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Another world  作者: monmo
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第十話 洗礼

 爽やか草原は、突如陽炎の様な揺らめきを起こしたかと思うと、オレンジ色の火花を纏い、一気に焼け野原へと変色した。

 その焼け野原から十数メートル離れた地点に、焼け野原を作った張本人、空ノ龍輝は呆然とその光景を見ていた。


 「う〜わ〜〜、やり過ぎだよリューキ」


 驚きながらも、ちょっぴり呆れ顔のリリアは、龍輝の三メートル前にあるゴブリンだったモノをタガーで突っついている。黒くなったそのモノからは、まだ赤い血が流れ出ていた。焼け焦げたと言うよりは、ローストにされたと言った方が近いかもしれない。


 「ゴメン・・・。・・・・まだ・・、・・・慣れてないから・・・・・・」


 そう言って龍輝は手を前に出すと、その上に小さなオレンジの火花を出して、様子をジッと見ていた。


 今、龍輝が繰り出したのは「熱波」、その名の通り高温の熱の波動を放つ「技」だ。

 「技」とは、<Another world>で、魔法以外の特殊な攻撃の事を指す。魔法に比べて、消費MPが少ない、もしくはMPを消費しないのが特徴だ。

 そんな技を片っ端から使用して龍輝達は、依頼の目標であるゴブリンを狩っていた。


 二人がいる場所は、ファロムから出て少し進んだ所にある草原、緩やかな傾斜が続いていて、戦いに向いている、名もない草原だ。空はまだ明るく、所々に雲が浮かび、それが涼しい風によって流されていた。


 龍輝は手に出していた熱波を消し、その手でMPBを取り出した。中を開くと 30/13 と大きく書かれている。

 ファロムから出て既に一時間近く経っていたが、まだ半分にも達していない事に龍輝は不満を感じていたが、


 「リューキ〜、あそこに五匹、見つけたよ!」


 と言うリリアの声を聞くと、それも薄れて、気だるい表情で返した。


 「ん、分かった・・・、すぐ行こう・・・」


 龍輝は持っていたMPBを仕舞い、歩こうとしたが、近づいて来たリリアに、腕を掴まれ止まってしまう。


 「えっ・・・、なに?・・、」

 

 「ワープして」


 「ワープ」とは現在地から目的地へと瞬時に移動する、空間移動魔法の一つだ。魔法使い系のジョブを得ている者は、基本的に覚えている魔法の一つでもある。

 さらに現実になった今、数メートル位の距離でもワープできる様になった為、回避魔法、面倒くさがりやの為の横着魔法にもなった。


 ワープは、最初にゴブリンを見つけた龍輝が実験として発動させた。結果は上記の通り、ゴブリンとの距離は一気に詰める事が出来、しかも後ろにワープする事が出来た為、気付かれる事なく倒す事が出来た。


 パッと発動して、パッと移動するワープ。リリアはそんなワープが気に入ったのか、面白いのか、やってほしいとさっきから甘えているのだ。


 「・・・・歩こうぜ」


 「え〜〜〜〜〜、」


 リリアはワヤワヤと駄々を捏ね始めた。とても彼には止められない勢いだ。仕方なく、龍輝は魔法を発動する構えをとった。

 喜んで龍輝に飛びつくリリア。慌てながらも、龍輝はワープを発動した。


 一瞬にして現れた魔方陣は二人を飲み込むと、ゴブリン達の前へとワープした。

 突然の襲来に、ゴブリンは慌てふためく。龍輝はそのまま数歩前に出ると、持っている炎舞を目の前のゴブリンに振り下ろした。

 グギャ、と言う声と共にゴブリンが大量の血を撒き散らす中、リリアは大きく跳躍すると、もう一匹のゴブリン目掛けて着地と同時にタガーを突き刺し、そのまま左右に引き裂いた。

