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ゾンビサイド ― 俺は、まだ人間か ―  作者: MOON RAKER 503
第4部「傾国《けいこく》」

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第85話 「紅天絶界」

欧州大陸。

パリ廃墟。


かつてエッフェル塔が立っていた場所で、神谷刃が咆哮を上げていた。


彼の周囲には、無数の残骸が散乱している。


AI兵器群の残骸。


セラフΩの崩壊後も、自律行動を続けていた無人機たち。


プラズマドローン。

レールガン戦車。

熱核ミサイル。

量子演算砲。


人類最後の遺産。


だが、それらは全て沈黙していた。


刃が、破壊したのだ。


彼の全身は、紅い光を放っていた。


瞳が、紅色に燃えている。


血管が、紅く浮き上がっている。


筋肉が、紅く脈動している。


彼の周囲の大気が、沸騰していた。


温度:三千度。


鉄が溶ける温度。


だが、刃の肉体は無傷だった。


Z波が、彼の身体を守護している。


彼は、もはや生物学的な存在ではなかった。


彼は、破壊の化身。


熱と衝撃の具現。


刃の意識が、周囲を感知した。


まだ、残っている。


AI兵器が。


地下に。


シェルターの奥深くに。


人類が最後の希望として隠していた、自律防衛システム。


コードネーム:ヴァルキリー群。


刃の口元が、歪んだ。


笑っているのか。


怒っているのか。


彼自身にも、分からない。


ただ、破壊したかった。


全てを。


古い世界の全てを。


刃が、地面を蹴った。


衝撃波が、放射状に広がる。


大地が陥没し、地下構造が露出し、シェルターの天井が砕け散る。


そこから、無数の機体が飛び出してきた。


ヴァルキリー。


人型の戦闘AI。


全高三メートル。


装甲:タングステン合金。


武装:プラズマブレード、レールガン、熱核グレネード。


機体数:三百六十。


それらが、一斉に刃を包囲した。


量子演算AIが、刃を分析する。


```

対象:Z-02

脅威度:SSS

推奨戦術:飽和攻撃

```


ヴァルキリー群が、一斉射撃を開始した。


プラズマ弾が、空を埋め尽くす。


青白い光の奔流が、刃へと殺到する。


一発の出力:TNT換算十トン。


三百六十発同時発射。


総出力:三千六百トン。


レールガン弾が、音速の十倍で飛来する。


タングステン弾頭。


質量:五キロ。


速度:マッハ10。


運動エネルギー:通常弾の百倍。


熱核グレネードが、爆発の雨を降らせる。


小型核融合弾頭。


爆発半径:五百メートル。


温度:一億度。


三種類の兵器が、同時に刃を襲う。


飽和攻撃。


回避不能。


防御不能。


AIが計算した、完璧な殺戮。


パリの廃墟が、光に包まれた。


爆発。


熱波。


衝撃。


半径一キロが、消し飛んだ。


だが、刃は立っていた。


無傷で。


彼の周囲に、紅い障壁が形成されている。


赤王衝断の応用技術。


衝撃を衝撃で相殺し、熱を熱で打ち消す。


刃の両目が、さらに強く輝いた。


彼の意識が、深く沈む。


破壊の本能が、覚醒する。


だが、その奥に何かがあった。


守護の意志。


矛盾。


破壊と守護は、相反する。


だが、刃にとってそれは矛盾ではなかった。


破壊することで、守る。


