恐怖
土曜日、河原高校では予定通り文化祭が開催された。開場から30分ほど経ち校内には他校の生徒、保護者、地元の人たちなど多くの人が続々と入ってくる。校舎内のあちこちで生徒たちが店の勧誘をしている。
(・・・・・・)
祐二は中庭の木陰に寝そべっている。元から文化祭で係の仕事などするつもりではなかったが店を歩こうとはしていた。しかし今、共に歩く人間はいない。
「ここにいたか」
寝そべっている祐二の横に上原が腰掛けた。普段から覇気のないやつだが今日はいっそうそう感じられた。と、普段からつるんでいる祐二は感じる。
「無視してくれるなよ」
「はっ、どうだよ調子は」
「だるい」
「いつもと同じじゃないか」
「まぁな」
ほんの数日前のことを思い出す。あんなことがあったんだ。自分を取り巻いていた日常が崩れる様をこの目でしっかりと見たんだ。
「ミキちゃんは元気か?」
上原に問う。事故後、彼女はかなりショックを受けていた。同じクラスの連中に聞いたところ、舜を買出しに向かわせたのは彼女だったそうだ。責任を感じているのは間違いないだろう。
「ああ、まだ学校には来ていないな」
「そか、まぁ仕方ないか・・・・・・」
そう言って祐二は寝返りを打ち、上原に背を向ける。
「はっ・・・・・・」
上原は間抜けなため息をついた。
3日前
祐二は廊下の壁にもたれて座っていた。救急車に乗り、病院に着き、救急隊員と一緒に走り、手術室の前まで来た。なんだか気分が悪くなって床にしゃがみこんだ。送れて担任の原田が到着して、またしばらくすると舜の母親であろう女性が走ってきて原田から説明を受けていた。女性は歩み寄ってきて「舜の彼氏さん?いろいろありがとね」と言ってきた。そういえば、結構恥ずかしいことをしかもあの原田の前で言ったんだなぁと少し恥ずかしくなった。
やがて、手術中という文字が書かれたランプが消えた。まるでドラマみたいだ。ベッドが目の前を通り過ぎ、舜の母親は医師に呼ばれ部屋へと入っていった。
それからかなりの時間がたった。「おい」と原田に呼ばれたので顔を上げる。この出来事だけは残酷すぎて鮮明に記憶している。
「高峰のことだが、聞くか?」
ああ、話は終わっていたのか。でもこの聞かれ方は。
「あまり、よくないんですか」
ため息の後原田は告げる。
「俺も信じたくはないが、今意識がない状態だそうだ」
と、言われた。
あれからもう3日も経った。だがまだ彼女には一度も顔を合わせてはいない。あの日ですら彼女の顔を見ることなく病院を去った。怖かった。彼女は、舜は、いったい、いったいどんな姿でいるんだろう。意識不明だ、ちょっと足を折ったくらいの損傷ではないはずだ。包帯なんかでぐるぐる巻きに去れて、いったい誰だかわからない状態になっているのかも知れない。少なくともいつものようなあの小さくて
可愛い彼女の体ではないだろう。事故現場で彼女を抱き上げたときを思い出す。無理だ、怖い、見たくない、だから逃げた。
「なぁ、見舞い、行かないか?」
突然上原は言い出した。祐二ははっとする。
「まだ、俺行ってないし。つか、気になる」
沈黙が流れる。
「怖く、ないのか?」
上原に聞く。こいつはそんな勇気があるのか?
