第八話 それでも選ぶ
その日、
選択を迫られた。
大げさなものじゃない。
人生を左右する決断でもない。
ただ、
誰かがやらなければならない仕事。
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「誰か、
これ担当できる人いる?」
上司の声。
少し面倒で、
少し責任がある。
今までなら、
様子を見ていた。
空気を読んで、
誰かが手を挙げるのを待つ。
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“正解”は、
まだ分かる。
今は黙っていること。
波風を立てないこと。
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でも。
なぜか、
その場に残る沈黙が、
気になった。
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胸の奥が、
静かに、
ざわつく。
やりたいわけじゃない。
自信もない。
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それでも。
逃げたい、
とも思わなかった。
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「……やります」
声が、
思ったより、
はっきり出た。
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一瞬、
視線が集まる。
驚きも、
困惑も。
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「ありがとう」
上司が言う。
それだけ。
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席に戻ってから、
心臓の音が、
しばらく大きかった。
後悔が、
来るかもしれない。
失敗するかもしれない。
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それでも、
取り消したいとは思わなかった。
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仕事を進めながら、
何度も立ち止まる。
判断に、
時間がかかる。
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前なら、
誰かのやり方を探していた。
今は、
探さない。
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分からないまま、
考える。
間違えるかもしれないまま、
選ぶ。
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夕方、
一段落したところで、
気づく。
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疲れている。
でも、
嫌じゃない。
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達成感でも、
自信でもない。
もっと、
地味な感覚。
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「引き受けた」
という感じ。
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帰り道、
空を見上げる。
夕暮れが、
ゆっくり沈んでいく。
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今日の選択が、
正しかったかどうかは、
分からない。
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でも。
誰の真似でもなく、
自分で引き受けた。
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それだけで、
十分だった。
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完璧じゃない。
不器用だ。
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それでも、
こうやって、
一つずつ選んでいけばいい。
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人生は、
きっと、
その積み重ねだ。
最終話:他人模倣




