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他人模倣  作者: 悠羽
2/10

第一話 模倣の始まり

最初に覚えたのは、

 「正解の顔」だった。


 喜ぶべきときの表情。

 黙っていたほうがいいときの目線。

 大人が安心する声の高さ。


 それは誰かに教えられたわけじゃない。

 空気を読んで、

 少しずつ身につけただけだ。



 子どもの頃の僕は、

 特別な子ではなかった。


 足が速いわけでも、

 頭が抜けているわけでもない。


 ただ、

 怒られない子だった。



「いい子だね」


 その言葉をもらうたびに、

 胸の奥が、

 少しだけ軽くなる気がした。


 だから、

 その“いい子”を続けた。



 クラスに一人はいる、

 声が大きくて、

 中心にいる子。


 僕は、

 その子の笑い方を覚えた。


 発言のタイミング。

 冗談の種類。

 先生の前では、

 一歩引く感じ。



 別のクラスには、

 静かで、

 成績がいい子がいた。


 その子のノートの取り方。

 質問の仕方。

 褒められたときの、

 控えめな反応。


 全部、

 使えそうだと思った。



 使えそう、という言葉は、

 冷たいかもしれない。


 でも、

 当時の僕にとっては、

 生き延びるための感覚だった。



 自分の意見を言って、

 浮くよりも。


 感情を出して、

 嫌われるよりも。


 正解をなぞったほうが、

 ずっと安全だった。



 気づけば、

 自分の中に、

 たくさんの型ができていた。


 家用の自分。

 学校用の自分。

 大人の前の自分。


 どれも、

 ちゃんと動く。



 ただ、

 ひとつだけ分からなかった。


 どれが、

 本当の自分なのか。



 でも、

 その疑問は、

 必要なかった。


 正解を出せているうちは、

 問題にならない。



 中学に上がる頃には、

 僕はもう、

 考えなくなっていた。


 どう感じるか、ではなく。

 どう振る舞うか。



 選択肢は、

 いつも誰かの後ろにあった。


 親が安心する進路。

 先生が勧める選択。

 周囲が納得する答え。


 それを選ぶことに、

 抵抗はなかった。



 選んでいないのに、

 選んだ気になれる。


 それは、

 とても便利だった。



 模倣は、

 やがて、

 癖になった。


 考えなくても、

 体が動く。


 言葉が出る。



 そして、

 いつの間にか、

 模倣は、

 自分そのものになっていた。



 だから僕は、

 まだ知らなかった。


 自分の人生を、

 誰の真似でもなく

 選ぶということを。



 それが、

 どれほど怖いことなのかを。


第二話:正解を演じ続けた日常

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