 数秒にして二匹の仲間を失ったゴブリンは、ようやく冷静になったかと思うと、武器を振り上げ二人に襲いかかってきた。

 一匹のゴブリンがリリアの背中に向かって斧を投げつけた。が、その瞬間をはっきりと見ていた龍輝が魔法を発動。リリアの周りは、薄い闇色の膜に覆われ、その斧を弾き飛ばした。

 リリアは、膜が龍輝の物だと分かると、彼に向かって笑顔で手を振る。

 分かったから早く戦え、と龍輝はゴブリンの攻撃を受け止めながら、ジェスチャーを送った。

 了解〜、とリリアは膜から顔だけを出すと、大きく息を吸い込み、ゴブリン達に向かって吐き出した。

 ごうっと言う音と共に、リリアの口から真っ赤に燃え上がる炎が現れ、二匹のゴブリンを飲み込んだ。後に残ったのは、煙を上げながら転がる、黒い炭の固まりだった。

 すげぇな・・・、と思いながら龍輝はゴブリンの攻撃を適当にあしらう。単調な分、防御がしやすいのだ。

 龍輝はリリアの安全を確認すると、ようやく攻撃に入った。

 カウンターでゴブリンの剣を弾き飛ばすと、そのまま一歩前に出て、豪快に炎舞を横薙ぎに振り上げる。

 その瞬間、ゴブリンの上半身は血を撒き散らしながら吹っ飛び、グシャという音と共に地面に叩き付けられた。残った下半身は血を吹き出しながら、ヨロヨロと数歩、歩いて崩れ落ちた。


 「・・・ハァ、」


 「だいじょうぶ?」


 「・・・ん・・・、あぁ・・・」


 龍輝は溜め息を吐くと、少し休憩、と炎舞を地面に突き刺し、腰を下ろす。リリアも龍輝の右側に近づいて、寄り添う様に座った。

 空いた右手でMPBを取ると、モンスター図鑑の項目を眺める龍輝。リリアは龍輝のMPBを覗き込む様に見ていた。

 MPBを見ながら時折、疲れ顔の龍輝に心配そうな目を向ける。こんな時、自分は何か出来る事はないのか、と無い知恵を振り絞って考えるリリアだが、当の本人はそんな事には全く気が付いていなかった。


 ふと、リリアは龍輝の頬に返り血が付いている事に気付いた。


 「リューキ。血ぃ付いてる」


 「えっ、」


 本当に?、と龍輝が言おうとした瞬間であった。リリアは龍輝の左頬に口を付けると、ペロペロと舌を這わせ始めた。


 「なっ!?・・・・・#・・、・・・・!・・・・・っ・・・、・・・・$・・・・・・・?・・・・・・、!・・%・・・ぁ・・・・・、・・・?・・・&・・・〜!」


 突然の行為に、龍輝は錯乱した。冷めようとしていた体温は急激に温度を増し、落ち着いていた心臓は瞬く間に激動を始める。プルプルと震える手は持っていたMPBを草の上に落としてしまった。


 龍輝は恋愛経験は皆無だ。悲しいまでの口下手だし、本人もそれを分かり切っていて、自ら女性に話しかける事など全く無い。当然、性の経験も無しだ。

 だからと言って別に恋愛や性に興味が無い訳ではない。彼にも彼なりの恋があったし、それを話せる様な親友もいた。健全な男子である。


 しかし、そんな健全な男子に、今回のは強烈すぎた。本人には見えていないものの、優しい笑顔で彼の頬に吸い付くリリア。しかも唇までくっ付いているので、完全にキスになっている。無理に振り払う事など、龍輝には不可能なのだ。


 ピチャピチャと自分の頬を舐め回すリリアの音と、ドッ、ドッ、と耳を当てなくても分かる位の心音が頭の中で反響する。龍輝は顔を真っ赤にして、ジッとリリアの洗礼に耐えていた。


