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霊少女  作者: 蓮田 れん
3/11

誰かに見られている気がする。誰かの足音が聞こえる。呪われている気がする。幽霊に憑かれている気がする。

そんな悩みを打ち明けられるのは、咲子にとって初めてではなかった。

中学生の頃、ある事件をきっかけに「霊感少女」として一部で有名になって以来、咲子のもとには時折、怪しげな相談が舞い込む。幽霊にとり憑かれている、祟られている、などなど。

対処はだいたい決まっている。相手の話を馬鹿にせず、じっと聞く。そして相手が満足するような言葉を添える。反応がいいのは、たとえば次の三つ。

「良くないものに気に入られたようね」

「すごいものをつけてきたわね」

「あなたにも視えるの?」

原因の大半は、気のせいか、ノイローゼか、被害妄想だ。冷静に考えれば分かることを怪異に結びつける人間は、意外と多い。皆、どこかで「特別」を望んでいるのだと、咲子は思っていた。

相談を受けて数日後、咲子は言う。

「もう大丈夫よ」

悩みを肯定し、解決したと断言する。それで相談者は安心し、咲子の信頼度も上がる。クラス内の立ち位置も保たれる。すべて丸く収まる。

――実のところ、咲子には霊能力などまったくない。

気配を感じたこともない。見たこともない。親戚に霊感持ちがいるわけでもない。不可思議な現象が身の回りで起きたことも一度もない。

それでも霊感のあるふりをするのは、それだけが「人に存在を認めてもらえる方法」だと思っているからだった。

勉強はできない。運動も苦手。容姿は地味。性格も暗く、内気で、おどおどしている。

小学生の頃、咲子はからかいの標的だった。馬鹿だ、ブスだと罵られ、体操服を持っていかれ、一日に一回は学校で泣くような毎日。

中学に入ると、いじめはなくなった。代わりに、存在そのものを忘れられた。

わざと無視されているのではない。本当に忘れられる。誰も話しかけない。咲子から話しかけることもできない。空気のように目立たない存在になった。

最初は安堵した。けれど休み時間、一人で机に突っ伏していると、寂しさと情けなさが限界を越えそうになることがあった。

おかしな話だが、小学生の頃のほうが「注目されている」という点で、まだマシだったかもしれないと思えたほどだ。

何の能力もないくせに、どこかで見てもらいたい、認められたいという欲が咲子にはあった。

霊能力者の少女が主人公のアニメにハマってから、咲子はオカルトにのめり込んだ。黒魔術、コックリさん、前世、守護霊、呪い――。文献を読み漁り、いつか自分にも何かしらの力があればいいのに、と夢見るようになる。

やがて、咲子は唐突に言い出した。

「霊がいる」「何か感じる」と。

もちろん真っ赤な嘘だった。集まった視線は好意ではない。

「また言ってるよ」

「頭おかしいんじゃないの?」

嫌悪と侮蔑の、冷たい目。

咲子自身も楽しんでいたわけではない。けれど、存在を忘れられるよりはマシだった。間違いだと自覚しながらも止められなかった。いじめが再開するかもしれないという恐怖と、「見られている」というほのかな嬉しさが同居していた。

状況が一変したのは、中学最初の夏休み直前。連日ニュースになっていた行方不明の小学生の遺体を、咲子が発見した時だった。

川辺を歩いていて、偶然、川に浮かぶ女の子を見つけただけ。それなのに咲子は、まるで霊能力のおかげで見つけたかのように吹聴した。

その結果、「咲子の霊能力は本物らしい」という噂が流れ始めた。

クラスメイトは咲子を「一目置く」ようになった。親しくはならないが、見下してからかうこともしない。存在を忘れられることもない。

咲子は『みえる人』として、特殊な扱いをされるようになった。

それこそが、咲子の望みだった。

人が怖い。でも関わっていたい。

特別な能力はない。でも凄い人として尊敬されたい。

このつまらなくて恐ろしい現実から、少しでも離れた「特別」を自分の中に持ちたい。たとえそれが、口からでまかせの「霊感少女」でも。

高校に入ってから、咲子が「霊が見える」と口にすることは減った。もう騒がなくても、キャラクターが成立するからだ。

その代わり、口数を減らし、髪を伸ばし、肌を白く保ち、考えうる限りの「霊感少女らしさ」を演出するようになった。

この高校を選んだのも計算だった。同じ中学の生徒が多く進学する。噂が引き継がれ、高校でも同じ立ち位置を維持できる。

思惑通り、咲子は高校でも「霊感少女」というキャラを保てていた。

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