「何が?」
とぼけたように上原は返した。
「だって、意識不明だぞ?あいつが、どんな姿になってるか考えたら・・・・・・」
「馬鹿だろ」
上原は笑った。
「漫画の読みすぎ、またはブラクラの踏みすぎだな。そんなグロいことになってるわけねーよ」
「おまえ、耐性あるな」
祐二は笑って返した。
「お前本当に男かよ。いいから今日、行くぞ。タンバも連れて行こう」
そういって上原は校舎へと戻っていった。
放課後、祐二、上原、タンバの3人は校門前に集まった。舜のいる病院は学校から数キロの場所にある。
「じゃ、行くか」
上原は珍しく仕切って自転車で走り始めた。坂を下り事故現場、あの悲劇の跡はもう無かった。病院まで10数分かかったが誰も口をきかなかった。
「高峰舜さんの病室ってどこですか?」
受付の人に尋ねる上原。場所は615号室だそうだ。舜が入院しているのは河原市の総合病院でそれなりの大きさだ。昔祖父が入院していたこともあって中の構造はある程度記憶している。
「ここからは俺が案内するよ」
祐二は前に出て、中央のエレベーターへ向かった。
「オオ、ココダネ」
高峰 舜、という漢字だけはしっかりと読めるらしいタンバ。確認するや否やそのまま中に入っていった。続いて上原も入ろうとする。
「早くこいよ」
祐二は入るのをためらった。ここまで来たが、もう恐怖といったものは感じないが、どうも入る気になれない。そこに、中からもう一人誰か出てきて、
「早くおいでよ。舜ちゃんが待ってるよっ」
と手をつかんで強引に中へと引きずり込んだ。そして、
対面した。
「舜・・・・・・」
するすると力が抜けていった。倒れる自分をタンバががっしり受け止める。
そこにいたのは、いつもの舜だった。
「やっぱり舜ちゃんはいつも綺麗だよね」
ミキは微笑んだ。いつもと変わらない暖かい笑顔だ。
「・・・・・・ケガはどうなんだ?」
上原は聞く。
「右足の脛を折っちゃってるみたい。でも奇跡的に”ケガ”はそれだけ」
「ソンナノ、スグナオルディス」
確かに、折れたのが1箇所だけなんて、奇跡だな。しかし、
「意識がないんだよな・・・・・・まだ」
祐二は俯いた。
「違うよ」
ミキはキッパリ否定する。
「まだ気を失ってるだけだよ。気絶気絶。すぐ目を覚ますよ!」
「ソーダソーダ」
やけに明るいタンバ、本当は辛いんじゃないのか?
「そんな軽いことじゃ、ないだろ?」
明るくなりかけた空気がまた沈む。
「バカ」
「へ・・・・・・」
「バカバカ、何でそんな事言うの?らしくないよ・・・・・・。今舜ちゃんは闘ってるんだよ?頑張ってるのに、1人で辛いのに、一番好きな祐二君がそんな事言ってたら、わかるでしょ?」
いつに無く真剣な眼差し。ミキは歩み寄ってきて手を握る。
「お願い、希望を持って。それはきっと舜ちゃんの力になるから」
握られた手に涙がこぼれた。
「そうだ、そうだな」
全く俺は今まで何をやっていたんだ。情けない。俺の彼女だと堂々宣言しておいてこの様とは。
「うん、そうだそうだ」
ミキは涙を拭き舜のもとへ、椅子へ座り彼女の手を握る。
「ボクモ、ヤリタイディス」
ミキとは反対側の手をタンバは握る。楽しそうに文化祭の様子などをしゃべり始める。
「そいや、ミキさんは3日間何してたの?」
残念ながら空気と化していた上原が久々に喋る。
「あ、ごめんね、心配かけちゃったかな」
「元気そうだから良かったけど・・・・・・」
「ああ、かなりショックだったみたいだったからな」
祐二も口を挟む。
「うん、事故の翌日は部屋に篭ってたんだけどね、でもさっき言ったみたいに周りのみんなで元気づけなきゃって思って、次の日から毎日きてるんだ」
本当に驚かせられる、彼女には。これは計算でもなんでもなく素の行動だもんな・・・・・・。
「そっか、でもちゃんと学校には行けよ?来週から」
「うん、そうする。舜ちゃんのお母さんにも怒られちゃった」
といいつつも残念そうに見えるミキ。普段でも一緒に居たがるのに、こんな状況ならなおさらだ。しかし、一体何故ここまで、という疑問も沸いてくる。
(まぁ、今度聞いてみるか)
そんなことを考えながら、持ってきた花を花瓶に移した。
とぅっとぅる~ん。甘党だよ~。
はい、実は先日、アニメ版シュタインズゲートを見ました。なかなか良い作品と聞いていたシュタゲとあの花で迷っていましたが、「なんかシリアスっぽい!」という自分好みの判断でシュタゲにしました。そして予想通り終盤は重い展開に・・・・・・しかし面白い。
で、全く内容には関係ないけど、
ルカ子と助手が可愛すぎて泣いた そして結婚してくれ
はい。すみません。
これってもともとはゲームだったんですね。見た後に知りました。ゲームのほうがラストが感動的らしいのでこっちも機会があれば、と。(初見でやりたかったあああああうあああああああ)