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キスの魔法  作者: ユキ姫
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三カ月の恋

人は一人では生きていけない。きっと死ぬまで恋をし、愛を求め、幸せを捜し続けるだろう。その中の1ページ。

今までどれだけの恋愛をしてきただろう?


誰かを好きになって、喜んだり涙を流したり…

正史(まさし)と出会って新たな恋が始った。愛ではなく恋だったんだ。


会社帰りに同僚とよく行く喫茶店ーいつものように、香りたつ美味しいコーヒーを飲みながら他愛もないお喋りをしていた。


「ねぇ、今年の宇治の花火は幸(さち)のマンションから眺めようよ!」同僚の結子(ゆうこ)が話しかける。

「眺めるって言うより、上の方に上がる花火が少し見えるだけだよ。」

「それで充分。花火を肴に飲み会しよう。」

確かに私の家はマンションの7階でベランダが東南にあって眺めもよく、ベランダからの風景は南には大きな公園がすぐ目の前に広がり、東には有名な東寺も見える。

少し離れたところに京都タワーも見えて、夜の12時になるとライトアップされていた灯がフッと消える。

眺めだけにとどまらず、部屋を吹き抜ける風も気持ちいい。

そんなマンションに一人暮らしをしているのだから自然と宴会場所になるはずだ。


こんな話をしていた時に、隣席で食事をしていた男子が声をかけてきた。


「君の家ってそんなに眺めいいの?」

ーなんてナンパな奴ーよく見ると、いつも通勤途中に目にする人だった。


「俺、山下正史。君はN商事に勤めてる人でしょ?いつも通勤途中会うよね?」

ー見られてる?ー

「実はさ。話し聞こえてて、君の家って俺の家のすぐ近所!眺めいいの最高だよね!俺たちも交ぜてよ。その宴会。」


なんと早い展開。若さゆえだろうか?

いえいえ。

私も彼も40過ぎてる。

会社帰りだった事もあり、また出会う事があればねと話を遮り店を出て帰路についた。


結子と別れ、帰りのバスに乗ると山下正史も同乗していた。考えて見れば、家が近くなら一緒のバスに乗っていても当然だった。


バスを下りて、目の前にある居酒屋に立ち寄る事にした。よく行く店でマスターとも顔馴染で、一人で家に帰っても寂しいだけだし、少しの食事と少しのお酒と少しの会話を楽しみたかった。

正史も振り切れるかとも思っていた。


ところが、「よぉ、元気かぁ?」と、マスターが話かけたのは、私ではなく彼にだった。「変わりなく、元気やでぇ。店は繁盛してるか?」

なんと、二人は同級で昔からの友達だった。

私はビールを飲みながら彼らの話に耳を傾けていた。


正史は学生時代に随分ヤンチャをしてた事、仲間や関わった人には情が熱い事、今は独身だが子供がいて離れて暮らしてる事。そして彼女がいる事。

ーどうして、喫茶店で声かけてきたの?ー


そんな私も今は独身だが、独立した娘もいて彼もいる。彼とのつきあいは6年は過ぎてる。彼からもらった指輪もはめてる。ガードは固いはずだ。ただ私の恋愛にゴールはない。彼には家族がいて、必要な時にすぐに飛んで来てくれる事は期待できない。そんな私の心の中のちょっとした隙間に正史が入りこんでくるのを感じた。


「小池さんと山ちゃん、二人は知り合い?」カウンターに座った私達にマスターが話かけてきた。

事の経緯を話すと、

「人と人との出会いなんて、そんなもんやわぁ。」とマスターは笑い飛ばしていた。


私は少し気持ちもほぐれお酒も手伝って、今のこの時間を楽しもうと思った。


お互い、彼氏彼女がいるなら…と安心感もあり、互いの人生感や考え方など話してるうちに、私達は似てるんだと感じた。


離婚をするにも人それぞれ色んな事情があって当然だ。

それでも人は一人でいられない。

愛されたいし、愛したい。

必要とされたいし必要な人でいたい。

自分が生きている実感がほしい。


きっと私達は兎と同じで、誰からも相手にされず構ってもらえなかったら死んでしまう人種なのかもしれない。肉体が死ぬのではなく心が…。


店を出る時にメールを交換した。二十歳前後の若者がしてる事と、その倍も生きてる私達に何の違いもない。

心はずっと年をとらないのだろうか?


何週間たっただろう。気付かない間に宇治の花火大会は終わってた。彼をこの家に呼べなかった事を少し悔やんだ。でも呼ぶ理由もなかった。



九月に入ってメールが届いた。

「今晩、前に行った居酒屋で飲まない?」

返事は「いいよ。」


6年続いてる彼とは週に1回会うくらいで、結婚を考えてる付き合いではないから、正史のメールにすぐ返事をした。


その夜に居酒屋で、

「マンションから公園がみたいなぁ。小さい頃からずっと遊んでた。」

あの公園を見せてあげたいと思った。

下からの景色ではなく上から見渡す事で彼の心が癒されるのかもしれない。


一人暮らしのマンションに夜遅く男の人を招き入れるのはやはり危険だ。

一応、常識はわきまえてるつもりだ。


その日は、たまたま娘が帰省しているせいもあり、私一人ではなかったため、「公園が見たい」と言う彼に、

「家にくる?娘もいるけど。」と声をかけていた。


「行く。行く。」

陽気な彼と家で飲みなおす事にした。


案の定、娘は家にいた。もしいなければ、外の景色も手伝って事が起きてたかもしれない。

「そうそう。この公園!あのこんもりした山に登ったり、周りを走り回ってた。」


彼の語り口調が、ヤンチャな子供時代を連想させた。


「公園のすぐ横の茶色い壁の家が、俺の実家。今は別に住んでるから少し離れてるけど。」

「えぇ!」

私は叫んだ。

目と鼻の先ほどの距離にいたんだと思うと、私がここに住み始めて10年だから、どこかですれ違ってた事も有り得る。

そう思うと彼との距離が近くなった気がした。

娘がいたおかげで何も起こらず、それが少し寂しかったりもした。

帰りぎわ、玄関のドアを「さよなら」と言って閉めるには忍びなく、エレベーターに飛び乗りマンションの下までついていった。


「俺らつきあう?つきあわない?」

まるで学生同士の会話。

「つきあう!」

私は自分の今の心のままに答えてた。


じゃあ…と言って

1秒にも満たないキス。

その暖かい感触が私の心の琴線にふれた。


その時、私は恋に落ちた。


大きな波が私を飲み込んでいくように、喜んだり泣いたりの感情の波がここから始まる。

ーキスの魔法ー


私にとって、長くもありあっと言う間の三カ月の恋が始まった。


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