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死に神と女神とししなししたい  作者:
しゅうげき
13/19

1

「明斗お嬢様、紅茶の用意が出来ました」

 あれから二時間、僕達は拠点を屋上に移すことになった。理由は彼女がそこを選んだから。時間は午後五時、鼠色のコンクリートをタイル張り模様にした屋上。緑のフェンスに包囲された屋上は普通の学校と変わらないと思う。夕闇と向かい合わせの僕は少し眩しさがある。僕は彼女に全てを語り終えた。後は全て彼女の舞台。僕の出る場面は無い。

 出演は彼女と犯人。

 只今裏方が準備中。彼女の呼んだ相沢さん率いる精鋭部隊によって着々と進められている。そして今、屋上にいるのは僕と彼女、白石、そして相沢さん。

 相沢さんは男性と見ようと思えば男性、女性と見ようと思えば女性に見える中性的な顔立ちをしている。大きな目を見れば女性。ボーイッシュな髪型を見れば男性。身長は百六十程と平均的。体躯は女性なら残念なスリーサイズ。頭から足の爪先まで一直線。しかし、その力はその体からは想像出来ない程。今まで相沢さんの底を見た人はいないと言う。

 そして、相沢さんの性別を知っているのは真野源藏一人。世界中探しても彼一人しかいない。相沢さんは元々真野源藏の秘書兼ボディーガード兼メイド長兼執事長。兼彼女のお守り役。真野源藏を含めた彼女の家庭で実質的な二番目の権力者である。

 今は膝上三センチの黒のインナーに白のエプロンの付いたメイド服。スカートには控えめにフリフリしているフリル。カチューシャにも白のフリル。フリル尽くしである。メイド服と思えば、僕のような燕尾服を着ることも。

 今は彼女の横で紅茶を入れている。その彼女はと言うと、屋上の真ん中で如何にもカフェにありそうな途中で中央に収束した三本脚の机と、純白の椅子に鎮座して、入り口の方向を向いている。

 相沢さん達が来たのは一時間前だからもう直ぐ準備が終わる。捕まえて無理矢理にでも連れてくればいいと思うが、それを言ったら殴られる。どうも雰囲気が出ないらしい。犯人と彼女の二人舞台。僕等は観客。僕はよく分からないが。僕達は彼女達の横、フェンスに寄りかかって彼女達を眺める。

「明斗お嬢様、準備が出来たようです」相沢さんがトランシーバーから洩れてくる微少な声を聞き取り、彼女に伝える。

「始めなさい」

「了解しました」相沢さんはトランシーバーを口元に寄せる。「全隊員に告げます。作戦を開始して下さい。尚、対象は極力傷付けないようにお願いします」

 舞台の幕が上がった。始まりは犯人を屋上まで誘導するのが目的。犯人がどこにいるか分からないので、森の中からじわじわと犯人を追い詰める。森から校内へ、校内から校舎へ、校舎から屋上まで。

 今は森の中を疾走してるかもしれないし、学校の中で身を潜めているかもしれない。しかし、彼等なら確実に犯人を見つけ出すだろう。彼等は装備が違う。

 トランシーバー。防弾チョッキ。アンチロックドブレード。催眠弾。サバイバルナイフ。催眠弾。催涙スプレー。閃光弾。暗視ゴーグル。ゴム性の銃弾。スナイパーライフル。警棒。レーザーポインター。白煙弾。煙幕弾。捕獲用ネット。備え有れば憂いなし。

 五分ぐらいしてからだろうか、校門の方向で狼煙が上がる。続いて相沢さんのトランシーバーに連絡が入る。

「お嬢様、対象を発見したようです。対象は校舎に逃走中。ゴム性の銃弾で威嚇しながら誘導します」

 狼煙は白煙弾で打ち上げたのだろう。ゴム性の銃弾は殺傷能力が無いわけではないが銃弾と比較すれば雲泥の差がある。

「上手く誘導できれば、後十分で来ます」

「相手も感づいているでしょう。観念して来るんじゃない」

 彼女は出番が来るまで紅茶を楽しんでいる。その動きには優雅さが感じられる。

「お嬢様、対象が二階の踊場を通過しました。準備を始めて下さい」

「はいはい」

 彼女は顎を使って僕を動かす。僕は忠実に彼女の使用していた机と椅子を端に片付ける。人使いの荒い。

「お嬢様、相変わらず人使いが荒いですね。ちゃんと休みを与えないと過労で死んじゃいますよ」

 相沢さんの言葉に彼女はブーブー文句を言う。しかし、彼女は相沢さんの言葉なら渋々従う。

「お嬢様、来たみたいです」

 相沢さんは言った瞬間、屋上の扉が開いた。

 服装は足首まであるであろうロング丈の青色のスカート。ピンクの半袖のシャツに黄色いカチューシャ。フードの付いた黒のマント。肩まで伸びた髪をポニーテール。薄化粧。小さな唇。全てを予想していた目。縄の痣の付いた細い首、手首や足首。聞いたイメージなら天真爛漫な活発な女性かなと思ったらその表情は冷め切っている。

 夕闇に染まった横顔は驚きは無い。強いて言うならば……悲哀。分かっていたはずだ。自分のしたことがどういうことかも。結果的にどうなるかも。安藤を殺したのは計画外だったのかもしれない。しかし、殺したのは事実だ。白石は現実から目を背ける。それでも受け入れなければならない。これが現実だ。

 彼女は待ちわびていたような狡猾な笑みで出迎える。

「さぁ来たわね。安藤殺しの犯人、東雲杏奈!」

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