第十三話 戦闘
「そういえば・・・、君達は何処を目指して旅をしているのだ?」
「・・え?」
龍輝は困った。さっきまで他の話しをしていたのに、突然話題を切り替えられたのだ。
考えようとした所でセルフィは手を開いた。
「あっ、いや、少々気になってしまってな・・・。言いつらい事があるなら、言わなくていい・・」
彼女は申し訳無さそうにしていたが、特に言い辛い事ではないので、龍輝は何も考えずにこう言った。
「・・・東を目指しています・・・。・・・あんま・・・はっきり・・・・・目的地とか・・・分かってないですけど・・・・・」
一瞬、顔を曇らせたセルフィ。だが龍輝達にはそれが気付かなかった。
「・・そうなのか・・・」
彼女はただ一言、疲れた様に呟いた。
場の空気が静まり返ろうとした所で、リリアが口を開く。
「セルフィさんは、なんでたびをしているの?」
興味心身の笑顔でリリアはセルフィの顔を見ている。が、彼女はうつむいて黙ると呟く様に答えた。
「・・・そうだな・・・・・・・・・・
・・・風が・・・
・・・吹いたから・・・・、・・・かな・・・・・・・・・・・・・・」
そう言ってセルフィは馬車の外を、ジッと眺める。その目は遠くの景色を見ているのと同時に、何か大切な使命を帯びた目にも見えた。二人はそんな姿に見とれながらも、雰囲気の変化を感じた龍輝が彼女に近づき、不安そうな顔を向ける。
「・・それは・・・、あんまり良くないかぜ・・、・・・っ!?」
突然馬車が急ブレーキをかけた事により、龍輝の言葉は途切れた。
何が起こったのか、外へと出ようとする三人に、バン!、と馬車の小窓が開き、そこからトーマスが顔を出した。
「君達!、現れよった、モンスターじゃぞ!!」
「、っ!」
やはりか、と思いながら龍輝は床に寝かしていた炎舞を手に取り、馬車から飛び出すと、直ぐに前へとまわる。
準備運動に炎舞を軽く回しているうちに、リリアも遅れて龍輝の横に立つ。セルフィは龍輝の斜め後ろ辺りで武器を構えていた。
龍輝はセルフィの方を見る。彼女の武器、それは少し大きめな二本のレイピアだった。銀色の刀身、柄の部分は金や水色で装飾されたそれは、太陽の光を反射してキラキラと輝いていた。
リリア達を見るのをここまでにして、龍輝は次に目の前の敵を見やる。ざっと数十匹のゴブリンの群れが広がっていた。それぞれのゴブリンは手に武器を持ち龍輝達を威嚇している。色を見る限り、一番弱い、緑色の雑魚だ。
が、群れの中に弓矢を持っているゴブリンを見つけた。こういう奴は龍輝にとっては真っ先に潰しておきたいものだ。躱す自信など彼にはさらさら無いのだから。
「・・・・矢を持っているヤツがいます・・・、・・トーマスさんは馬車の中に、・・・
龍輝が振り向くと、そこにトーマスはいなかった。馬車の小窓が、パカッと開き、そこから親指のグットのサインが出たかと思うと、すぐに引っ込んで、パタンと小窓が閉まった。その光景は他の二人も見ていたらしく、クスクスと笑っていた。
「どうやら、心配する必要もなさそうだぞ?」
「・・・・ですね・・・」
セルフィが、フフンと鼻で笑った。龍輝もそれにつられて、フッと息を吐く。緊張はほぐれた、体を戻して再びゴブリンの方を見た。
「・・・奥の弓矢は俺が倒します・・・。セルフィ・・さんは、適当に蹴散らしてください・・・」
「いや、ここからでは距離がある・・。君の大剣では近づく前に矢を打たれてしまうだろう。私が魔法を使った方が安全だ」
セルフィにとっては正論であった。しかし今回は違った。彼女は彼の力を知らなかったのだ。
