第十二話 出発
朝、龍輝は窓から射し込む光によって目覚めた。目を開けると目の前には可憐な美少女が、まだ寝息を立てている。早く起きすぎたのかと窓の外を確認したが、そうでもないらしい。外には町の人がちらほらと見えていた。
(以外と・・・、高いな・・・・・・)
景色が恐くなってきた龍輝は大きく欠伸をすると、リリアを起こす事にした。
ベッドに戻り、リリアを被せている布団を引ん剥・・・かずに、その上からリリアの体を揺らした。
「・・・・おい・・・・・」
「ん・・・・ふぅ・・・・?」
どうやら眠りは浅かったようだ。寝惚けまなこの目で龍輝を見たリリアはそのまま欠伸をすると、ゆっくり起き上がった。
「・・リューキ〜・・おはよ〜」
「・・・・・・・おはよ・・・」
と言って龍輝はリリアに背を向けて、ドレスを渡した。今振り返れば彼女の胸が見えるのだが、見る必要はない、と龍輝は自分に言い聞かせながら山積みになっていた服を手に取り、着替え始めた。
最後に黒のロングコートを着、炎舞を担ぐと龍輝は部屋の出入り口へと向かう。既にドアには服を来たリリアが待っていた。
忘れ物が無いか確認して、ドアに鍵をかける。とりあえず朝食を取ろう、などリリアと喋りながら細い通路を進み、階段へと着いた。今度は登る訳ではないので楽だ。龍輝とリリアは階段を一段とばしながら、一階へと下りていった。
一階は昼間の時と変わらない光景が見えた。ガヤガヤと人々が賑わう中、龍輝は宿の受付に鍵を返すと、リリアを連れて、昨日寄ったバーの様な店に向かった。
以外と空いていたので二人は昨日座った場所に座ると、メニューを開いた。書いてあるものが変わっていたが、それほど気にする事ではないので龍輝はサンドイッチと飲み物を注文してお金を払った。手ふきのタオルで顔を拭き、そのあと、今日は何をするのかを、もう一度リリアに話していた。
そんな事をしている内に注文はあっという間に来た。普通にレタスっぽい野菜が多めに入ったサンドイッチだった。龍輝はまじまじとサンドイッチを確認すると安心した様に溜め息を吐き、それを口へと運んだ。どうやら、変な材料が入ってたらどうしよう、かと少し不安だったようだ。
もむもむと口を動かしながら飲み物の紅茶をすする龍輝。リリアも龍輝の真似をして紅茶をすすったが、熱かったのか涙目で舌をチロチロと動かしていた。
残り一個のサンドイッチをリリアに譲り、龍輝は紅茶を口につけながら辺りを見回す。
何やら様子がおかしい。ザワザワという喧騒の中に、ヒソヒソと噂話の様な囁き声が聞こえたのだ。
耳を傾けるが、喧騒の音の方が大きすぎてはっきりと聞こえない。
「・・・リューキ?」
振り返ると口の周りを汚したリリアが不思議そうにこちらを見ていた。
サンドイッチなんかどうやって食ったら口を汚せるんだ?、と思いながら龍輝は布巾でリリアの口を拭く。ん〜、と可愛い声を出すリリアを無視して、トマトの果汁のようなものを拭き取った。
「・・・・何でもない・・・・・・行こう・・・」
「・・・ん」
リリアは小さく頷くと、笑顔で龍輝を急かし始める。はいはい、と龍輝は炎舞を手に取り、立ち上がりながら肩に担いで店を後にした。
外は涼しい風が吹き渡り、二人の髪を揺り動かす。太陽に目を眩ませながら大欠伸をすると龍輝は数段しかない階段に腰をかけた。
どこからともなく鳴り響いた鐘の音を龍輝は九時と解釈してMPBを開いた時だった。
「リューキ〜あれなに?」
「・・え?」
顔を上げると、そこには一台の馬車がこちらに向かって来ているのが見えた。馬が二匹並んでいる所を見ると少し大きめの馬車だ。
その馬車は龍輝が説明している間にみるみる近づき、彼の前でピタリと止まった。
何が何だか分からなくなる龍輝だったが、
「スマン、スマン。ちっと驚かせてしまったかの?」
聞こえてきた声には覚えがあった。
コミカルで元気のいい老人の声、道具屋のトーマスの声だった。
しゃがんでいて全く姿が見えていなかった龍輝は立ち上がると、ちょうど馬車から下りてきたトーマスに挨拶をした。
「おはよう、待たせてしまったかの?」
「いえ・・・、・・今出たところです・・・・」
と、他愛ない話をする二人、リリアは馬と馬車に夢中の様だ。
出会った時はカウンター越しで、龍輝には分からなかったが、トーマスは小さかった。身長は一メートルにもいっていないだろう。そんな小さな体で大きな馬車を動かしているトーマスに龍輝は感心していた。
「フム、では出発する前にワシはギルドで依頼の紙を剥がしてくるから、その間に馬車に乗ってなさい。すぐ戻って来るぞ!」
