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他人模倣  作者: 悠羽
3/10

第二話 正解の演じ方

模倣は、役に立った。


 それが一番、

 厄介なところだった。



 社会に出てからの僕は、

 驚くほど順調だった。


 遅刻もしない。

 反抗もしない。

 余計なことを言わない。


 上司の話を、

 少しだけ大げさに頷いて聞く。

 同僚の愚痴には、

 否定も肯定もせずに相槌を打つ。


 その場に必要な感情を、

 必要な分だけ出す。



「君は、

 安心して任せられるよ」


 そう言われるたびに、

 胸の奥が、

 少しだけ軽くなる。


 子どもの頃と、

 同じだった。



 飲み会では、

 盛り上げ役の真似をした。


 無理に中心に行かない。

 でも、

 完全に黙りもしない。


 場の空気が沈みそうになったら、

 誰かの話を拾って、

 少しだけ笑いに変える。


 それで十分だった。



 恋人がいた時期もある。


 優しい人だった。

 少なくとも、

 そう振る舞っていれば、

 関係は続いた。


 相手が望む言葉を考え、

 不安にならない距離を測る。


 ケンカになりそうなときは、

 先に謝る。


 正解だった。



「一緒にいて、

 楽だね」


 そう言われた。


 それは、

 褒め言葉だったはずだ。



 でも、

 一人になったとき、

 何も残らなかった。


 楽しかったのか。

 好きだったのか。


 自分の感情を確認しようとすると、

 頭の中が、

 静かになる。



 違和感は、

 小さかった。


 生活に支障はない。

 困ることもない。


 だから、

 気づかないふりができた。



 模倣は、

 努力じゃなくなっていた。


 考えなくても、

 体が動く。


 言葉が出る。


 失敗しない。



 それは、

 “うまく生きている”

 という評価に、

 よく似ていた。



 ただ、

 ある日、

 ふと気づいた。


 自分の意見を聞かれたとき、

 少しだけ、

 時間が止まることに。



「君は、どう思う?」


 そう聞かれて、

 頭の中を探す。


 誰かの言葉。

 無難な答え。

 正解っぽい意見。


 でも、

 それしか出てこない。



 自分が、

 どう思っているのか。


 それが、

 見つからない。



 沈黙は、

 ほんの数秒だった。


 でも、

 その間、

 胸の奥が、

 妙にざわついた。



 完璧だったはずの模倣に、

 小さな遅延が生まれた。


 まだ、

 壊れてはいない。


 でも、

 確かに、

 引っかかりは残った。



 その夜、

 帰り道で思った。


 このままでも、

 生きてはいける。


 きっと、

 問題なく。



 それでも。


 不器用な誰かが、

 間違えながら生きている姿を、

 ほんの少しだけ、

 羨ましいと思ってしまった。



 それが、

 最初のズレだった。


第三話:模倣が通用しなくなる

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