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他人模倣  作者: 悠羽
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最終話 他人模倣

もう一度、問おう。


 それは、

 本当に君が望んだ運命なのか。


 気づかないうちに、

 誰かが敷いたレールの上を、

 自分の意思だと思い込んで歩いてはいないか。


 無意識のうちに造られた、

 偽りの人生を生きてはいないか。


 個性と呼ばれるものを、

 邪魔だと思って殺してはいないか。


 世間の目を気にして、

 「こうあるべき」をなぞるために、

 無理をして笑ってはいないか。



 特別な朝ではなかった。


 目覚ましが鳴って、

 起きて、

 支度をして、

 家を出る。


 世界は、

 昨日と同じ形をしている。



 それでも、

 少しだけ違った。



 駅へ向かう道で、

 ふと足を止める。


 理由はない。

 急ぐ必要もない。


 ただ、

 立ち止まりたかった。



 今までの自分なら、

 そんな無駄な動きはしなかった。


 時間は守るべきもの。

 予定は乱さないもの。


 そうやって、

 正解を積み重ねてきた。



 でも、

 今日は、

 その場で空を見上げた。


 曇っている。

 きれいでも、

 印象的でもない。



 それなのに、

 なぜか、

 安心した。



 会社に着く。


 挨拶をする。

 仕事を始める。


 誰も、

 僕の変化に気づかない。



 それでいい。



 模倣を、

 やめたわけじゃない。


 必要なときは、

 使うだろう。


 社会で生きる以上、

 それは、

 きっと避けられない。



 でも、

 模倣だけで、

 生きることは、

 もうしない。



 分からないときは、

 分からないと言う。


 うまく言えないときは、

 黙る。


 間違えたら、

 謝る。



 それは、

 不器用な生き方だ。


 効率も、

 評価も、

 少し落ちるかもしれない。



 それでも。



 昼休み、

 一人で食事をする。


 何を食べたいか、

 ちゃんと考えて選んだ。


 小さなことだ。



 でも、

 それが、

 嬉しかった。



 誰かの期待でも、

 世間の正解でもない。


 ただ、

 自分の感覚。



 午後、

 ふと、

 誰かの言葉を真似しそうになる。


 昔の癖だ。



 でも、

 一呼吸置く。


 今、

 どう感じているかを、

 確かめる。



 完璧な答えは、

 出ない。



 それでも、

 自分の中から、

 言葉を選ぶ。



 帰り道、

 夕方の街を歩く。


 人は多い。

 皆、

 それぞれの顔をしている。



 不器用な人も、

 器用な人も。


 間違える人も、

 正解を出し続ける人も。



 その中に、

 自分がいる。



 それで、

 十分だった。



 完璧な人間には、

 なれなかった。


 でも、

 最初から、

 なる必要はなかった。



 誰かの人生を、

 上手に再現するより。


 少し歪でも、

 自分で選んだ一日を、

 積み重ねていく。



 それが、

 人間らしさなのだと、

 今は思う。



 模倣は、

 僕を守ってくれた。


 だから、

 否定はしない。



 ただ、

 もう、

 主役にはしない。



 これから先、

 迷う日もある。


 また、

 誰かの真似をしたくなる日も、

 きっと来る。



 それでも、

 立ち戻る場所は、

 分かっている。



 不器用なまま、

 選び続けること。



 それが、

 僕の人生だ。





ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


 この物語は、

 「どう生きるべきか」という答えを

 提示するためのものではありません。


 むしろ、

 問いを残すための物語でした。


 正解をなぞること。

 空気を読むこと。

 誰かの期待に応えること。


 それらは、

 決して間違いではありません。


 実際、

 私たちはそれによって守られ、

 生き延びてきました。


 けれど、

 それだけで生きていると、

 いつの間にか

 自分の感情がどこにあるのか

 分からなくなってしまう。


 この作品は、

 完璧になることをやめ、

 不器用なまま選び続けることを

 肯定するために書きました。


 もし読み終えたあと、

 少しだけ立ち止まって、

 「自分はどうだろう」と

 考える時間が生まれたなら。


 あるいは、

 答えが出ないままでも、

 それでいいと思えたなら。


 それだけで、

 この物語は役目を果たしたのだと

 思います。


 静かな時間を、

 ここまで共有してくれて、

 本当にありがとうございました。


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