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死に神と女神とししなししたい  作者:
ひとさしにふうささんぼうだ
12/19

6

「彼奴が、安藤が犯人だったのかよ!」

 僕は白石の言葉に耳を傾けられない。無駄な足掻きだと分かっていても言い訳を考えるのに必死。自分の身が一番大切だ。白石は壁を怒りに任せて殴ると、トイレを出る。僕は白石を無視する。思考が正常に働かない。落ち着け。落ち着け。落ち着け。大きく息を吸い込め。大きく息を吐き出せ。その行為を繰り返し、気持ちが落ち着いてきた僕は立ち上がる。

 トイレに座ったことを今更後悔する。

 彼女には、安藤が逃げた、と言っておこう。安藤が犯人だとは分かっていない振りをする。白石はそれを追った、と言っておこう。なんとしても、僕の命は守る。僕はトイレを出て、教室に戻る。しかし、そこに彼女はいない。僕は呆気に取られる。あの彼女までもが居なくなった。

 まさか……、ドッキリなのか?

 何もかも、彼等の芝居だったのでは無いのか。彼女ならやりかねない。彼女の権力はそれ程までに凄まじい。学校を貸し切ることなど朝飯前だ。惨殺死体など簡単に造ることが出来る。彼女が人を殺す必要は無い。予め死んでいるものを使用すればいい。日本の警察からでも、外国の奴隷商からでも容易いことなのだ。どうすることも出来なかった。他の可能性も彼女を探すこともしない。何が最大の正疑心だ。結局、彼女を信じていたからこんなことになったのだ。信じていたら騙される。

 とんだ道化だ。

 車はあるだろうか? 歩いたら何日掛かるだろうか? 彼女に見捨てられたのだろうか?

 先ずは車だ。だけど、財布はバッグの中だったし財布が無いと高速が使えない。矢っ張り先ずは荷物だ。荷物はある。彼女の座った跡もある。空の缶詰もある。片付けていった方が良いのか? 多分そうしないと彼女に怒られる。缶詰をビニールに直し終えた時、彼女と白石が戻ってきた。ドッキリのフリップは持っていない。

「あんた何呑気に片付けなんてしてんのよ?」

 あれ? もしかして、ドッキリじゃ無かったのか?

「あの……ドッキリじゃ無かったんですか?」

 彼女と白石の表情は僕が予想とは違うものだった。

「あんた何言ってんの?」

 どうやら違ったらしい。じゃあ、本当に安藤は逃げたのか? なら、彼女達は取り逃がしたのか。

「安藤さんには逃げられたんですか?」

「逃げた? 何勘違いしてんのよ。あいつは死んだわ」

 死んだ……? 殺されたのか。いまいち分からない。殺したのは、仲間に間違いは無い。その理由が謎。内輪もめにしても、何も問題は無かったと思う。可能性でいえば、安藤が自首云々をしようと言ったぐらいだな。

「演劇部の部室で胸を刺されて死んでたわ。窓とドアは閉まってた。頭を三回後ろから殴られて、背中から一刺し」

「死体、調べたんですか?」

 死体の状況に詳しすぎる。一回見ただけではそこまでは分からない。

「今回はね。こいつが安藤が逃げたと思って、校門まで走ってる間に私が見つけて、その間にね」

 東雲さんは教室、安藤は部室で殺されている。犯人は同じ演劇部員。

 少し、状況を整理しよう。彼女と安藤と白石な三人は東雲さんに呼び出されて、学校に集合。学校に入ってから、そこで東雲さんの死体を発見。手足は不在。鍵は彼女が破壊したと言っている。

「ちょっと、現場を見てきて良いですか?」

「それなら私も付いてくわ」

「分かりました」

 彼女と共に二の三の教室に行く。彼女達は後ろのドアから中に入ったと言っていた。僕は彼女の後から入る。黒板には血がべっとりだ。床にも壁にもべっとり。今はそこじゃない。両膝を付いて這い蹲るようにして床を見る。

「ちょっと、あんた何してんの? 踏まれたいの?」

「違いますよ」

 彼女の悪魔の言葉を否定しながら机の隅々まで探す。無い。思った通りだ。

「ご主人様、ドアは内側から閉じられていたんですよね」

「それが?」

「南京錠が無いんですよ。何処にも」

 彼女が壊したと思っていた南京錠が無くなっている。それに南京錠を壊すこと自体、人力で可能か分からない。

「犯人が持ってったんじゃないの?」

「南京錠の破片もですか? それに南京錠は輪があって初めて成立します。もし、本当にご主人様の力で壊れたなら、破片があるはずなんです」

「まぁね」と彼女が相槌を打つ。

「それに犯人が本当に死体を隠すつもりなら、電気を付けたりしません。犯人は態と見つかるように仕向けたんです。ドアも南京錠をしてなかったんだと思います。恐らく南京錠じゃなくて、ドアの所につっかえ棒のようなものを置いてたんです」

 風船……じゃ音が鳴るし、矢っ張りつっかえ棒だと思う。

 開いたままの窓から見える手摺を見る。近くじゃないと分からない。彼女を横切って窓に移動する。手摺には分かり難いが、焦げたような跡があった。演劇部の部室、そして、この教室。

 頭の中にある人の顔が浮かんだ。

「そう言えば、聞きたいことがあったんです」

 彼女なら、演劇部に詳しい彼女なら知っているかもしれない。これが分かれば、もうすぐ終わる。

「演劇部の鍵って部員なら誰でも持ってるんですか?」

 彼女は腕組みをして思い出そうとしている。部員一人が持っているなら、全てが成り立つのだ。

「東雲からそんな話を聞いたような気がするわ。確か鍵は全員が持ってたはずよ」

 決まりだ。次は犯人を追い詰める方法。それは彼女に頼めば安心だ。後は彼女に僕の推理を語るだけだ。それにしても……、犯人は何故、安藤を殺したのだろう? 刃物を持っているのだから脅すだけで十分だ。殺す必要など無い。

 考えるだけ無駄か……。

「ご主人様、相沢さんに連絡して下さい」

「分かったの? 犯人?」

「はい。部室とこの部屋の後を見たら分かりました。犯人を追い詰めます」

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