「大丈夫です・・・。・・俺・・、魔法も使えますから・・・」
「、えっ!?」
「リリア、」
「うん!」
リリアに一声かけた龍輝は炎舞を振り上げ、ゴブリンの群れに向かって走り出すが、その群れの中に突っ込む直前で一瞬に姿を消した。慌てふためくゴブリン、目を丸くするセルフィ。次の瞬間、群れの後ろから血飛沫が舞い上がった。セルフィが目を凝らすと、そこにいるのは間違いなく龍輝であった。炎舞を振り回し、近づくゴブリンをなぎ倒していた。
「なっ、何だあの魔法は!!?」
「ワープだよ〜、リューキの得意技♪」
驚いていると隣りにいたリリアが自慢げに答えた。セルフィは未だかつてこのような魔法は見た事も聞いた事も無かったのだ。
そんな彼の魔法に驚いていると、数匹のゴブリンが龍輝への攻撃を諦め、二人に襲いかかって来た。二人はそれを見るなり武器を構えて、迎撃の準備をとろうとしていた。
しかし、龍輝はそれを見逃してはいなかった。
ズン!、と重たい物が落ちた様な音と共に、ゴブリン達が一斉に素っ転んだ。それだけではなく立ち上がる事が出来ず、押さえつけられた様に彼らは、ギイギイと呻き声を上げていた。
何が起きたのか分からずセルフィは辺りを見回すが、直ぐにその目線は彼の元へと向かう。そこには腕を前にだして、誰かを捕まえたかの様に手を握り締める龍輝がいた。
「グラビティ・ホールド」それは周りの重力を強め、対象の動きを封じる魔法である。彼の周りからはどす黒いオーラが現れ、周りの空間を蝕む様に広がっていた。
その禍々しい空気に彼女は驚きはしたが、恐怖心、不快感などは全く感じなかった。自分の知るモノとは全く違っていたが、彼女はこの魔法は知っていた。が・・・、
(何故、人間には覚えられる筈の無い闇属性の魔法を彼は使えるのだ!?)
それであった。どうやら闇属性の魔法はモンスターだけの特別な魔法、とこの世界には定着していたようだ。
「セルフィさん・・・?」
「・・・・あっ、ああすまない・・・・・」
リリアに声を掛けられセルフィは我に帰る。見ると彼女は持っていたタガーでゴブリンに追い討ちをかけていた。セルフィは言葉を返したが彼女の心の中はまだフヨフヨと浮動していた。だがそれでも体を動かし、倒れ伏すゴブリンに追い討ちをかけていく。
「なっ・・・なぁ・・」
「・・ん?、なあにセルフィさん」
唐突にセルフィに話しかけられ、リリアは疑問の表情をみせる。
「き、君はリューキの事をどう思っているのだ・・・?」
なんだか好きになった人を友達経由で聞いているみたいだ、とセルフィは心の中で思いながら彼女の顔を見る。
「リューキ??・・・、リューキはね〜少し変で〜、とってもはずかしがりやだけど・・・、つよくて〜、かっこよくて〜、・・・・・・とーってもやさしいひとだよ!♪」
そう言ってリリアは満面の笑みを彼女に向けてきた。セルフィは少しだけ微笑むと龍輝の方を見る。気だるく剣を振り、血を払いながら近づいて来る彼の姿が見え、その表情は微かに笑っている様な気がしていた。
「・・・そう・・・なのか・・・・」
ぽつり、と呟いてセルフィは口元に手を寄せる。闇魔法が使えるのは怪しくて仕方が無いが、彼女の言葉には嘘は感じられなかった。たとえ闇の魔法が使えても使い手が全て悪人だという事などはない、そうセルフィは思う事にした。
会った時から不思議な子だとセルフィは思っていたが、彼に興味の湧いてきた彼女は少し考えると、やさしく息を吐き
(・・・リューキ君・・・、・・・・君は一体・・・?)
微かに微笑みながら彼へと近づいて行った。




