第九話 ギルド
賑やかな喧騒が大きなフロアに響き渡る。
そんな中、龍輝はリリアを連れて、人を避けながら真っ直ぐフロアを進んでいる。右を見ると、ファロム王国唯一で最大の宿屋、「YUGUDORA」の大きな受付のカウンターが見え、見ている今も人が宿をとっている。左には大きな掲示板に、これでもかと依頼の張り紙が張り出されている。
龍輝は実際に見るギルドの中に驚きながら、リリアは初めて見るギルドに心躍らせながら、前へと進んでいた。
そしてちょうど入り口の真っ正面にある、宿よりも更に大きなカウンターに着くと、龍輝はリリアを前に出し、受付に向かってこう言った。
「・・・すみません・・・・、この子のMPBを作ってほしいんですけど・・・・」
ファロム王国のギルドは・・・、なんと大樹ユグドラシルの中にある。大きな木の中をくり抜いて、その中に作ってしまったのだ。前述書いた通り、ギルドだけではなく、宿、喫茶店、小さなバーがあり、それ以外は、所狭しにテーブルと椅子が置いてある。
そんな大改造を受けているのに、大樹は枯れる気配がまるでない。元がゲームだからだろうか、それ以外に理由があるのか、今は分からなかった。
「冒険者登録ですね、分かりました。ではまずこちらの手帳に名前をお書きください」
受付の人は女性だった。ただ本来人間の耳がある場所には猫っぽい耳が生えている。間違いなく獣人だ。
長めの爪が生えた手で取り出された物は、まだなにも書かれていない手帳、表紙は緑色だった。
手帳に名前を書くリリア。文字なんかどこで覚えた?、と龍輝が聞くと、分かんない、と返されてしまった。リリアの居たダンジョンには、壁画に字の様なものが書いてあったが、到底読める様なものではなかったが・・・。
龍輝が考えている内に話が進んでいた。もうリリア一人に任せてもいいだろう、と思ってしまったが、やっぱりそう言う訳にはいかないと、カウンターに寄りかかって二人の話を聞いていた。
「では次にこちらの針にあなたの血液を採ってください」
血液って・・・、血!?。と龍輝は驚くが声には出さなかった。ここでは多分、常識なんだろう、とリリアの方を見る
リリアはオドオドしながら針を受け取ると、自分の指先に針を近づけてゆっくり、プスッと刺した。針には僅かな血しか付いていなかったが、受付は顔色一つ変えず、にこやかにそれを受け取ると、手帳に血を付け、何やら難しそうな呪文の詠唱を始めた。
なるほど、と関心しながらその様子を見る龍輝。リリアは血の出た指先を咥えていた。
ゲームの時は、MPBは最初から持っていた。だから龍輝はMPBの使い方を知っていたが、どうやって出来ていたのかは知らなかったのだ。
さらに龍輝は考えを広げていった。
(あの時ならジョブは自由に決められたけど・・・、やっぱり現実じゃそうもいかないんだろうな・・・・・・。・・・たぶん、人それぞれに適性があって、・・・で、ほぼ強制的に当てはめられる・・・。無理言えばかえてくれそうだけど・・・、やっぱり難しいんじゃないかな?・・・、人生的にも・・・・。
・・・・えっと、リリアは魔法が使えるって言ってたから・・・、やっぱ・・・魔法使いになるのかな?・・・。・・・・・、・・・・・・・・、・・まぁ、そうだよね・・・。戦士や武闘家、て雰囲気じゃなさそうだし・・・、強い魔法使いに、・・・・・・、・・・・・・・・、・・・・・・・・・、・・・・、・・・・・・・・・・っ!?)
それを頭の中で言う事なく、思考は停止した。龍輝は今になって思い出したのだ。重要な事を、リリアの事を。
かなりまずいかもしれない。ここに来て騒ぎは起こしたくなかった。もしかしたら・・・、こうであってくれ!・・・、と龍輝は願った。必死に願った。それさえ起こらなければ何もないまま、事を終わらせられるのだから。
しかし・・・、嫌な予感程よく当たるものである。
「えっ・・・、うっ・・・嘘!?」
確認と言わんばかりに、リリアのMPBを開いた受付が驚愕する。やっぱりか、と思った龍輝は直ぐにカウンターへ手を伸ばし、そのMPBを奪い取った。
<プロフィール>
・名前 リリア
・年齢 17
・種族 ラミア
・性別 女
<能力値>
・Power 157
・Guard 132
・Skill 65
・Speed 259
・Intelligence 883
・Mind 374
・Luck 183
・HP 17450
・MP infinity
<JoB>
<MJB>
・NJB 魔法使い Lv 1
<SJB>
・冒険者 Lv 1
ここまで見ると、色々言いたくなるかもしれないが・・・。
龍輝は考えるのを我慢して、次のページを開いた。
<特殊能力>
炎無効、MP無限、スーパーアーマー
MP無限は説明しなくてもいいだろう、その通りの効果である。スーパーアーマーは、たまにアクションゲームで聞くかもしれない。<Another worud>では、あらゆる即死攻撃、理不尽な固定ダメージを完全に無効にする、まぁボスなら持っていて当然の能力である。
