表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゾンビサイド ― 俺は、まだ人間か ―  作者: MOON RAKER 503
第1部「黎明《れいめい》」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/40

第12話「炎上」

この物語を手に取ってくださり、ありがとうございます。

ほんのひとときでも、あなたの心に何かが残れば幸いです。

どうぞ、ゆっくりと物語の世界へ。

 町は、燃えていた。


 交差点での連鎖爆発が引き金となり、火災は町全域へ広がっていた。商店街のガス管が爆発し、店舗が次々と炎に包まれる。住宅地の木造家屋は燃えやすく、火の粉が風で運ばれ、あちこちで新たな火災が発生していた。


 夜空は黒煙でおおわれていた。


 月は赤く染まり、まるで血のように見える。炎のオレンジ色と煙の黒が混ざり合い、町全体が地獄のような色に染まっていた。


 空気は熱く、息苦しい。焼けた木材の匂い、ガソリンの臭気、そして——焼けただれる肉の匂い。それらが混ざり合い、鼻を突く。


 


 藤原京の群れは、その炎の中を進んでいた。


 数千体規模に迫る。


 もはや、群れというより軍勢だった。


 ズルズル、ズルズルと足音が響き、うめき声が重なり合う。炎も熱も恐れず、ただ前へ進む。


 服が燃えているゾンビもいた。髪が焦げ、肌が焼けただれている。だが、彼らは止まらない。痛みを感じない。ただ、本能に従って歩き続ける。


 


 京は、その先頭にいた。


 炎の壁を突き抜け、煙の中を進む。視界は悪いが、身体は勝手に動いていく。


 足元には、倒れた人々がいた。火に巻かれて逃げ遅れた市民たち。まだ息があるものもいる。助けを求めて手を伸ばしている。


 だが、京の身体は——。


 その上を歩き、踏みつけ、そして噛みついていく。


 


(やめろ——!!)


 京の意識が叫ぶ。


(炎の中で苦しんでいる人を——!!)


 だが、身体は止まらない。


 むしろ、炎の中の獲物を「狩りやすい」と感じているようだった。


 逃げられない。抵抗できない。完璧な獲物——。


 


 みおの幻影が、京の隣を歩いていた。


 彼女は何も言わなかった。


 ただ、涙を流していた。


 頬を伝う涙が、炎の光を反射して光っている。


 京の意識が、彼女に向かってつぶやく。


(澪——)


(見るな——こんな姿——)


 だが、澪は消えない。


 ただ、泣き続けている。


 


 商店街に、京の群れが到達した。


 シャッターが半分溶け、店内から炎が噴き出している。看板が落ち、ガラスが割れ、商品が燃えている。


 だが、まだ人がいた。


 店の奥に隠れていた店主、二階の住居部分に取り残された家族。


 炎と煙で逃げ場を失い、窓から顔を出して叫んでいる。


「助けて——!!」


「誰か——誰か——!!」


 


 その時——ガス管が爆発した。


 ドォォォン!!


 巨大な爆発が商店街全体を揺るがす。


 店舗が吹き飛び、破片が飛び散る。火柱が立ち上り、熱波が襲ってくる。


 窓から顔を出していた人々が、巻き込まれた。


 悲鳴が途切れ、静かになる。


 


 京は、その光景を見ていた。


 意識はあった。全て見ていた。


(俺が——俺がここに来たから——)


 心の中で呟く。


(この爆発も——この死も——)


(全部、俺のせいだ——)


 


 だが、身体は進み続ける。


 炎を突き抜け、崩れた建物の瓦礫がれきを踏み越え、前へ。


 群れが、それに続く。


 千を超えるゾンビたちが、商店街を飲み込んでいく。


 


 住宅地も、炎に包まれていた。


 木造の家屋が次々と燃え、屋根が崩れ落ちる。


 まだ中にいた住民たちが、玄関から飛び出してくる。


 老人、子供、母親——皆、すすで顔を真っ黒にし、せきき込みながら逃げてくる。


 だが、その先に——ゾンビの群れが待っていた。


 


 悲鳴が上がる。


 母親が子供を抱きしめ、必死に走る。だが、群れに囲まれる。


 老人が杖をついて逃げようとするが、転倒する。


 若者が誰かを助けようとするが、自分も囲まれる。


 一人、また一人と倒れ、噛まれ、そして——仲間になっていく。


 


 京は、その中にいた。


 炎の明かりに照らされた京の姿は、もはや人間には見えなかった。


 血と煤で汚れ、目は濁り、口からは唾液が垂れている。


 だが——他のゾンビとは違う存在感があった。


 群れの中心。象徴。


 まるで、怪物の王のように。


 


(俺は——何になったんだ——)


 京の意識が問う。


(人間でも、ただのゾンビでもない——)


(これは——)


 


 その時、遠くで剣の閃光が見えた。


 キィン、と金属が空気を切る音。


 京の視線が、そちらへ向く。


 


 神谷刃かみや じんがいた。


 


 彼は、住宅地の路地で戦っていた。


 背中に真剣を差し、その刀を振るっている。


 周囲には、十数人の生存者がいた。子供、母親、老人——炎から逃れてきた人々を、刃が守っていた。


 


 刃の刀が閃く。


 シュパッ——!


 ゾンビの首が飛ぶ。


 返す刀で、別のゾンビを斬る。


 シュバッ——!


