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死に神と女神とししなししたい  作者:
ひとさしにふうささんぼうだ
7/19

1

 翌日起きたのは午前九時を少し過ぎ。山奥にいるが外は晴れ晴れとしているのを日差しが示している。気持ちの良い朝だ。他にはまだ誰も起きておらず、隣では彼女が静かに寝息をたてている。こうやって静かだと普通の女子高生と何ら変わりない。触れるか触れないかの瀬戸際、結局は触れているんだが……。彼女の髪を撫でてみる。

 ――起きない。

 それほど眠たかったのだろうか。精神的な疲れは先ず無い。恐らく前日まで何かしていたのだろう。どうしよう。彼女を起こした方がいいのだろうか。いや、止めた方がいいだろう。彼女は寝起きが悪い。昔、起こして蛸殴りにされたことを思い出してしまった。嫌な思い出だ。彼女は置いといて彼等を起こそう。

 寝袋を静かにボストンバッグにしまうと、安藤の元に行く。

「安藤さん、起きて下さい」

 安藤の肩を揺らすと、安藤は体を伸ばしながら起きる。

「あっ! ……お早う」

 安藤は此方を見て一瞬驚くと溜め息混じりに挨拶してくる。今までの出来事が夢だと思った。思いたかったのだろう。無理もないか……。

 こういう時に掛ける言葉を知らない。だから肩を数回叩く。現実だと認識させるために。 今度は白石を起こしに行く。白石は寝る前と同じ姿勢でドアの前に居座っている。

「白石さん、起きて下さい」

 白石の肩を揺するが、白石は起きない。チラリと顔を見ると、相当な寝汗をかいている。魘されていたと考えるの妥当だろう。原因はあの死体。恋人だったというショックも大きいのだろう。しかし、こんな状態で置いておく訳にもいけない。荒いが、白石の鼻と口を塞いだ。予想通り、白石は顔を真っ赤にして手を力づくで振り解く。

「て、てめー! 何すんだ!?」

 白石は顔が怒りか、呼吸が苦しいのか分からないが顔を真っ赤に僕に唾を跳ばしてくる。汚い。魘されていたのは黙っておいた方がいいのだろう。それぐらい僕にも分かる。

「中々起きませんでしたから、強行手段をとらせていただきました。それに二人には、昨日聞き忘れたことが有りましたので」

 こんなのは単なる口実。彼女が起きるまで暇だから。現場に行きたいけど、勝手な行動をしたら何が飛んでくるか分からない。

「俺達に聞きたいことってなんだよ?」

 白石は無理矢理起こされたことに明らかに苛ついている。貧乏揺すりをやっている。――考えてなかった。聞きたいこと、というより時間稼ぎになるもの。考えろ、考えろ、考えろ。

「東雲さんはどんな人でしたか?」

 これは彼女にも後で一応聞いておこう。考えたら僕は良く知っていると言える人はいない。というより、数少ない知り合いの中にだって良く知っている人物がいると言えない。こんなこと、人間不信の僕が言うことじゃないか。たとえ、親しい人間がいてもその人を信じない。そう言い切れる自信がある。人の考えているのが本当に分かる人なんていたら超能力者ぐらいだ。部活動の先輩と彼氏、もしかしたら、多少の食い違いがあるかもしれないが、許容範囲だ。

 上辺だけでも構わない。東雲さんがどんな人間に見えていたのか、東雲さんがどんな人間を演じていたか、それが知らなければならない。

「あいつは良い奴だったよ」と東雲さんの彼氏が言う。

 白石は椅子を引いて席に付くと、背中から哀愁を帯びさせている。

「俺はあいつと違ってサッカー部で夜遅くまで練習して、土日も練習しててさ、全然会えなかったんだ。だけどさ、あいつはずっと健気に待っててくれたんだよ。どんなに遅くなっても、文句も言わずに。行ったら明るい笑顔を俺に向けてくれたんだ。デートも全然行けないし、下校には迎えが来るからちょっとしか会えないし」

 思い出を語る白石の声が震え始める。ここで彼女が起きていて聞いていたら、未練がましいとか言って、また一悶着あっただろうな。彼女が寝ていて良かったとこの時初めて思った。やっぱり静かな時は良い。

 白石は一度鼻を鳴らすように啜ると、思い出を語る。

「あいつは本当に健気で明るくて努力家だった。人に好き嫌いが無くて、誰にでも優しくて、恨みとか妬みとか、そういうのには無縁のやつだった」白石は不意に机に拳を打ち付ける。その拳は自分の無力さへの怒りか、相手への怨念か、それともその両方か。「俺はあいつを殺した奴を絶対許さない。絶対に見つけ出す」

 白石は決意を胸に秘め、もう一度拳を強く握り締める。きっと上げた顔は涙が溢れる。話を聞いていた安藤も涙を浮かべている。これが俗に言う貰い泣きか、初めて見る。歌でしか聞いたことが無かったけど、本当にこんな現象が起きるんだ。いまいち分からないな。人が泣いているからっといって一体それが何だというのだろう。安藤を見ながら、首を傾げるしか無い。

「感極まっているとこ悪いんですけど、安藤さんクラブの話を教えて下さい」

 空気を読めていないの分かってる。しかし、そんな流暢なことをやっている場合でも無い。恨みを晴らす、その決意は大いに結構。だが、そうしたいのなら、泣いてないで少しでも頭を回して欲しい。それにしても、食い違いがあるな。白石だけの話を聞いていたら、決して不仲になってきていたとは思えないんだけどな。

 しかし、今はそれを追求している暇はない。僕達には時間が限られているのだから。

「何だよ!? おま――!?」

 泣くのを邪魔された白石は案の定、怒鳴りつけようとしてきたが予想出来ていたので口を塞いだ。

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