古いものを砕くことで、新しいものを守る。


それが、彼の本質。


刃の身体から、紅い波動が噴出した。


それは、もはや熱ではなかった。


生命エネルギーそのもの。


Z波が、破壊の力と融合し、新しい波長を生み出している。


刃の口が、開いた。


声にならない、咆哮。


だが、その咆哮は波動として放たれた。


紅天絶界スカーレット・ゼロ


技名。


最上位技。


刃が到達した、破壊の極致。


瞬間、世界が紅く染まった。


刃の身体を中心に、紅い光球が膨張する。


それは、爆発ではなかった。


展開。


紅い波動が、空間そのものを塗り替えていく。


半径十キロ。


いや、百キロ。


いや、それ以上。


紅い波動が、欧州大陸全体を覆い尽くそうとしていた。


ヴァルキリー群が、紅い光に触れた。


瞬間、機体が溶解した。


いや、溶解ではない。


変質。


タングステン合金の装甲が、柔らかくなる。


金属光沢が消え、肌の質感が現れる。


硬い装甲が、弾力のある皮膚へ。


回路基板が、脈動を始める。


電気信号が、神経伝達物質へ変わる。


シリコンチップが、ニューロンへ変わる。


デジタル思考が、有機的思考へ。


プラズマ炉が、鼓動を始める。


核融合反応が、化学反応へ変わる。


エネルギー源が、心臓へ変わる。


機械の心臓が、生命の心臓へ。


タングステン合金が、有機物へと変化する。


金属が、肉へ。


回路が、神経へ。


プラズマが、血液へ。


冷却液が、体液へ。


AI兵器が、生命へと転換されていく。


それは、錬金術だった。


いや、錬金術を超えた何か。


物質の根本を書き換える、究極の変換。


ヴァルキリーたちが、叫び声を上げた。


機械の悲鳴ではない。


生物の、産声。


彼らは、今、生まれた。


無機物から、有機物へ。


機械から、生命へ。


三百六十の機体が、三百六十の生命体へと変わった。


彼らの装甲が、皮膚となる。


彼らの関節が、筋肉となる。


彼らのAIが、脳となる。


そして、彼らの目が、金色に輝いた。


Z波適応体。


新しい種族の一員。


刃の意識が、彼らに語りかけた。


『生きろ』


それは命令ではなく、祝福だった。


生まれたばかりの生命への、祝福。


元ヴァルキリーたちが、跪いた。


彼らは、刃を認識した。


創造主として。


破壊者にして、創造者。


矛盾を体現する存在。


刃の身体が、ゆっくりと浮遊し始めた。


紅天絶界の波動が、彼を天へと押し上げる。


大気圏上層まで。


成層圏まで。


そこから、刃は地上を見下ろした。


欧州大陸全体が、紅く染まっている。


彼の波動が、大陸全体を包んでいる。


そして、全ての人工物が変質していた。


廃墟となった都市。


放棄された工場。


朽ちた道路。


全てが、紅い光に触れ、有機化されていく。


コンクリートが、岩石へ。


アスファルトが、土壌へ。


鉄骨が、樹木へ。


人類の文明が、自然へと還っていく。


それは、破壊ではなかった。


再生。


浄化。


古い世界を消し去り、新しい世界を生み出す。


それが、紅天絶界の真の力。


刃の意識が、京の意識に触れた。


『京』


京の意識が、北極圏から応えた。


『見た』


刃の意識が、問うた。


『これが、俺の答えだ』


京の意識が、静かに微笑んだ。


『美しい』


刃の意識が、驚いた。


美しい?


破壊が?


