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東雲は口の中に大量な苦虫を放り込まれてそれを噛まされたような、苦々しいと言うより、苦しそうな顔をする。
「自殺じゃないの?」
「自殺はあり得ないのよ。安藤は演劇部の部室で殺されてたの。胸を刃物で一刺しと後頭部を鈍器を三回。胸の方は兎も角として、後頭部は普通殴れないわ。多分、三回殴られて、意識が朦朧としているところをグサリとやったって感じ。誰に殺されたか知らないー? 私達に他に人がいるのかしらねー? 同じ演劇部員の貴方なら分かるんじゃない? 演劇部員はみんな鍵を持ってるんでしょ。なら貴方しかいな」
「そうよ! 私が殺したのよ!」
東雲が彼女の言葉を遮った。とても大きな金切り声の、悲痛な叫びのような声。
「何で殺したの?」
「最初は脅すだっただけなのよ。安藤先輩が自首しようって言われてナイフを出して黙らせようとしたの。けど、安藤先輩はそれじゃ止まらなくて気絶させようと音響の機材で何回か殴ったの。けど、安藤先輩は気絶も止まりもしなかった。だから、前に立ってナイフを向けた時に急に安藤先輩が倒れてきたの。反応出来なかったの……本当に。それで、気が付いたら、む、胸にナイフが刺さってて、死んでて、気が動転して……」
「逃げたのね」
東雲は無言で頷く。
「何処に逃げてたの?」
それは誰にも分からなかった。他にも鍵を持っていたのか?
「トイレ。女子トイレなら、貴方ぐらいしか入って来ないと思ってから」
成る程、女子トイレか。女子トイレなら僕達なら入れないし、彼女だって下のトイレまで行かない。絶好の隠れ場所と言うわけだ。
「そういうこと。じゃあ、安藤を刺しちゃったのは事故だって言いたいのね」
東雲は首をコクリと縦に動かす。
「まぁ、それは後で調べさせてもらうわ。机を落としたのは貴方が片付けを終えた合図で間違い無いかしら?」
「間違い無いわよ」
「つまり、貴方は安藤とここから逃げるつもりだった」
「出来なかったけどね」
「ねぇ……、あんたがここまでする必要があった理由って一体何だったの?」
彼女が単刀直入に聞く。何故、東雲がここまでする必要があったのか。何故、学校を選んだのか。何故、死体を演じることようなことしたのか。何故、彼女達を呼び出したのか。
何故。
何故、何故?
「私が医者の家系っていうのは知ってるよね」
彼女は、まぁね、と返答する。それは僕達も彼女から聞いている。
「私は正直、医者になるのは嫌だった。私は演劇の道に進みたかった」
「知ってる、聞いたから」
「そうだったね」と東雲は続ける。
「私は悩んでたけど、相談は殆ど出来なかった。唯一出来たのは貴方だけだった」
「何であいつには話さなかったの?」
彼女が顎で白石を指す。白石は目に一杯の涙を溜ながら、下唇を噛み締めて東雲を見つめていた。東雲は一度だけ白石の顔を見てから直ぐを顔を背ける。
「敦には迷惑を掛けたく無かったの。あの楽しい時間だけは壊したく無かったの」
もしかしたら、東雲は本当に、本当に白石を愛していたのかもしれない。愛していたから、心配させなく無かった。よく聞く話だ。
「私はその頃から親と喧嘩の日々だったからその時間は本当に幸せだった。だけど段々、不審に思えてきたの……。だから、確かめたかったの」
確かめたかった? 一体何を?
「何を?」
「白石が本当に思ってるか、それが分かんなくなってたの。疑心暗鬼って奴。今考えたら物凄い私馬鹿だった」
「何を今更」