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「今井さんって、本当は何も視えてないわよね?」
蒼白な優斗を保健室へ連れて行ったあと。
人気のない中庭の影で、あけみは咲子にそう言った。
「……意味がわからないわ」
咲子は冷や汗をかきながら答えた。
無駄だと分かっている。さっき、あけみが“本物”であることを、この目で見た。
「どうして、何もできないくせに優斗くんに関わろうとしたの?」
いつもの騒がしいギャルとは別人のように、あけみは凛と立っていた。
「あなたこそ、どこまで知ってるの」
「質問する立場だと思ってる?」
鋭い視線に、咲子は言葉を失う。
霊感少女という仮面を剥がされた咲子は、ただの、取るに足らない人間だ。
「……まあいいわ。教えてあげる」
あけみは溜息をついた。
「あの教室には、女生徒の霊がいる。私たちが入学する前、彼氏に振られて、あの教室で首を吊った生徒がいたの。祈祷して封じた結果が“開かずの間”」
「そんな話、初めて聞いた」
「私は、インチキのあなたと違って、ちゃんとしたツテがあるの」
腕を組み、あけみは続ける。
「優斗くんだけが憑かれた理由? 一つは、私が“気づいてしまった”から」
「……気づいた?」
「霊は弱い存在よ。でもね、“存在を認められる”と、力を持つ」
だから、本当に視える人は、見えても気づかないふりをする。
軽々しく口にしない。
「でも、それだけで、あそこまで……?」
あけみは首を傾げた。
「それだけじゃない。あの霊、優斗くんに強く執着してた」
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「俺、あの人知ってる」
保健室で、優斗は震える声で言った。
「中学の時、塾帰りに公園で知り合った。年上の高校生で……相談とか、よくしてた」
やがて、彼女は来なくなった。
忘れていた。
でも、教室で見た幽霊は、確かにあの人だった。
「名前……ユキコ、だったと思う」
「きっと、優斗くんが好きだったのね」
あけみは静かに言った。
「最初から、想いはあった。そこに私が“見た”。それで一気に現世に干渉できるようになった」
咲子は理解した。
地味で、誰にも選ばれない少女。
――それは、自分だ。
「俺、どうすればいい?」
「忘れなさい」
あけみはきっぱり言った。
「お払いをする。そして、私たち全員がユキコを忘れる。そうすれば、存在は薄れて消える」
「……それで、助かるのか」
「ええ。彼女はもう、生きていない」
優斗は、深く頷いた。




