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霊少女  作者: 蓮田 れん
9/11

10

「今井さん!!」

教室に入った瞬間、優斗が駆け寄ってきた。抱きつく勢いだ。

「出たんだよ! 昨日マジで出た! 幽霊! 俺、殺されかけたんだけどさ。でも今井さんのお守りのおかげで助かって……!」

機関銃みたいに喋る優斗に、クラスメイトの視線が一斉に集まる。

「ちょっと、優斗くん。ここじゃまずいわ。後で、二人きりの時に――」

昨夜の件で咲子は憔悴していた。それでも、優斗と二人きりになれる機会を逃したくなかった。

「そんな場合じゃないって。 一限目サボってさ、空き教室行こうぜ。いい場所知ってるから。早く聞いてもらいたいし」

「……わかったわ」

授業をサボる。

好きな男の子と一緒に。

昨夜の恐怖を一瞬忘れ、咲子の頬は熱を帯びた。

背後で、鋭い視線が突き刺さっていることにも気づかずに。



「ここが、その場所?」

「そう。俺の秘密の場所。誰も来ないし、ギターの練習に丁度いいんだ」

二人が入ったのは、三階の隅にある使われていない教室だった。

数年前から立ち入り禁止になっているその教室は、生徒たちの間で「開かずの間」と呼ばれている。

「でも、ここ鍵かかってたはずじゃ……」

「新任の若い女の先生いるだろ? ちょっと仲良くなってさ。職員室に隠してある鍵、借りてきてもらった」

得意げに、優斗は鍵を掲げる。

「……さすがね」

人の心に入り込むのが上手い。

咲子は内心、溜息をついた。

「それでさ、昨日の話なんだけど――」

椅子に腰掛けた優斗が、昨夜の出来事を詳しく語り始める。

女の声。白い手。お守りを見せた途端に消えたこと。

「マジで助かったよ。今井さん、本物だな。霊能力。感謝しかない」

「……そう」

咲子の顔から、血の気が引いていく。

優斗の語る内容と、昨夜自分の身に起きたこと。

偶然で片づけるには、重なりすぎている。

ガタン。

突然、壁にかかっていた時計が床に落ちた。

「あーあ。ここ何年も使ってないから、ガタガタしてんだよな」

軽く笑う優斗とは対照的に、咲子は時計を拾い上げて凍りついた。

裏に――お札。

「……なに、これ」

「どうした?」

机。椅子。掲示物。壁。

咲子は教室中を見回した。

すべての裏に、同じ札が貼られている。

「優斗くん! 今すぐここを出て!」

「は? なんで――」

「いいから!!」

咲子は優斗の腕を掴み、ドアへ引きずる。

――開かない。

「そんなわけねぇだろ」

優斗が力任せに押すが、びくともしない。

腐ったような臭いが漂い、空気が一気に冷えた。

その時。

「どうして」

教室の中央に、制服姿の女学生が立っていた。

白い手足。汚れた胸元。

長い黒髪が垂れ、顔は見えない。

「ひっ……」

「ああああああああ!!」

優斗の悲鳴が響く。

「今井さん! なんとかしろよ! 霊能力者だろ!」

ドアを叩いても、無駄だった。

「どうして……」

少女の声。

優斗が聞いた声。

咲子が聞いた声。

「どうして、ずっと、まっていたのに」

少女は、ゆらりと近づいてくる。

白い手が伸び――

「貴女はいない」

鋭い声が割り込んだ。

ドアが勢いよく開く。

「貴女はいない。もうこの世にいない。誰にも見られない。誰にも認められない」

飛び込んできたのは、あけみだった。

「忘れられた存在なのよ」

少女は悲鳴を上げ、自分の髪を掻き毟る。

やがて、霧のように消えた。


静寂。

床にへたり込む咲子と優斗。

「話を聞かせて。まずは貴女から」

あけみの視線が、咲子を射抜いた。


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