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――その頃。
咲子の髪が、強い力で引き抜かれた。
「痛っ!」
慌てて振り向く。
誰もいない。
当たり前だ。ここは自分の部屋なのだから。
気のせいか、と溜息をつき、再び携帯に目を落とす。
画面には、隠し撮りした優斗の写真。
にへら、と笑いながらベッドの上で転がる。
――グンッ。
再び、髪が強く引かれる。
「な、何……?」
振り向いた瞬間、咲子は凍りついた。
長い髪の毛先に、白い手首が絡みついている。
「……え」
生まれて初めて見る怪異に、身体も意識も動かない。
手の力が強まる。
頭皮が剥がれそうなほど、髪を引きちぎられる。
「ああ……嘘……」
「おまえ」
どこからともなく、女の細い声。
「ちかづくな」
ブチ、ブチ、ブチ。
大量の髪を毟り取られる激痛と恐怖。
咲子の意識は遠のき、世界は暗転した。
朝の光の中で、咲子は目を覚ました。
時計は、いつもの起床時間を示している。
夢だった――。
そう思い、体を起こした瞬間。
手に、異様な感触。
「ひっ……」
大量の黒髪が、腕に絡みついていた。
夢じゃない。
ベッドの上には、乱暴に引き抜かれた自分の髪が散乱している。
その中に――一本。
赤い紐。




