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「密室ね。あなたは初めに前のドアを壊した、ペンチかそんな器具でね。そこから中に入って内側の鍵を破壊」
「それじゃ、密室にならないじゃない」
東雲が彼女の矛盾にメスを入れる。彼女は右ポケットから南京錠を取り出す。
「これが何か分かる?」
「南京錠でしょ?」
東雲は首を傾げながら答える。本当に分かっていないのか、演技か。
「そう、これはあの密室の前のドアを閉じてた南京錠。元々は演劇部のドアを閉めてた南京錠よ」
「それが演劇部の鍵っていう証拠は?」
彼女は今度は左ポケットから何も付いていないシンプルな鍵を取り出す。
「これは安藤のポケットから見つけた鍵。これは演劇部の鍵……っていうことを今証明出来るものは無いけど、そんなのは後で調べがつくわ。それとも、貴方が持ってる鍵で試してみる?」
此処までは脚本通り。鎌を掛けるのも演出だ。
「分かってるのにそういうこと聞かなくていいじゃない」
東雲は彼女の鎌に自ら掛かりに行った。と言うより演じるのを辞めている。
「そこはもう少し驚きを見せなさいよ」
彼女はポケットに鍵と南京錠をしまう。まだまだ舞台は終わらない。今でやっと三分の一が終わったところだろう。
「次は机と貴方の手足が落ちてた話ね。机が落ちてたのは何の問題も無いわ。窓の柵に擦れた跡があった。ロープで彼処まで上げてから落としたのは明らかよ」
「けど、そんなこと出来るの? 机を三階まで吊すなんて?」
一人なら不可能だと思われても無理も無いか。一人なら。
「勿論、貴方一人なら難しいかもしれないわね。けど、共犯者がいたらどうかしら?」
「共犯者? そんなのいないわよ」
東雲はあくまで白を切る。これを認めさせるには手間が掛かりそうだ。
「いるわよ」
「だから誰よ? まさか白石って言うんじゃ無いでしょうね!?」
東雲は此方の方、正確には僕達の真ん中にいる白石を指差した。
「えぇ、そうよ。安藤は殺されてて、貴方と私のペットじゃ面識は無い。私は違う。じゃあ消去法で残るのは白石だけじゃない」
彼女は指差す。顔は真剣そのものだ。
指を差された白石もこれには息を呑む。しかし、どこかぎこちない。
「違う! 白石じゃない!」
東雲は白石を庇うように指さしていた手を振り払う。
「今、白石じゃ無いって言ったわね」
彼女の顔が一変、真剣な顔からニヒルな笑みに変わる。
「教えて貰おうかしら、白石じゃ無い貴方の共犯者が誰か?」
「貴方! 分かっててわざと!」
見事に引っかかってくれた。彼女の彼氏である白石に疑いがいけば東雲は庇う。結構な危険な賭だったが成功したのだから結果オーライだ。
人心を利用した卑怯な方法だ。しかし僕達は犯罪者に掛ける情など持っていない。
「早く答えなさいよ。貴方の共犯者は誰なのか?」
「安藤先輩……」と東雲は苦虫を噛まされたような顔で囁いた。
「そう、安藤が共犯者なのね。けど、安藤は死んでたじゃない。一体誰が殺したの? まさか、まだ他に共犯者がいるの!?」
彼女は両手を左右の頬に当て、体を大きく右往左往させる。
「そんなの……、知らないわよ……」
「本当に?」