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霊少女  作者: 蓮田 れん
6/11

「髪に足音、今度は手形。マジで気味悪い。助けてくれよ、今井さん」

次の日の放課後。二人きりの教室で、優斗は咲子に泣きついた。

昨夜眠れなかったのだろう。赤く腫れた目元が、なんだか可愛い――場違いなことを考えていた咲子は、ふいに両手を掴まれ、びくりと身を反らした。

「なあ、俺いったい何に憑かれてるんだよ。昨日は『私に任せなさい』とか言って、何にも教えてくれなかったけど……俺、どうしてこんな目にあってんの?」

優斗の手は熱く、力強い。わずかに震えているのが、可哀想で、可愛い。

「だから私に任せておけば大丈夫よ。とりあえず、これを持っていなさい」

咲子はポケットから赤いお守りを取り出し、優斗に渡した。

「何これ。お守り?」

「そうよ。あなたを守ってくれるもの。私が作ったの」

霊感など欠片もない以上、咲子の手作りのお守りに効力などない。咲子が一番わかっている。

お守りの中には、咲子の髪を一房、赤い紐でまとめたものが入っていた。霊能力とは無関係の、ただの独占欲だ。

「わざわざ俺のために作ってくれたんだ。ありがと。これでちょっと安心できる」

「それは良かったこと」

出鱈目なお守りでも、意味がゼロとは限らない。目に見えない不安に対して、形のある“武器”を持つと精神が落ち着くことがある。

それは、インチキ霊能相談を続けてきた咲子が身につけた実感だった。

「でもさ、正直、何が見えるわけ? 俺に」

優斗はお守りを大切そうにシャツのポケットへ入れ、ぽつりと言った。

「全然わかんないんだよな。俺、霊スポットに行く趣味もないし。女遊び激しいって言われるけど、好きになった子には一途だし。人の女に手を出すとか、面倒なこと絶対しないし。そんな恨まれるようなこともしてないと思うんだよね。……それとも、因果関係なしで襲う幽霊に目をつけられたのかな」

「幽霊に人間の理屈なんて通用しないわ」

どこかのオカルト本で読んだ文句を、咲子はそのまま口にした。

「幽霊は幽霊の理屈で憑くの。あなたの理論も言い訳も、憑いているものには通用しない」

曖昧なことは断定口調で言う。あとで矛盾が出にくいし、相手が都合よく解釈してくれる。

咲子の中で、インチキ霊能者の腕だけが上がっていく。

ふいに、じっとりとした視線を感じた。教室のドアを見ると、わずかに開いた隙間から、あけみがこちらを覗いていた。

幽霊よりずっと恐ろしい存在に身震いしつつ、咲子はさりげなく、優斗の胸元――さっきお守りを入れたあたりへ手を伸ばす。

ドクン、ドクン。

心臓の音が、手のひら越しに伝わる。

「これ、肌身離さず持っていなさい。私だと思って頼るといいわ」

「うん。ありがと。大切にする」

優斗は頷いたあと、少し困ったように笑う。

「もっと話聞いてほしいけど、俺そろそろギター練習しなきゃ。もうすぐ学生だけのライブに参加するんだ」

「こんな時まで練習なんて、大変ね」

本当はもっと一緒にいたい。その気持ちを押し殺して、わざと呆れたように咲子は言った。

「まあ、そう言うなって。お化けも怖いけど、ライブで失敗するのも怖いんだよ。最近いい練習場所見つけてさ。腕、かなり上がった感じだし」

「いい練習場所?」

「そう。秘密の開き教室。じゃ、また明日な」

さっきまで震えていたくせに、もう笑顔だ。優斗は愛用のギターを抱え、風のように教室を飛び出していった。

いつのまにか、覗いていたあけみの姿は消えている。

咲子は一人、教室に取り残された。

ガタン。

誰も触れていないはずの優斗の席が、小さく音を立てて揺れた。


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