裏を返せば現実
ティナが先頭で、私とグレイスが続いて部屋に向かう間、グレイスは1人騒がしかった。
廊下を歩くだけで「わぁ〜」「うわぁ〜」の感嘆の声が漏れるのは、気持ちとしてわからないでもない。
私も声こそ出さなかったものの、似たような感想を抱きながら、屋敷内を歩き回ったから。
部屋に着くと、グレイスが一際大きな感嘆の声を漏らす。
「わぁ……! ここがリースベット様のお部屋なんですね」
慣れてしまった私では同じ感想を抱けないが、ラニアのドレスを耳にした時のように、グレイスの目は輝いている。
「ティナ、彼女を衣装室に案内して」
「……こちらです」
「あっ、お願いします」
グレイスの姿が見えなくなったところで、大きく息を吐いた。
自分で言い出したこととはいえ、ヒロインと一緒に行動するのは、想像以上に疲れる。何もしてないけど、ただ隣を歩くだけで「何か」が起こるかもしれないと、不安でビクビクしていたなど……グレイスは知らないだろう。
今の私の心境は、早くしての一言に尽きる。
お風呂の準備が済むまでに、さっさとドレスを選んで部屋から出て行ってほしい。
ドレスがびしょ濡れのせいで座ることもできず、部屋をウロウロして……数分。
「お止め下さい!」
ティナの必死な声が衣装室から聞こえ、自然と足が衣装室に向かっていた。
「ティナ、どうしたの」
どういう状況だ?
思わず思考が停止した。
ティナは私のジュエリーボックスを胸に抱えている。グレイスはというと、胸の辺りで指をモジモジさせ、困ったように上目遣いで私を見ている。
「ティナ、説明してちょうだい」
「それが……お客様が、お嬢様のジュエリーボックスを開け……中の宝石類を手に取られておりまして……」
「ちっ、違うんです! あまりに綺麗な箱で、少し手に取って見たかったのです」
軽蔑するようにグレイスを見るティナ。
必死に弁解するグレイス。
「ハァ……わかったから。ベネット嬢は私のモノに手を触れないようにお願い致します。その上で、ドレスをお選び下さい」
グレイスが盗みを働こうとした。なんて、そんなことは思ってない。……が、いくら気になるからといって、他人のモノを勝手に触るのはどうかと思う。
ゲーム越しでは、謙虚で聖母みたいな性格のヒロインだと思ってた。
実際は、ラニアのドレスに反応したり、興味本位や好奇心で動いたり……年頃の女の子そのもの。
「ティナ、それは預かるから。彼女のドレス選びを手伝ってあげて」
「……かしこまりました」
また同じようなことが起きても面倒なので、衣装室で暇を持て余す私は、買い物に付き合わされた人状態。
「このドレスは?」
「お選びいただくドレスはあちらの分です。こちらは全てラニアのものです」
改めて見ると、私のドレスは9割がラニアのドレスだった。
残り1割……といっても、十分な枚数のドレスを前に、グレイスは悩んでいるように見えた。
「では、これを……」
渋々選んだような声でグレイスが選んだドレスは、1割のドレスの中でも一目で高価とわかるものだった。
おかげで、グレイスに対する謙虚なイメージはガラガラと崩れ去った。
衣装室から出るまで、グレイスの目がコルネリウスの言っていた、ラニアの黄色いドレスを見ていたのは気づいていたが、気づかないフリをした。
グレイスを公爵家の侍女に任せ、私はすぐさまお風呂に直行。
ティナが世話をしてくれると言ってくれたが、ティナもずぶ濡れなので、1人で大丈夫だと言い聞かせ……つい長湯をしてしまった。
お風呂から上がり、1人でも着れそうな服を探すのに衣装室に入って……「あれ?」となる。
ついさっきまであったはずの、黄色いドレスがなくなっている。
「え……嘘でしょ」
すぐさま部屋を出てベルを鳴らせば、ティナの代わりにシーラがノックと入室確認をして入って来た。
どうやらおつかいから戻って来ていたらしい。
「お呼びですか、お嬢様」
「……ティナの準備が終わってたら、すぐにティナを呼んで」
「かしこまりました」
「シュヴァルトも一緒に帰って来てる?」
「はい」
「すぐに呼んで」
「お嬢様、その格好では……」
「いいから」
バスローブ姿で護衛騎士とはいえ、男性を部屋に招くのが非常識なことは理解しているが、そんなことより今はドレスがなくなったことが問題だ。
「……かしこまりました」
シーラはティナを呼びに行き、シュヴァルトは手で目元を隠しながら、足下だけを確認しながら入室してくれる。
「お呼びですか」
「公爵閣下のところに行って、報告してほしいの。それから……」
終始目隠しでこちらに配慮してくれたシュヴァルトが部屋を出て、しばらくしてからシーラがティナを連れて戻ってきた。
「何があったのですか?」
おつかい帰りのシーラは状況がまるで掴めず、ティナは真っ先に衣装室に向かって、私のドレスを用意すると同時に状況を理解してくれた。
「ティナ、説明してあげて」
ティナがシーラに説明している間、私の頭の中では公爵家脱出計画が着々と予定されていく。
「……まずは、この泥棒騒動をどうにかしましょうか」