 また一体、倒れる。


 


 だが、ゾンビの数は多すぎた。


 路地の両側から、次々と現れる。


 刃は息を切らしていた。額に汗が浮かび、腕は重くなっている。


 だが、止まれない。


 背後には、守るべき人々がいる。


 


「走れ——!!」


 刃が生存者たちに叫ぶ。


「俺が時間を稼ぐ——その間に裏路地へ——!!」


 母親が子供の手を引き、走り出す。老人も杖をついて必死に歩く。


 刃は、その背中を守るように、ゾンビたちと対峙たいじした。


 


 炎の明かりが、刃の姿を照らす。


 炎に照らされる孤剣——。


 一人で、何十体ものゾンビを相手にしている。


 


(この人が——)


 京の意識が、刃を見ていた。


(この人なら——もしかしたら——)


(澪を——守れるかもしれない——)


 一瞬、京の心に希望が芽生えた。


 だが——。


 


 次の瞬間、京の身体が反応した。


 本能が、刃を「最大の獲物」として認識した。


 強い。速い。危険——。


 だが、だからこそ——倒せば、大きな報酬がある。


 


 京の身体が、刃へ向かって歩き出した。


(やめろ——!!)


 京の意識が絶叫する。


(あいつは——あいつは人を守ってる——!!)


(襲うな——!!)


 だが、身体は止まらない。


 むしろ、加速した。


 


 周囲のゾンビたちも、同じように刃へ向かっていく。


 まるで、京に従っているかのように。


 群れ全体が、刃を狙い始めた。


 


 刃は、それに気づいた。


 視線を上げ、京を見る。


 二人の目が、一瞬だけ合った。


 


 刃の目には、驚きがあった。


(こいつ——他のゾンビとは違う——)


 刃の心が呟く。


(まるで——指揮しているかのような——)


 


 だが、考える暇はなかった。


 数十体のゾンビが、一斉に刃へ襲いかかった。


 刃は刀を構え、迎え撃つ。


 一閃、二閃、三閃——。


 だが、数が多すぎる。


 


 刃は後退した。


 生存者たちが逃げた方向へ、自分も退く。


「クソ——切りがない——!!」


 刃が呻く。


 だが、彼はあきらめなかった。


 刀を握り直し、再び構える。


(救えるのは、ごく一部だけだ)


 刃の心が呟く。


(だが——それでも——)


(守れる命は、守る——!!)


 


 刃は、再びゾンビたちへ突進した。


 刀が閃き、また一体が倒れる。


 だが、すぐに別のゾンビが現れる。


 終わりがない。


 


 京は、その光景を見ていた。


 刃が必死に戦い、人々を守ろうとしている姿を。


(俺も——昔なら——)


 京の意識が呟く。


(澪と一緒に——あの人みたいに戦えたのかな——)


 だが、その想像は虚しかった。


 今の京は、刃の敵だった。


 人を守る者の——敵。


 


 群れは、さらに膨張していた。


 炎の中で倒れた人々が、次々と起き上がる。


 商店街で、住宅地で、路地で——。


 ゾンビになり、群れに加わっていく。


 


 もはや、人類の抵抗では止められない規模だった。


 警察も消防も壊滅し、軍隊もまだ来ない。


 町は、完全にゾンビの支配下に入ろうとしていた。


 


 炎は、さらに広がっていった。


 ビルに燃え移り、学校に燃え移り、公園の木々まで燃え始めた。


 町全体が、火の海になろうとしていた。


 


 京は、その炎の中を歩いていた。


 群れを率いて、前へ。


 澪の幻影が、まだ隣にいた。


 彼女は泣き続けていた。


 声も出さず、ただ涙を流し続けている。


 


(澪——)


 京の心が呟く。


(もう、何も言ってくれないのか——)


(俺に——もう何も言えないほど——)


(失望したのか——)


 


 だが、澪は答えない。


 ただ、泣いている。


 その姿が、京の心を引き裂く。


 


 遠くで、刃の戦いはまだ続いていた。


 刀の閃光が、炎の中で光る。


 だが、それも——もうすぐ消えるだろう。


 数の差は、圧倒的すぎた。


 


 京の群れは、進み続ける。


 炎を突き抜け、煙を抜け、死体を踏み越え——。


 次の区画へ。


 次の獲物へ。


 そして——都市の心臓部へ。


 


 夜空は、完全に黒煙で覆われていた。


 星も月も見えない。


 ただ、炎のオレンジ色だけが、闇を照らしていた。


 


 町は、死にゆく獣のように悲鳴を上げていた。


 建物が崩れる音、炎が燃える音、人々の叫び声——。


 全てが混ざり合い、終末の交響曲を奏でていた。


 


 京は、その中心にいた。


 千を超える群れを率いて、破壊をき散らす存在として。


 意識はあった。全て理解していた。


 だが——止められなかった。


 


(俺は——怪物の王だ)


 京の意識が、ついに認めた。


(人間じゃない——ゾンビの象徴だ)


(そして——世界を滅ぼす存在だ)


 


 澪の幻影が、また一粒の涙を流した。


 それが、炎の光を反射して、小さな星のように光った。


 そして——消えた。


 


 京は、前だけを見て歩き続けた。


 炎の海を進む、怪物の王として——。


(了)

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

あなたの時間を少しでも楽しませることができたなら、それが何よりの喜びです。

また次の物語で、お会いできる日を願っています。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