 最後に、チュっと音を立てて、リリアの洗礼は終わった。


 「はい!、キレイになったよ!」


 いつも通りの笑顔を見せるリリア。


 「・・・・あっ・・・、・・・・・・ありがっ、・・・・・・とう・・・」


 声を振り絞ってお礼を言ったが、真っ赤な顔はそっぽを向いている。

 嬉しかったのか、ルンルン顔で辺りを見回すリリア。ちょうどそこに、ゴブリンの集団を見つけた。


 「あ、また見つけたよ!」


 リリアは、バッと立ち上がると、龍輝を急かそうとする。

 龍輝は炎舞にしがみ付いて立ち上がると、準備運動を始めたリリアに話しかけた。


 「・・・なっ、・・なぁ・・・・・・・リリア・・・・」


 「ん?、なに?」


 元気に答えるリリアに対して、龍輝は更に声を小さくした。


 「い・・・、・・今の・・・・。・・えっと・・・、あの・・・・その・・・・、・・なっ・・・・、・・・舐めるの・・・」


 舐める、に、変に口籠もった龍輝だが、リリアは自分の話を聞いている。ここまで言ったら、「やっぱりいい」は言いたくない。龍輝は考えが成り立たないまま、リリアにその気持ちを伝えた。


 「・・・・あ・・、・・っ・・・あれ・・・、・・お・・・・・・、俺以外の、ヤツに・・・・、・・やるなよ・・・・。」


 キョトンとして龍輝を見るリリア。やっぱり気持ち悪かったかな・・・、と自己嫌悪に陥る龍輝。目線を下にずらしたが、


 「え・・・・・・・・・っあ・・・、ご・・・。ごめん・・・いきなり、」


 突然、弱々しい声で謝るリリアに、龍輝は焦った。


 「あっ!、・・いや・・、・・・べっ、別に嫌いな訳じゃ!、」


 「あっ・・・うっ、うんうん!、だっ、だいじょおびゅ!・・・」


 噛んだリリアに対し、なにが大丈夫なんだ、と聞きたくなった龍輝だったが我慢した。聞いてはいけない様な気がしたのだろう。


 「・・・・・・」


 「・・・・・・」


 静まり返る草原。いつの間にかリリアも顔が赤く火照っていた。

 こんな雰囲気に直面するとは思ってもいなかった龍輝。だが、それでも彼は頭を動かし、一番最善だろうと思う行動をとった。


 「・・・大丈夫・・・・、・・・落ち着いて・・・。・・・俺はお前の事が・・・・、・・・嫌いじゃない。・・・・」


 俯いたリリアの頭を、龍輝は優しく撫でた。そのまま髪の毛に指を通し、乱れていた髪を戻していく。

 触れた時、ピクッと震えたリリアだったが、その手が敵意のものじゃないと分かると、その手の感触を探ろうとする様に、ゆっくりと落ち着きを取り戻していった。


 「・・・・落ち着いた?」


 「うん・・・」


 にっこりと笑うリリア。まだ顔が赤いが、様子を見ると大丈夫そうだ。

 龍輝は、フゥと溜め息を吐くと、炎舞を肩に担ぐ。そしてリリアに背を向けた。


 「じゃあ・・・、行くか・・・」


 「・・・・そだね」


 龍輝は歩こうとしたが、その瞬間にリリアに抱き付かれ止まってしまう。

 えっ?、っと言おうとした途端、リリアは


 「ワープ」


 と呟いて龍輝の目を、ジッと見つめて来た。エメラルドグリーンのキレイな瞳だ。

 龍輝は駄々を捏ねられるのを覚悟で、リリアに反論してみた。


 「・・・・・・たまには歩いた方が、」


 「わーぷぅ」




 「・・・・・・・・・・。」




 龍輝はバリバリと頭を掻くと、魔法を発動。二人の姿は魔方陣に包まれ、一瞬にして消えた。

 ちなみに、リリアのワープおねだりは、倒したゴブリンの数が三十匹を超えても終わる事はなかった。

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