分かってはいると思うが、リリアはダンジョンのボスだった。それは龍輝が外に連れ出しても変わらない。Lv1にして能力値がかなりあるのも、そのおかげだろう。
多分HPはもっと多いはずだ。ゼロが減ったのだろうか?、とすっとぼけた事を考える龍輝。そんな事を考えている場合ではないのに。
龍輝はすぐに我に帰ってくれた。そのまま、ゆっくりとリリアにMPBを渡す。ありがとう・・・、と不安な表情でそれを受け取ると、ページを開いて中を確認し始めた。龍輝は、まだ目を見開いて驚愕している受付に話しかける。
「あっ、・・・あの・・・」
「はっ、はい!!?」
慌てる受付を落ち着かせる龍輝。なんとか落ち着かせると、リリアの事情を話してしまった。適当な言い訳が思いつかなかったのかもしれない。
「モっ、モンス・・、」
「言うな!」
多分、今の龍輝の声は、この世界に入って一番大きな声だ。無邪気な表情で笑ったり、驚いたりするリリア、龍輝にとっては、そんな彼女をモンスター呼ばわりされるのは我慢ならないのだ。
少し怯える受付に龍輝は、カッとなってしまった事を謝ると、今度はゆっくりと事情を話し始めた。
「・・・・だ、・・・誰にも、・・・言わないでほしい・・・・・」
とてもぎこちない弁明だったが、受付も分かってくれたのか、小さく頷くと、深く深呼吸をした。
「わっ、分かりました!。でっですが、もしもの事があったなら、処分はキッチリと行ってくださいよ!」
少し慌てているが、はっきりと強い瞳で見つめられる龍輝。
「・・・・強いな」
「えっ?」
「あっ、いや、・・・・何でもない・・・・、・・・・それより、・・・依頼を・・・受けたいんだけど・・・・・、」
「あっ、それならあそこにあります、掲示板の用紙をこちらに持ってきてください」
龍輝は了解すると、リリアを受付に待たせ、掲示板へと歩いていった。
結構遠い。フロア自体が広いので、人を避けながら歩くのは結構大変だ。
掲示板の目の前に立つ龍輝。かなりでかい。学校の黒板の四倍はありそうな掲示板が四つ。その内の一つの前に龍輝は立っていた。
茶色いベニヤ板にはびっしりと紙が貼り付けてある。その中の一つを破り取ると、その隣りの一際大きな紙、破り取ってはいけなさそうな紙に目を向けた。
そこにはこう書いてあった。
<依頼名>
輸送の防衛
<依頼主>
商人、トーマス
<依頼内容>
ここファロンから東へ数十キロの所にある町、「ガンディア」までワシの商品と命を守ってほしい。
依頼の受付&詳しい内容は「道具屋トーマス」まで。
<報酬>
一人につき三万デーナ
そこに書いてある内容を記憶すると龍輝は受付へと戻っていった。
受付では、リリアが談笑していた。慣れたのか、彼女も普通の女の子の喋り方になっていた。
だが龍輝が戻ると口調は一変、さっきの喋り方に変わった。
「えっ、と・・・・・、・・・これ」
「はい、ゴブリン三十匹の討伐ですね。では依頼料として一人百デーナ、二人で二百デーナを払ってください」
龍輝は銅貨を二枚出して、受付に渡した。
「そちらのMPBを私に、」
「あ、・・・はい」
龍輝は自分のと、リリアのMPBを受付に渡すと彼女は、また呪文を唱え始めた。
が、すぐ終わり、彼女はMPBを二人に返した。
「はい、終わりました。一様、確認してみてください」
龍輝が確認するとMPBの最後のページに、30/0 と大きく書かれている。
よく考えているなぁ、と思ってしまう龍輝。ズルできないシステムだ。
「依頼を達成しましたら、またこちらに申し付けください。報酬をお支払いします。それでは気をつけて、行ってらっしゃいませ」
「・・・どうも」
「またね、セーナさん」
龍輝の言葉を遮る様に挨拶をするリリア。一様、彼は名札を見てはいたのだが、結局名前を呼ぶ事はなかった。
セーナに見送られて二人は大樹から出る。途端に龍輝は大きく溜め息を吐いた。
「・・・っ、あ〜・・・・、・・・疲れた」
「え??、まっ、まだ何もやってないよ?」
「・・・・・・そうじゃない・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
無言のまま歩き続ける二人。周りは人の喧騒で賑やかなのに、龍輝には、酷く静かに聞こえた。
唐突にリリアが聞いてきた。
「・・・・リューキ・・、・・・・あたしって、」
「気にすんな」
「、!」
即答で返したのが悪かったのか、目を丸くするリリア、焦る龍輝。
「・・・えっと、・・・・あ・・、・お・・俺は・・・、・・・気にして・・・ないから・・・」
多分、これがいまの彼の精一杯の慰め方、なのだろう。
リリアは分かってくれたのか、
「・・・うん」
と、一言頷くと、またいつもの様な元気な声で話し始めた。
(ごめんな・・・)
龍輝は心の中で謝ると、リリアの質問に受け答える。
空はまだ明るい。夜になる前には、依頼は終わりそうだ。
一応、龍輝にも特殊能力はあります。(もちろん、リリア程ではないのですが・・・)




