一方、その頃(コルネリウス)
王都──レインディアの賑わいは祝福祭の開幕から、日に日に盛り上がりを見せている。
水の家門、ブラウエルが従来の加護の他、風変わりな加護を授けている、と噂になっていることに加え、土の家門の祝福も始まった。これから更に、木、風、火……と日を追うごとに祝福祭は盛り上がる。
はずだった。
「ねぇ、あれって……」
「しっ! あんまり大きな声出しちゃダメよ」
「でも……こんなところに居ていいのかしら?」
「私たちが気にすることじゃないわ。ほら、早く行きましょう」
いや、祝福祭は盛り上がっている。
これから次々に加護の家門が参加すれば、何もせずとも盛り上がっていく。
しかし、その一方で……
「あーぁ、残念だなぁ。今年は、水の家門で珍しい加護がもらえるって聞いたのに」
「貰えたヤツはいいよな、見せてもらったけど凄かったぞ」
「いつもの水花はもう萎れかけてるのに、あの加護はキレイなままなんだ」
「加護が残るのはいいよな……土の加護なんて、泥塗ってもらうだけだぞ。乾いたら袋に入れて持って帰るが、畑に撒いて終わりだ」
「どうせ、木の家門もいつもと同じだろ?」
「木の枝な。どこの家門も毎年同じだからな」
「風のとこが俺はどうも……」
「まぁ……な。ただの空箱だもんな」
「そうそう。空箱持って、加護入れてもらって蓋閉めるやつな」
「そんなこと言い出したら、火はどうなる?」
「ランプに明かり灯してもらうやつ?」
「私は好きよ? やっぱり精霊様の加護は凄いなって思うから」
「蝋燭か油が切れたら、消えるけどな」
リースベットが落とした1滴の雫が波紋を呼び、元々あった国民たちの加護に対する不満が、無視できないほどの波となって、華々しい祝福祭というイベントに水を差している。
(リースが居なくなった途端、これか!)
人々の不満の声を耳にしながら、コルネリウスは王都を走り回っていた。
取り繕ってはいるが、ブラウエル公爵家の内状は荒れに荒れている。
特に、公爵の怒りは筆舌にし難い。
リースベットが姿を消した原因を作った、夫人とコルネリウスは、殴られなかったのが不思議なほど、公爵の怒りをその身に受けた。
単純に、今が祝福祭の期間中であったためというのは、夫人とコルネリウスが一番よくわかっている。
公爵はリースベットとコルネリウスに代わり、精霊の代理人を務め、夫人は公爵邸で貴族たちを歓待。
コルネリウスは騎士や使用人たちと共に、リースベットの捜索。
捜索はその日の内に行われ、既に3日が経過した。
4日目の現在、コルネリウスは当て所なく王都を走り回り、一抹の不安を抱えていた。
このままリースベットが見つからなかったら……。
「コル!」
そんなコルネリウスを呼ぶ声がして、コルネリウスは捜索の足を止めた。
「クラーク……」
「探してたんだ、噴水広場に行ったら親父さんが代理人してるから驚いたぞ」
「そうか。それで、俺に何か用か?」
コルネリウスを呼び止めたのは、土の家門──バッケン公爵家の令息、クラーク・バッケン。
体格に恵まれ、同じ年頃の令息の中でも頭1つ飛び抜けた大男。
焦げ茶色の髪と土色の目をしたしっかり者のクラークは、加護の家に産まれた後継者たちにとって、頼れる兄のような存在だった。
「ん? 親父とお袋が、お前らに話を聞いてこいってさ」
「急ぎなのか?」
「そりゃ、祝福祭のことだからな。お前も聞いてるだろ、この不満の声」
「不満なら元々あっただろ、今更だ」
周囲を見れば、2人を遠巻きに見る平民たちの目が、不満を物語っている。
直接的には何もしていない。会話が聞こえていたからと、それを理由に何らかの罰を与えたとして、不満が更に大きくなるだけだということを理解して、コルネリウスもクラークも何もできない。
「それはそうだが……この不満を爆発させたのは、お前んとこの暴れ馬だ。バッケンの評判を落とすわけにもいかないから、何をやらかしてくれたのか、確認ついでに話を聞きに来たんだ」
コルネリウスの頭の中で、リースベットの捜索と、クラークとの会話が天秤にかけられる。
「俺から話せることはない」
「は? ちょっと待て、コル」
「リースがしたことは、毎年同じ水花と一緒に、加護も何もない……家門にちなんだ品を手渡したことだ」
大柄なクラークがコルネリウスの肩を掴み、捜索に行けないコルネリウスは、強制的にクラークと話し合うことを余儀なくされた。
「なんだそれ? 家門にちなんだ、加護もない品って……施しか?」
リースベットに代わり、リースベットが用意した品を手渡していたコルネリウスは、それを『施し』という言葉で片付けられたことに言葉を失った。
加護がない以上、クラークの言葉は間違っていない。
ただ、コルネリウスは初めてハーバリウムを目にした時、そしてそれを手渡した時に気付いた。
「きれいだね」
「嬉しい」
「こんなものまで……!」
人々が不満を口にするのは、加護を持つ者が、ただおざなりに『施し』ているせいだと。
加護さえ与えておけばいいと慢心した、代々の家門が行ってきた結果が、リースベットの用意した品で爆発した。
何故なら、リースベットは加護を授ける相手のことを考えていた。
実際に加護はなくとも、だ。
せっかくなら、長く楽しんでもらおうとする気持ちが込められていた。
リースベットの気持ちは『施し』と同義。
兄のように慕うクラークに、そう言われたことがコルネリウスの胸に刺さる。
「ふぅん……まぁ、加護と一緒に適当な施しを与えりゃ、不満も収まるわけか。助かったよ、ありがとな」
鼻歌でも歌い出しそうに、機嫌よく立ち去るクラークの背中を見送りながら、コルネリウスはその背中に自分の姿を重ねた。