と言ってトーマスは、トコトコと忙しそうに小走りでギルドの中に入っていった。残された龍輝はリリアを呼び戻すと、馬車の後ろに回った。装飾は全くされていないが、大きな屋根、一様、窓っぽい物も付いている、丈夫そうな馬車だった。
扉がわりの布を捲り、龍輝は足下を見ながら中へと入る、と、そこには木箱の上に座った、一人の女性がいた。
「君達かい?、トーマスさんの言っていた新しい冒険者とは、」
えっ?、と龍輝は心の中で慌てながらも、そうだ、と肯定する。
すると女性は爽やかな笑みを浮かべて木箱から立ち上がり、龍輝に近づいて、スッと手を前に出した。
「私の名前はセルフィ、君たちと同じ冒険者だ。暫くの間、共に行動をする。よろしくな」
龍輝は突然出された手に慌てながらも握手をする。
(そういえばそうだった・・・。先客が・・・いたんだ・・・・・)
手を離しながら龍輝が思い出すと、そこへ馬車に乗ってきたリリアが仲に加わった。
「リリアです!、よろしくね!」
セルフィと名乗った女性はやさしくリリアへと手を向ける。リリアは龍輝と同じ様に彼女の手を掴んだ。
微笑みながら握手をする二人、そんな様子を龍輝は木箱に座りながら見ていた。
彼女は生地薄い白の服に軽装なプレートメイルを装備した旅人の様な姿をしていた。髪は銀色のロングヘアに小さなツインテールが付いている。身長は若干、龍輝より大きかった。
爽やかな笑顔でリリアと談笑している彼女は、リリアと同じ位の美少女・・・、いや美女であった。
「リューキといっしょにお外のせかいを見てまわってるの!」
「そうなのか、私も一人で旅をして・・・」
二人が会話に華を咲かしていると、突然龍輝の後ろの小窓が開き、そこからトーマスの声が聞こえてきた。
「どうじゃ?、挨拶は済んだかの?」
うわっ!、と龍輝が驚いているうちに、セルフィが返事をした。
「はい、なんとか、」
「そうか、よかったよかった。さあ、これで準備は整った。ガンディアまでレッツゴーじゃ!」
オー、と答えたのはリリアだった。セルフィは笑いながら近くの木箱の上に座った。龍輝は、危ないから座れ、とリリアを同じ木箱の上に座らせた。
「ヒヒーン!」
馬の鳴き声と共に、ゴロゴロと重い音を立てて馬車が動き出す。急旋回だったため龍輝は慣れない間隔に体を揺らせたが、なんとかバランスを立て直した。
そして馬車は真っ直ぐに進み出す。石畳を進み、噴水を通り、商店街を抜けると地面が木に変わった。橋を渡っているのだ。
あっという間に遠くなっていく景色にリリアは龍輝の言葉も忘れ、馬車から身を乗り出してそれを眺めている。龍輝は頭をバリバリと掻くと、担いでいた炎舞を床に寝かした。セルフィは無邪気なリリアを観察する様に見ていると、スッと立ち上がり、今度は龍輝が座っている木箱の上に座った。
「・・・・・・・?・・・・・??」
龍輝が困惑していると彼女はリリアを見たまま、笑顔で彼に語りかける。
「かわいらしい彼女だな」
「え!?・・・、・・・あ・・・いや・・・・・・そういうわけ・・では・・・ないです・・・・・」
自分の予想が外れたセルフィは目を丸くした。
「おや?、てっきり恋人同士かと思ったぞ」
「・・・残念ながら・・・・」
龍輝は仕方なさそうに笑う、その様子をどう思ったのか、セルフィはさらに話を詰めてきた。
「しかし、彼女ではないと言うなら、一体どういった関係なのだ?」
「・・・えぇっと・・・・それは・・・・その・・・・・・・・」
龍輝は完全に言葉に詰まった。彼にこんな質問、答えられるわけがないのだ。
「・・・ほう、訳ありのようだな。仕方がない、後で彼女さんに聞くとするか♪」
ニヤニヤと笑いながらセルフィは龍輝の方を見た。龍輝は何だか恥ずかしくなって下を向いてしまったが、心の中で恋人同士に見られた事を考えていた。
(恋人・・・・同士に・・・見えるのか・・・・・)
そんな事を考えている龍輝にセルフィが彼の顔を覗き込んできた。意地悪そうに笑った顔だった。どうやら彼女ではない、と言った事は嘘だと思われたようだ。
嫌な予感がした龍輝は、バッと顔を上げて彼女から距離を取ろうと、体をずらすが、
「ん〜?、なにはなしてるの〜?」
様子に気付いたリリアが龍輝の隣りに座った。龍輝の逃げ道は塞がれてしまった。
二人の女性、しかも相当の美人、美少女に言い寄られ、龍輝は焦り始めた。心臓の音も大きくなり混乱しそうになった所でセルフィがリリアに向かってはっきりと告げた。
「リリアちゃん、あなたの彼氏さんは随分と恥ずかしがり屋さんなのだな」
「ふえ!!!?」
「〜〜〜!、〜〜〜〜〜っ〜〜〜〜、〜〜〜!!」
リリアの大きな声が草原に響き渡った。オーバーな表現をする様に風が周りの草を、ブワっと吹き動かした。




