!!!」