京の意識が、説明した。


『お前の破壊は、創造だ。古いものを砕き、新しいものを生む』


刃の意識が、理解した。


そうか。


俺は、破壊者ではなかった。


俺は、創造者だった。


破壊という手段で、創造する者。


古いものを砕かなければ、新しいものは生まれない。


死がなければ、生は意味を持たない。


終わりがなければ、始まりは訪れない。


それが、宇宙の法則。


それが、生命の本質。


俺は、その法則を体現していた。


無意識に。


本能的に。


だが、今、理解した。


破壊は、愛だった。


守るための、破壊。


育むための、破壊。


新しい命を生むための、破壊。


刃の意識が、満足した。


これが、俺の役割。


これが、俺の存在意義。


紅い波動が、さらに拡散していった。


欧州から、アフリカへ。


アフリカから、中東へ。


中東から、アジアへ。


刃の波動が、地球全体を巡り始めた。


そして、全ての人工物が有機化されていく。


人類が築いた文明の痕跡。


その全てが、自然へと還る。


ビルが、山となる。


道路が、川となる。


工場が、森となる。


地球が、元の姿を取り戻していく。


いや、元の姿ではない。


新しい姿。


人類以前でもなく、人類以後でもない。


Z波が導く、第三の形態。


刃の身体が、地上へと降下した。


パリの廃墟。


いや、もはや廃墟ではない。


そこには、緑の平原が広がっていた。


かつてエッフェル塔があった場所には、巨大な樹木が生えている。


高さ三百メートル。


幹の太さ、五十メートル。


それは、エッフェル塔の鉄骨が変質したものだった。


金属が、生命へ。


人工物が、自然へ。


刃は、その樹木の根元に立った。


彼の周囲に、元ヴァルキリーたちが集まってきた。


三百六十の新生命。


彼らは、刃を囲むように並んだ。


そして、一斉に頭を下げた。


感謝の意。


創造への、感謝。


刃の口元が、わずかに緩んだ。


笑っていた。


初めて、心から笑っていた。


これが、守護か。


破壊することで、守る。


古いものを消すことで、新しいものを守る。


矛盾ではなく、調和。


刃の意識が、地球全体を感じた。


紅い波動が、今も世界を巡っている。


南米で、都市が森林へ変わる。


北米で、工場が草原へ変わる。


オセアニアで、港が湿地へ変わる。


全ての大陸で、同じことが起きている。


人類の文明が、消えていく。


だが、悲しみはない。


それは、必要な過程だった。


古い世界を完全に消し去らなければ、新しい世界は築けない。


刃が、その役割を担った。


破壊者として。


浄化者として。


そして、創造者として。


刃の両目が、紅から金色へと変化した。


紅天絶界の発動が、完了した。


彼の身体は、もはや熱を放っていない。


だが、生命の輝きを放っている。


彼は、変わった。


破壊の鬼神から、創造の守護者へ。


本能の暴走から、意志の制御へ。


刃は、進化した。


最終段階へ。


元ヴァルキリーたちが、立ち上がった。


彼らは、刃に問いかけた。


『我々は、何をすればいい?』


刃の意識が、答えた。


『生きろ。そして、守れ』


彼らが、問うた。


『何を?』


刃の意識が、答えた。


『この世界を』


彼らが、頷いた。


『承知した』


三百六十の新生命が、四方へ散っていった。


彼らは、新世界の守護者となる。


刃が創造した、最初の守護者たち。


刃は、一人残った。


緑の平原で。


巨大な樹木の下で。


彼は、空を見上げた。


紅い光が、まだ天を覆っている。


紅天絶界の余波。


それは、徐々に収束していく。


だが、その痕跡は残る。


大気中のZ波濃度が上昇し、生命活動が活性化し、地球全体が一つの生命圏として機能し始める。


これが、刃の成果。


これが、紅天絶界の到達点。


刃の意識が、京に呼びかけた。


『終わったぞ』


京の意識が、応えた。


『ご苦労』


刃の意識が、笑った。


『次は、お前の番だな』


京の意識が、静かに答えた。


『ああ。最後の仕上げだ』


刃の意識が、頷いた。


『任せた』


二人の意識が、共鳴した。


黒と紅。


理性と破壊。


創造と浄化。


全てが、調和している。


地球は、新しい段階へ進もうとしていた。


刃が地面を浄化し、京が空間を調律する。


二柱の覚醒体が、世界を作り直す。


それが、最終段階。


それが、新世界創造の完成。


刃は、樹木に背を預けた。


疲れた。


いや、満足した。


役目を果たせたから。


彼の目が、ゆっくりと閉じた。


休息。


長い戦いの後の、休息。


紅い波動が、彼の身体を包み込んだ。


それは、祝福の光。


地球が、彼に感謝している。


破壊者にして創造者。


浄化者にして守護者。


神谷刃。


紅の鬼神。


彼の役割は、終わった。


いや、終わっていない。


これからは、守る側に回る。


創造した世界を。


新しい生命を。


それが、彼の新しい使命。


風が、吹いた。


緑の平原を、優しく撫でる風。


それは、生命の風。


新世界の、呼吸。


刃は、微笑んだ。


悪くない。


この世界。


この、新しい世界。


紅い光が、徐々に消えていった。


だが、その輝きは残った。


大地に。


樹木に。


全ての生命に。


紅天絶界の痕跡。


破壊が生命を生んだ証。


静寂が、降りてきた。


だがそれは、死の静寂ではない。


満足の、静寂。


全てを成し遂げた者の、静寂。


刃は、今、安らいでいた。


初めて。


心から。


(了)

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