公爵令嬢としてのお仕事(1)
職務怠慢に始まり、盗難騒動。
1ヶ月も経たない間に、屋敷では様々な問題があった。
私がそんなことを考えていると、部屋に戻って来たティナとシーラは無言で怒りを顕にしている。
そろそろ、2人……シュヴァルトを含めると3人に話しておかないといけない。
「シュヴァルトを呼んでくれる?」
3人が揃ったところで、改めて3人の顔を見る。
何の話か分からないせいで、どこか緊張した様子の3人には短い間ながらお世話になった。
「改めて呼びつけてごめんなさい。今のうちに、重要な話をしておきたくて」
最初に出てきたのは感謝の言葉。
そこから、私が公爵家を出るつもりでいることや、公爵家を出たら3人の希望する仕事先を、情報屋を介して見つけることなど……今後の話をした。
「……というわけで、貴方たちの仕事の心配はしないでいいから。もう少しの間だけ、私の侍女と護衛として、よろしくお願いします」
誰も、すぐには言葉を発しなかった。
「ま、待ってください、お嬢様! 私は、お嬢様について行きます!」
「ティナの気持ちは嬉しいけど、さっきも行ったように私個人で貴方たちを雇い続けるのは難しいの。だから……」
「給金のことなら、必要ありません! 私もどこかで、お嬢様と共に働きます! ですから……これからもお嬢様のお世話を任せていただけませんか」
鼻の奥がツンとする。胸がキュッとして、目元にジワジワと涙が溜まる。
本当に、その気持ちが嬉しい。
「お嬢様、私もティナと同じ考えです」
「私も困ります。既に主人はお嬢様ですから」
シーラとシュヴァルトが追い打ちをかけてきて、結局泣いてしまう。
その後も夕食時まで「気持ちは嬉しいけど」「それでも!」と、私と3人の押し問答が続いた。
「……何かありましたか?」
夕食後に部屋に来たベルンは、私たちの目が赤くなっていたり、ティナの声が枯れていたり……で、訝しげな目を向けられてしまった。
ベルンは祝福祭のことについて詳しく説明してくれた。
細かい話を詰めながら、話がまとまったところで大事なことを伝える。
「そうそう。公爵閣下に伝えてくれる?」
「ご伝言ですね」
「この祝福祭が成功しようが失敗しようが、1つだけ「お願い」を叶えていただきたい……と」
「どういったお願いか、簡単にでも教えていただけませんか?」
突拍子もない「お願い」ではないか、と考えているベルンには悪いが、そんなに難しいことじゃない。
「公爵閣下にこう言ってもらえば大丈夫」
──公爵閣下にできる、簡単なこと。
そう言って笑ってみせれば、ベルンは何も言わなかった。
これで下準備は無事終了。
本日2度目のお風呂の後、シーラがハンドマッサージをしてくれて、ティナが髪に香油を塗ったりと、至れり尽くせり状態の贅沢時間を満喫していた。
「それで、どうなさるおつもりですか?」
「んー……どうしようね」
シーラのマッサージが気持ちよくて、つい気の抜けた声が出る。
「水の家門にちなんだ品、ねぇ……」
ベルン曰く、どの家門も似たりよったりだがお守りとして渡される品は、どれも不人気らしい。
ブラウエルの水花は、言ってみればただの花だ。
加護の力で出した水がついただけの花。
水は蒸発するし、切り花の1本なんてそこまで長く保たないので、すぐに枯れてしまう。
とはいえ、水にまつわる仕事をする人は多いし、そういう人たちは水花をもらいに来るわけで……悩ましい。
「いっそのこと、公爵閣下が出した水でも瓶詰めにして渡せばいいんじゃない?」
「お嬢様、ベルン様も仰られてましたが数が尋常ではないのですよ?」
「ですが、昔はそうしていたようですね。まぁ、数が少なかったから……というのもあるでしょうが」
あーでもないこーでもないと話していると、贅沢時間はあっという間に終わってしまう。
「お嬢様、今日の香油はいかがですか?」
「うん。上品な香りで、いつものより好きかな。ありがとう」
「マッサージ用の品も変えてみましたが、いかがですか?」
「こっちも、今までのより香りも後肌も好みかな」
髪と肌から同じ香りがする。
重くない、仄かに香る程度の軽いフローラル系の香り。
以前までは少し香りがキツいような感じがしていたので、2人がわざわざケア用品を変えてくれたのは嬉しかった。
私の感想に2人が満足そうな笑顔で、新しいケア用品の瓶を見せて見せてくれる。
「あ……」
それを見て、水にちなんだ品のいい案が浮かんだ。
「ねぇ、その商品について聞きたいんだけど……」
* * *
翌日、シュヴァルトの護衛付きでレインディアにやって来た。
どこもかしこも人でいっぱいだが、これは連日行われているパレードのせい。
光の加護がある王族は、日中にパレードをすることで、国民への加護を授けることになる。
「お嬢様、こちらです!」
「店構えは少し見劣りするかもしれませんが、品質は間違いありませんので……」
ティナとシーラが先導、シュヴァルトが後ろで、私は挟まれる形でケア用品のお店に向かった。
「ここです!」
「ここ……?」
シーラが店構えについて言及した意味がわかった。
辿り着いたのは、看板が傾いた木造の建物。正直な感想は、ボロ屋といった感じのお店だった。
ティナが立て付けの悪そうな扉を開けると、店内が見える。
外のイメージとは違い、中は意外と小綺麗なお店といった感じで、少しホッとしてしまった。
ただ、ケア用品のお店というよりは、薬草を扱う薬屋といった方がしっくりくる。ドライフラワーではなく、薬草のような草花が壁に干してあったり、逆に瑞々しい緑鮮やかな鉢植えや、棚には瓶詰めの草や根が置かれている。
「へぇ……」
それほど広くない店内に4人の大人が入ると、それだけで窮屈に思えるほど。
特に体格のいいシュヴァルトは、何もしなくても圧迫感があるので、余計にそう感じるのかもしれない。
「いらっしゃい」
「あっ、こんにちは」
店の奥から顔を出したのは老人。
見たところかなりの高齢の男性で、気難しそうなのが顔に出ているような人だった。
「このお店のご店主ですか?」
「だったらなんだ」
「こちらで購入した品がとても素晴らしくて、ご店主に少しお話を聞きたくて参りました」
人は見かけで……というのはわかっていても、この店主に関しては見た目通り。
ふん、と鼻を鳴らしたかと思えば「で、用件は?」だ。
本来であれば、前置きで社交辞令を挟んで本題に入るところだが、こういう気難し屋さんには単刀直入に話す方が好まれる。あくまで私の経験談で、絶対の保証はないけど。
「こちらでは、軟膏やボディケアのクリームを作ってらっしゃるとお聞きしました。その基剤に使われているモノを少しお譲りいただきたいんです」
「そんなもん、何に使うんだ。素人が真似して作れるようなもんは何もねぇぞ」
「当然です。素人が玄人の仕事に手を出して、上手くいくはずがありません」
「わかってんなら、そんなもんで何しようってんだ」
店主の反応はすこぶる悪い。
これも私なりの……ではあるが、相手の反応が悪い場合は何を言っても反応が悪い。なので、反応を良くするために変に褒めたりするのではなく、相手が興味を持ってくれる短いワードを言うと効果的だ。
「海を飾るんです」
店主はもちろん。ティナとシーラ、シュヴァルトまでもが、私の発言に言葉を失った。




