2
やっぱり分からなかったか。語彙力が無いからな。
「図で説明出来たら楽なんですけど」
「貴方が書いたら余計分からなくなりそうです」
うっ!!
相沢さんの言葉がグサリと心に刺さる。
「ある意味芸術ですよ、あれは。ピカソの絵が独特になった時並です。芸術家に転職したらどうですか? どう評価されるかは知りませんけど~」
相沢さんのナイフが心を抉る。僕は絵や音楽といった芸術関係は大の苦手。絵は相沢さんの言うとおり、ピカソが独特になってからの絵に似ている。見せて、彼女に殴られた古傷が痛む。歌が音痴の中の音痴。音程、リズムはズレる。歌詞は間違える。歌って、彼女に蹴られた古傷が痛む。字は独特過ぎておおよそ読める人はいない。相沢さんには炎野火文字と呼ばれている。書いて彼女に抓られた古傷が痛む。
「遠慮しときますよ。え~っと、どこまで話しましたっけ?」
「縄の本数と巻き方です」
「頑張って説明するんで、頑張って理解して下さい。先ず、東雲を棒と考えて下さい。それに平行するように背中の方に縄を一本垂らします。それから腰の辺りに一本、縄と体を縛ります。後は同じ要領で折り曲げた足と首を縛ります。但し、その場合だと首が絞まるので仲介役を入れるんです。別にギプスじゃなくても良いです。最低タオルでも構いません。重要なのは、背中の縄と首にゆとりを作って巻くことです。その上から大きさに合わせて、縄を巻きます。最後に手を背中と縄に密着するように腕を組めば、四肢無し死体の完成です。分かりました?」
「分かりはしましたけど、脱出する時はどうするんですか?」
「ナイフを持ってるんですよ。安藤を刺したナイフ。それを使って、足、腰、首、それぞれの縄を切って縄を回収して終わりです」
「首の仲介役はどうやって隠すんですか?」
「部室に肌色のペンキがあったんで、それを使ったんだと思います。もう、聞いておくことは無いですよね?」
口がカラカラになるまで説明をしたのに、相沢さんはまだ納得のいかないようだ。取り敢えず、次に備えて紅茶で喉を潤す。
「トリックとは関係ないんですけど、白石と東雲は本当に付き合っていたんでしょうか?」
「それは僕に言われても、人間関係には疎いですからね」
「だって、変だと思いませんか? お嬢様に恋人がリンチされてるのに一言も話さないんですよ」
「それは彼女に恐怖を植え付けられてたからじゃ無いですか」
そうは言ってみたが相沢さんの言う通り不自然なことが多い。東雲がリンチされてるのにも関わらず、本当に愛しているなら、止めるか、身代わりになるか何らかの行動を起こす筈だ。それに、安藤と白石、東雲と白石の出会いが語られていない。安藤と白石なら、クラスメイトだったかもしれないが、東雲と白石には出会う切っ掛けが無い。
「私思ったんですけど……」相沢さんはカップを持ったまま神妙な面持ちで話す。「白石も、安藤も、東雲も、全員がお嬢様をからかうつもりで演じていたんじゃ無いでしょうか」
傍若無人の彼女に東雲は憧れた。自分の立場を恨み、それは何時しか自分より優位な彼女を恨むようになったのかもしれない。東雲は懇願した。自分よりも上にいる人に一泡吹かせるために。
この考えがあっているかは分からない、一つの可能性。しかし、もう事件は終わっている。今、どんなに考えを膨らませようと、何も意味も成さないのだ。
「そう言えば今日、お嬢様は何をしてるんですか?」
死に神と女神とししなししたい 〈終〉