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死に神と女神とししなししたい  作者:
ひとさしにふうささんぼうだ
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2

「静かにして下さい。彼女が起きたら、全員死にますよ」

 いつになく真剣な顔で白石に訴えかける。正直分かって貰えるが微妙だ。だが、分かってくれたのか、白石は数回頷く。彼女が起きていないことを確認すると、白石から手を離す。

「えっ……と、クラブの話だよね」安藤は涙を拭うとクラブの時の東雲さんを話し始める。

「クラブの東雲さんも似たような感じだよ。男女に隔たりが無くて。僕は脚本だけど、クラブの中でも東雲さんの演技は飛び抜けていたのが分かったよ。一年生だけど、既に主役を狙える演技力だったよ」

「へぇ、そんなに」一年生で主役を狙えるのは、相当な実力の持ち主なんだろう。見てみたかったな……。

「けど、それが原因で二、三年生の女子との間はあんまり良くなかったんだよ。彼女は仲良くしたかったようなんだけど、相手がそれを良しとしなくてね。いつもピリピリした雰囲気だったよ」

 やっと見つけた、彼女の黒い部分。心の奥、深い闇。これだと外部犯の可能性が果然出てくる。彼女への恨みを持った先輩。直接で無くても、殺し屋を雇えば--。いや、しかし、彼処までする必要があったのか。プライドが高い人間でも普通はしないと思うんだが。脅迫ではなく、殺人だ。それに何故、彼等を呼ぶ必要があったのだろうか。黙っておけば、隠蔽出来るこの事件、犯人のしたいことが分からない。分かりたいとも思わないが。

「東雲は色々、思い悩んでたみたいよ」

 自問自答していた耳に不意に声が入ってきた。振り向くと、彼女が寝袋から起き上がっていた。いつから起きていたのだろう。悩みを話すと言うことは安藤のところからか。

「彼女は代々医者の家系で、両親はそれを継がせたかったみたいね。だけど、彼女は演劇の道に進みたかったみたいね」

 彼女は体を寝袋から出ると、それを投げつけてくる。それを顔面に直撃しないように受け取る。直しておけという意味だろう。

「俺はそんな話聞いてねーぞ……!」

 一番驚いたのは、白石だ。愛していた人に裏切られた感じなのだろうか。それとも、全ては計画のための演技か。

「あら、彼氏なのに教えて貰えなかったのね。本当は信頼されてなかったんじゃないの?そういえば言ってたわね~、彼氏には相談出来ないって~。本当に頼りないわ--」

「黙れ!」

 彼女の言葉に覆い被せるように、聞こえなくなるように怒鳴りつける。

「お前は昨日からずっと癇に触ることばっか言いやがって!」

 思い遣りがねーのかよ! と、白石が言った瞬間、持っていた寝袋が床に落ちた。寝袋が床に着く音と同時に聞こえたのは、皮膚と皮膚がぶつかった時の乾いた音と机同士が衝突する音。その全てが止んだ時、部屋に響いているのは荒れた呼吸。

「何してんのよあんたは!」

 それが僕の呼吸だと気付いたのは、白石の上に馬乗りになり、彼女が僕のこめかみをつま先で蹴ったときだ。骨ではなく、脳に直接来たような感じがする。理性を取り戻した目に飛び込んできたのは、白石の顔。白石の顔は右頬が赤く腫れ、恐怖の目がこちらに向いていた。その目は今まで感じたことが無い恐怖が現れている。

「――すみません、取り乱しました」

 この空気をどうしたらいいのか分からなかったが、取り敢えず謝っておく。このどうしようもない空気をどうこう出来るとは思っていなかったが、謝っておいた方がいい気がする。

 ……それにしても。白石から退くと、殴った時と同じ形をした拳を見る。拳は白石までとはいかないが、少し赤くなっている。本気で殴ったかな……? 白石を殴ったとき、僕は痛覚を失っている。そうだとしたら、悪いことをしたな。無防備のまま殴られたのだ。相当な痛みだろう。

「お、おう……」白石の目は僕を拭いきれない恐怖の目のまま。

「何かもうあんたを野次る気が失せちゃった」

「これからどうしますか? 現場に行きますか?」寝袋を折り畳んでいた僕の提案に彼女は首を横に振る。

「それより、先にご飯ね。お腹減っちゃったわ。何持ってきてる?」彼女は僕の答えを聞く間も無く、ボストンバッグを漁り始める。「何? 缶詰しか入ってないの? もう少し種類増やしなさいよ」

 彼女はぶつくさ文句を言いながら、ビニール袋に入った缶詰と缶切りを取り出す。彼女が缶詰に手を掛けたその時、タイミングを計ったように騒音が鳴る。突然の騒音に僕達の意識が校舎の外に向く。騒音は何かが地面に衝突する音。しかもかなりの高さから落下しているのが、音の大きさから分かる。

 一番早く教室から出たのは白石だ。白石は僕達が止める間も無く、飛び出す。向かっている先は予想が付く。二の三の教室。今、鍵が開いているのを確認出来ているのは、此処と彼処だけだ。チラリと彼女に目を移す。彼女は睨むような目で早く行くように訴えている。

 はぁ……。僕は心の溜め息を吐くと、白石を追うように早歩きで教室を出る。白石の姿はドアの前にあった。ドアは開いている、なら何故中に入らないのか。まさか……。緊張が脳を支配する。犯人との対峙、犯人を捕まえる絶好の機会だが、犯人の武器が分からない。ナイフならこちらに部がある。しかし、もし、拳銃なら――全滅だ。僕は息を殺し、壁に背を合わせて近付く。

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