表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/30

しつこい男は嫌われている


 公爵邸を出たのはいいが、私たちは王都にあるホテルで生活している。

 予定よりも早い退場と、不測の事態(高熱)があったため、移動より体を休めることが先決。……と、過保護なシーラが譲らなかったこともあり、1週間はホテル生活をすることに決まった。


「これから向かうのは、王都から離れたクローナ自治領にある街──グランナディアです」


 3日は絶対安静と譲らなかったシーラの言葉で、3日間はベッドから動けず、4日目の今日……ようやくベッドから解放された。

 今は見張り兼世話役として残ったシーラと、今後の話し合いをしている最中。

 ティナとシュヴァルトは、それぞれ必要なモノを買い足したり、新天地への移動に向けた準備に動いてくれている。


「グランナディア……って、どんなところ?」

「そうですね。王都に引けを取らないほど栄えている街ではありますが、国内貴族は滅多に訪れることはありません」

「栄えてるのに?」

「立地があまり良くないですから」


 現代地図に慣れた身としては、テーブルの上に広げられている、ざっくりすぎるこの国の地図から情報を得るのは難しい。

 聞いたのは私だが、そうなんだ。くらいの感想しかなく、そういうものなんだと納得するしかない。


 でも、言いたいことはわかる。

 例えば……大型ショッピングモールが2つあって、1つは何でも揃ったショッピングモール。もう1つはそれなりに揃ったショッピングモール。

 何でも揃ってる方は交通の便もよく、もう1つはそうでもない。……なら、大抵の人は何でも揃ったショッピングモールに行くよね、という話だ。


 例え話に置き換えて思ったが、それでも潰れていないということは、グランナディアはデメリットを跳ね除けるくらい、優れたところがあるんだろう。


「きっと、リース様は気にいってくださると思います」

「それなら、準備ができたらすぐに出発でもいいんじゃない?」

「それとこれとは話が別です。あと3日は、ここで我慢していただきますので」

「……過保護に拍車がかかってないですかね、シーラさん」


 新天地に向かうに当たって、シーラたちは私の呼び方を「お嬢様」から、名前呼びに変えてくれた。

 私も前みたいに主人っぽく話すのは止めた。


 おかげで前より距離が縮まって、今では気安い職場の先輩後輩で、親しい友人くらいの関係になれたと思っている。


「今に、ティナがお土産を山ほど抱えて戻って来ますよ」


 噂をすれば……とはよく言ったもので、シーラがそう言った後、扉の外でバタバタと騒がしい足音がする。

 思わず私はシーラと顔を見合わせて笑ってしまう。


 ボロ、というわけではないが、木造の安ホテルなので、足音が近付いてくる度に床が微かに揺れる。

 ティナが帰って来たことを肌で感じ、口の端が緩んだままになる。

 恐らく両手いっぱいに荷物を抱えているんだろう。ノックの音が不規則で、変な強弱がついている。


「開いてるわ」

「……私が開けて参ります」

「お願い」


 シーラが扉を開けると案の定。

 ティナは両手に荷物を抱えていて、顔が見えない。


「おじょ、リース様!」

「聞こえてるから、まず荷物を置いたら?」


 慣れたようにシーラがティナの荷物を少しずつ運ぶと、肩で息をする焦ったティナの顔が、ようやく見えた。


「先に水でも飲んだ方がいいんじゃない?」

「用意します」


 そう言ったシーラが部屋を出ようとすると、またバタバタと足音が聞こえてきて……「リース様!」

 シュヴァルトも帰ってきた。


「どうしたの? そんなに慌てて」


 シュヴァルトは息を整えるティナと、私、シーラの順に見て、最後にまた私を見る。


「その様子では、まだお聞きになっていないのですね」


 まさか……と思う反面、なんとなく2人が言いたいことを理解した。


「ブラウエル公爵家が……というより、小公爵がリース様を探し回っております」

「……そんな話だろうと思った」


 もう驚きもしない。

 過保護なシーラに「どうする?」と言えば、シーラは眉間にシワを寄せながらため息を吐いた。


「リース様の指示に従います」


 このままレインディアに滞在し続けるのは難しい。

 いつから探し回っているのかは知らないが、仮に即日だとして4日間。1人で探す……なんてことはしないだろうから、それなりの規模と人員がいると仮定すると……4日間見つからなかったのは運がよかった。

 まぁ……ワガママな公爵令嬢が木造の安ホテルに泊まってるとは、誰も思ってないのかもしれない。


 ここに泊まると決めた時、ティナたちも同じような反応をしてたから、それが功を奏したと思っておこう。


「……どうしたらいいと思う?」


 見つからないように逃げたい。

 けど……今から馬車に荷物を積み込んで、精算して、諸々してると時間がかかる。


「今すぐに見つかるとは思いません。ですが、ブラウエル公爵家の騎士たちが目を光らせています」

「わ、私が見たのは、騎士もですが……使用人たちも居たんです!」


 想像以上に大規模かもしれない。


「恐れながら、私とリース様だけ先に馬で王都を出るのがよろしいかと」

「……シュヴァルトの言う通りかもしれません。そこまで大規模な捜索なら、全員で動くよりバラバラに行動した方が確実です」


 シュヴァルトの提案にシーラは賛成の様子。

 2人がそう言うなら、その方がいいんだろう。

 

「それって、ティナとシーラは大丈夫なの?」

「ご安心ください! 私にいい考えがあります!」


 何故か、余計に不安を煽る自信満々なティナの姿。


「大丈夫ですよ、リース様。先にグランナディアでお待ちください」

「私たちもすぐに追いつきますから!」


 半ば追い出されるように、ホテルの裏口に出た。

 馬車を引いていた馬は厩舎に預けられていて、その馬を1頭連れたシュヴァルトに手伝ってもらい、人生初の乗馬体験。

 こういう場面じゃなかったら、もっと感動とか色々あったかもしれない。


「リース様、手綱をしっかり握って離さないでください。馬上はかなり揺れますので」


 まず、高さと座面の不安定感が怖い。

 普通なら、馬をゆっくり歩かせて慣らすところから始めるのに、慣れる間もなくいきなり走らせるのだ。馬上から見る視線は普段の視線の倍近い高さで、ただ座ってるだけならまだしも、動くからバランスを取るのが難しい。


 恐怖で心臓をバクバクさせながら、シュヴァルトに後ろから腕の間に挟んでもらい……パシンッと小気味いい音を鳴らした瞬間、馬は勢いよく走り出した。


 よく絶叫系で「キャー」って言える人がいるけど、ああいう人たちは絶叫系を楽しめてると思う。

 ダメな人は、今の私みたいに歯を食いしばって言葉を失う……ということを実感した。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