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俺は女の子になったようです  作者: 甘党
俺は女の子になったようです
13/20

夜の川土手で

リコとの決戦から数週間、舜たちは1年最後の大イベントクラス替えを迎えた。来年も3人仲良く同じクラスになることができるのだろうか。

さらに夜には学校近くの川土手で・・・・・・


※一章最終話

 最近かなり暖かくなってきた。学校の西を流れる川の土手にある桜も少しずつ開花している。

3月下旬、この時期学校では退職転勤する教師を送る離任式がよく行われる。舜の学校もこの日、離任式がある。もちろん世話になった教師がいなくなるわけでもないので、ただただ面倒なだけだ。

しかし、この日は同時に新しい学年のクラス発表があるので大半の生徒は、それ目当てで登校するので

ある。

「同じクラスになるといいな」

と、上原が言う。しかしそれは舜と上原とではなく、

「だな」

 この祐二とである。対リコ戦との決着から早数週間。一応あの日以降、この2人は付き合っているということになっているのだが、当の本人たちは、というと「今までとあまり変わらない」

「はっきり言って実感がない」などと、世間一般のカップルとは少々違う境遇なのだった。上原もなんら気遣いをするわけでもなく、いつものように”ダルイ軍団”を形成し、

「クッソー なんで春休みのど真ん中にこんな刑務所みたいなところに来なきゃなんねーんだよ」

「全くだよ。これでクラス発表がなかったら・・・・・」

「死ぬな」

 といった調子である。

「で、問題はそのクラス発表か」

「ウチらみんな理系だけど、仲良すぎたし、お荷物だったからバラけるかもね」

「人間関係再構築とか・・・・・・・だりーな」

 確かに仲良しグループはバラける、といった傾向は小学校のときからもよく言われていたことだった。クラス替え近くになると喧嘩をしてみて仲の悪さを強調させようとしていたやつもいた気がする。

「上原って環境の変化をとことん嫌うよね」

「まぁな」

 といっても、このメンバー皆がそれを嫌っていた。離れてしまうのはやはり嫌なのだ。


「先生方が退場されます。拍手で送りましょう」

 離任式は無事終了した。無論3人とも居眠りでやり過ごしている。眠気覚ましという格好で拍手する。

「生徒退場」

 司会が言う。

「やれやれ、やっと終わりか」

 祐二はわざとらしく伸びをする。

「クラス発表だな、あぁ~あ」

 と、欠伸しながら上原。教室へ戻る。


 ホームルームでは来年度のための書類の移動の説明が行われていた。生徒個票といった重要書類を新クラスに引き継ぐというものだ。1年前に書いた書類を見る。

(いろいろあったよなぁ)

高校入学、部活、祐二、上原との出会い、そして何より、

(女の子になっちゃったんだよなぁ)

ジジイの仕業でこの事実を知っている物は本人だけである。もちろん誰にも言うつもりはないし、信じてもらえるはずもない。

「じゃぁ、新クラスの名簿を配るぞ」

 いよいよこの時が来たとばかりに、教室がざわめく。

(どれどれ・・・・・・)

 理系クラスは1組から4組で、4組が特進クラスになっている。課外など面倒なことが山ほどあるの

で無論、希望はしなかった。

(・・・・・・!あった)

 2組だった。2年2組。これが新しいクラスだ。まぁそれはよしとして、

(・・・・・・祐二)

 1組だった。つまり同じクラスではない。舜は祐二を見る。祐二は「残念だったな」という顔でこっちを見ている。しかし、それほど残念な気持ちにはならなかった。なぜならもう自分たちは結ばれているからであろう。

(・・・・・・上原)

 2組だった。つまり同じクラスである。上原の方を見ると「よかった」という顔でこっちを見てる。

しかし、それほど嬉しくなかった。なぜなら、祐二と一緒になりたかったからだ。代わって欲しかった。まぁいいか、友達づくりにやっきにならなくてよいのだから。

(リコ・・・・・・)

 4組だった。つまり同じクラスではない、祐二とも自分とも。心底うれしかった。ざまぁ見ろと思った。特進だったのが気に食わなかった。

(・・・・・・ミキ)

 2組だった。つまり同じクラスである。例の事件の後、ミキと話をした。リコの策についてだ。話を聞くところ、そのような策は全く知らなかったらしい。リコからは「高峰さんを応援しなさい」という指示があっただけだと言う。(リコはかつて仲間外れにされたとき助けられた恩があり、それを弱みにされているらしい。その助けもライバルを蹴落とすための策だったらしいいが、ミキは知らないと聞いている。)彼女に悪気はなかったようなので仲直りすることになった。そして新クラスでは同じクラスに。彼女のことは変なヤツがまとわりつかないように守ってあげなくては。

(あとは・・・・・・)

 あまり話したことのない西野君(男)と和田さん(女)が同じクラスだった。


 放課後、部活がなかったので3人でカラオケ、食事等(いわゆる打ち上げ)に行った。1年最後ということでかなり盛り上がった。カラオケでは驚異のペースで通常の3倍も歌い、焼き肉食べ放題では、

リバースする寸前まで食べた。そして帰宅する頃にはあたりはすっかり暗くなってしまっていた。

3人は学校近くを流れる川の土手に座って、ぼんやりと空を眺めている。

「疲れたな」

「うん」

「ああ」

 夜空は満天の星空だった。なんともありがちな風景だが、とても美しい。

「なんか、ずっとこのままでいたい」

 舜は言う。本当にそう思う。いつまでもこのバカ3人でバカやっていたい。

「だなぁ」

 上原は寝そべって腹をさすっている。

「なぁに。これからもいつだって遊べるさ」

 空気を読まない上原のせいで、祐二との間は上原によって隔てられている。

「やべ、今から塾だ」

 上原が立ち上がる。3人の中で唯一塾に通い続けている。「じゃぁ」とだけ言って上原が去る。

さて、邪魔者がいなくなった訳で。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 沈黙が続く。未だ上原の跡地の距離は残ったままだ。

・・・・・・・・・・・・

何分ぐらいたっただろうか。ずいぶん長い時間2人は無言で座っていた。しかし帰ろうとはしない2人ともこの時間が終わってしまうのが惜しかったのだ。

「帰ろうか、祐二」

 舜が切り出した。

「あぁ、そうだな」

 気の抜けた声で祐二が答える。2人は自転車が置いてある土手の上に向かって歩き出した。

「手・・・・・・繋がない?」

 舜は勇気を出して言ってみた。手を差し出して。

「・・・・・・」

 祐二は無言で差し出された手を握った。

・・・・・・・・・・・・

自転車までのほんの十数メートル。短いような長いような距離だった。

「じゃぁな、また」

 いつもの別れの挨拶。舜は自転車に腰かける。本当に別れが惜しかった。しかしもう別れなければならない。舜はふんぎりをつけて言う。

「じゃぁね、また」

 いつもの挨拶、そして・・・・・・

「んっ・・・・・・」

 自転車に腰かけると自分の顔の高さにあった祐二の頬、それに向かって唇を一瞬押しつけた。何とも下手くそだった。

 舜はすぐさまペダルに足をかけて走り出す。祐二がどんな顔をしているのかは見なくてもわかった。

だから見ない。

ひたすら自転車をこぐ。全力でこいだ。

どうも、作者こと甘党でございます。

今話をもちまして本作、1章完結でございます。年度終わりということで区切りの良いところです。2章はもっとゆっくりまったりな展開になる予定です。どうぞそちらもよろしくお願いします^^


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