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公爵令嬢としてのお仕事(2)


 誰もが言葉を失い、呆気に取られている顔は失礼だが面白い。


「あんた、なに言ってんだ?」


 これは反応がマシになったというか、残念ながら逆効果だったかもしれない。

 店主の顔は、私の頭がおかしいと如実に語っている。


「絶対に上手くいく、とは言いませんが……原料の基剤を譲っていただければ、小さな海をご覧いただけますよ」


 店主の顔は変わらず、それどころか更に顔を歪め、頭を振りながら店の奥に引っ込んでしまった。

 やっぱり、発言が突拍子もなかったのかもしれない。


「お、お嬢様……? どうなさるおつもりですか?」

「うーん……」


 何と説明したらいいだろうか。

 この店の商品は肌に優しいと聞いて、私が思いついたのはハーバリウムだ。

 香油やクリームやらがあるなら、オイルがあるかも……という安易な発想で、なおかつ水にちなんだインテリアを作成できる。


 ハーバリウムなら水花と違って長持ちするし、作るのもそんなに難しくない。

 販売するわけでもなく、あくまでお守りだ。

 そもそも、凝ったものは作れない。最悪の場合、綺麗な砂と貝殻をいくつか入れておくだけで、それっぽいものができそうな気がする。


 だから、無添加のベビーオイルが欲しい。なんて言っても通じないと思い、まずはここの店で使う基剤が、ハーバリウムに利用できるか試したかった。……わけだが、どうにも説明ができない。

 

「基剤を卸してる業者……商会? をあたることにするわ」


 初めからそうしておけばよかった。

 とはいえ、他にも用事があったのでよしとする。


「おい」


 ロクな説明もできないまま、3人と連れ立って店を出ようとしたところで、戻って来た店主が声をかけてきた。


「コイツがいるんしゃないのか」

「……譲っていただけるんですか?」

「金は払えよ」

「もちろんです。ついでに、壁にかけてあるものもいくつかいただいても?」

「好きにしろ」

「じゃあ……基剤はそっちの液状になってるものでお願いします」


 気難し屋の店主の反応は悪かった……というか、今もいいとは言えないが、話がスムーズに進んだおかげで試作ができそうだ。

 ドライフラワー代わりになりそうなものをいくつかと、それなりに大きな瓶──スーパーで売ってる大容量の蜂蜜瓶くらいの大きさの、オイルが入った瓶と一緒に支払いを済ませた。


「ご店主にお伺いしたいんですが、この基剤を大量に仕入れるにはどうしたらいいですか?」

「……必要なら手配してやる」

「ありがとうございます」


 これで一番の目的は済んだ。

 後は……


「ねぇ、紳士物のハンカチを買いたいんだけど……いいお店はある?」

「もちろんです! ご案内します!」


 服飾にこだわりの強い、ティナのおすすめで案内された店に寄り、しばらくハンカチに悩んだ。

 贈る相手のことを知るシーラと、男性目線でシュヴァルトの意見を聞きつつ、最終ジャッジをティナにお願いして、テネーブル大公に贈るハンカチが決まった。


「戻ったら、テネーブル大公に手紙と一緒に送ってもらえる?」

「お嬢様、刺繍を入れて差し上げるのはいかがですか?」

「……遠慮しておきます」


 申し訳ないけど、刺繍なんて高度な針仕事が私にできるわけがない。

 私にできるのはボタン付けと、並縫いくらいだ。あぁ、かがり縫いもできる。……だけ。


「喜ばれると思いますよ?」

「忙しくなるから、そのままでお願いします」


 あながち嘘でもない言い訳で取り繕い、散策と食事、祭り気分だけ味わって帰宅した。

 帰るなり、本日の戦利品をテーブルに広げると、ティナとシーラが顔を見合わせている。


「お嬢様、何をするおつもりで?」

「仕事よ、仕事」

「ひょっとして、祝福祭の……ですか?」

「そう」


 すぐにでも始めたいところだが、まずは消毒した瓶やら、細々したものを準備する必要がある。

 準備してほしいものをリストにして、準備をしてもらった。


「準備できました!」


 瓶は煮沸消毒してもらい、普通のピンセットはなかったので庭師から作業用のピンセットを借りてもらった。

 今回はあくまで試作なので、かすみ草やガーベラに似た乾燥させてある薬草のハーバリウムだ。


 ティナとシーラは私が何をするのかわからないせいか、興味津々で作業台と化したテーブルを見ている。

 

 瓶の中にピンセットで薬草を詰めていく。

 こういうのはセンスが問われる。

 イメージ通りの形になるよう、微調整をしながら薬草を詰める。

 上手く形を作れば、後はオイルをゆっくり流し込むだけ。


「わぁ……」

「うん、完成」


 自分で言うのもなんだが、結構いいものができた。

 ティナとシーラの目はハーバリウムに夢中だ。

 ちょっと想像より花が浮いたので、ミネラルオイルに近いものなんだと思う。


「お嬢様、これを祝福祭で配るのですか?」

「これ……というより、砂とか貝殻を入れて……」

「あっ! 海を飾るって……!」

「そうそう。量も必要だろうから、容器はもっと小さくするつもり」


 お店では説明できなかったけど、目の前にハーバリウムの完成見本があれば、どんなものかは想像ができたらしい。


「あのっ、お嬢様……これはお部屋に飾られますか?」

「……いや、考えてなかったけど。そうね、経過も見たいし……」

「そうですよね……」

「えっと、別にティナかシーラが部屋に飾るなら、持って行ってくれていいけど……」

「本当ですか!?」


 あまりに残念がるから、よければどうぞくらいの軽い気持ちで提案した。


「ティナの部屋に飾るつもり?」

「私が先に聞いたんだから、私の部屋でしょう?」


 何故か、ただならぬ女の戦いが勃発。

 なんだろう。ヤンキー漫画の表紙を飾りそうな雰囲気があって、思わず引いてしまった。


「……やっぱり、私の部屋に飾るわ」


 放っておいたら殴り合いに発展しそうだったので、間を取って私の部屋にしておいた。

 インテリアとして可愛いし、ティナとシーラが気にいったみたいだから、日頃のお礼も兼ねてこっそり作ってプレゼントしようと決めた。


(どうせなら、テネーブル大公にもプレゼントしようかな)


 残念がる2人の顔を見ていると、喜ばれるかもしれない。


「いや、それはないか」


 やっぱりハンカチと手紙だけでいいと結論づけ、ハーバリウム大量作成に必要なリストを作り始めた。


 

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