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18/30

余計なお世話とお節介


 一晩経てば、きれいさっぱり。……なんてことはないけど、昨日と比べれば全然マシ。

 昨日は色んなことを一気に考えすぎて、頭がパンクした。

 問題は1つずつ片付けるに限る。


「さて、と……!」


 気持ちを入れ替えて、ティナとシーラを呼んだ。


「申し訳ありませんでした」

「申し訳ありませんでした」


 朝の挨拶もそこそこに、侍女2人が体を小さくして頭を下げてくる。

 見るからに落ち込み、反省している様子が感じられて、怒りたくないなぁ……と思ってしまう。

 ここに来て、気を許せるのはこの2人とシュヴァルトだけ。

 本当なら「大丈夫」と許してあげたいところだけど、立場もあるし、甘えたことは言ってられない。


「何に対しての謝罪か、それを話してもらえるかしら」


 まずは顔を上げたティナから。


「私はお嬢様に対し、軽率な発言をしてしまいました。誠に申し訳ございません」

「そうね。貴女は侍女として、配慮に欠ける発言をしてしまった。貴女は好きなものに対して熱が入りやすくて、そういった部分を私はとても好ましく思ってる。だから今まで注意しなかった私も悪いの」


 この瞬間は、何度経験しても心が痛い。


「暴走して、不用意な発言をしてしまう自分を律することができないなら、私の侍女として継続してもらうのは難しい。今回は許します」


 半泣き状態のティナに罪悪感のようなものはある。

 但し、その涙に同情はしない。


「……私は、お嬢様に止めていただかなければ契約違反をするところでした。誠に申し訳ございませんでした」

「私がシーラとシュヴァルトを雇ったのは、ただ仕事ができる人じゃなくて、口が固い信用のおける人材がほしかったから。その前提がなくなら、私は貴女を雇う理由がなくなる。テネーブル大公にもご迷惑がかかる。今回は未遂だけど、それを忘れないで」


 どちらも真摯に受け止めてくれた。

 後は、今後の2人次第。


 重たい空気を払拭するように、パンッと手を叩けば、2人が驚いた顔で私を見る。


「反省会は終わりよ! お茶の用意をしてくれる? カップは3つ。お菓子はたくさんね?」

「ですが……」

「貴女たちは謝罪した。私はそれを許した。この話はこれで終わり」

「はいっ!」

「私が準備致します」

「あっ、手伝うから!」


 2人が戻ってからは、3人でお茶をした。

 まだどこかぎこちない雰囲気はあったけど、これから忙しくなる(予定)なので、ぎこちなさは数日でなくなるだろう。


 これで問題は1つ解決。

 次は厄介な仕事の話だ。


「仕事を頼まれてくれる?」


 挽回のチャンスと捉えてくれているのか、2人の目がやる気に満ちていて、ちょっと嬉しかった。

 ティナにはベルンを呼んでもらい、シーラは情報屋へおつかい。


「ベルン様はお忙しいようで、夕食の後くらいにこちらに訪問されます……」


 張り切っていたせいか、シュンとするティナの頭に垂れたモフ耳が見える。


「それじゃあ、気分転換に庭でも散歩しようかな」

「準備致します!」


 やっぱりラニアのドレス愛が強いのか、ティナは見た感じ、上手く切り替えてくれた気がする。

 問題はおつかいに行かせたシーラだ。真面目で過保護。責任感も強そうなシーラは、今回のことを重く受け止めてるようなので、上手くサポートしてあげたい。


 パーティー用とは違い、普段着としてデザインされたラニアのデイドレスは、シンプルなドレスワンピースのようなものが多い。


「完璧です……」

「うん。散歩だけだともったいないから、お昼も外で食べようかな」

「厨房にランチボックスをお願いしてきますね!」


 気分は庭先での簡易ピクニックだ。

 

 邸宅の庭は当然ながら広い。青々とした芝生の絨毯がどこまでも広がっていて、前庭はお客さんを歓迎し、目を楽しませるトピアリーが並ぶ。トピアリーは、低木を剪定したりして、動物の形にしたりするアート作品。

 因みに、ブラウエル家門のシンボルがカエルなので、カエル型のトピアリーが多い。


「あれは初めて見るわ」

「昨日、お披露目されたばかりのものですね。庭師が特に時間をかけて造ったと聞いてますよ」


 おすわり状態のカエルだ。

 高さは私の腰辺りくらいで、横幅は私とティナが並んで少し足りないくらいの大きさだった。


「しかも、これで完成ではないそうですよ」


 他のカエルも見ながら、散歩を楽しんでいたところに、ティナが「お嬢様」と、小さく早口で声をかけてくる。


「こんなところに居たのか」

「……小公爵様ですか」

「いつもは部屋に居るくせに、今日に限って庭に居るとはな」


 コルネリウスに会うと、それだけで気分が一気に下降する。

 会う度に嫌味や怒鳴り声を聞いているので、無理もないが。


「…………!?」


 カエルを見ながら話していたせいで気付くのが遅れたが、チラッとコルネリウスに視線を向ければ、隣にグレイス・ベネットが並んでいる。

 

 あまりにも驚きすぎて、声すら出なかった。

 グレイスがコルネリウスを手伝うことになるのは、もう少し先のはず。邸宅に来るのは、更にもう少し先だ。

 なのに、グレイスがいる。

 オリーブグリーンの緩やかに波打つ長い髪。キャラメル色のぱっちりとしたまん丸な瞳。素朴さがありながら、どこか惹きつけられるような、そんな魅力を持った可愛い顔立ちのヒロイン。


(どうして、ここに……!?)


「ベルン辺りに話は聞いただろう。今年の代理人はお前だ。水花はこちらで用意するが、今年は更にブラウエル公爵家に相応しい品を用意することになった。お前が用意したその品と、水花を渡すことで我が家門は来年も祝福祭の一番手を飾るんだ」


 いや、知りませんよ。どうぞ、ご自由に。


「どうせ、お前のことだ。何も考えてないだろ? 彼女がお前を手伝いたいと、名乗りを上げてくれた」

「グレイス・ベネットと申します。麗しき水の公女様にお会いでき、光栄でございます」


 コルネリウスの顔が「挨拶しろ」と訴えている。


「……リースベット・ブラウエルです。本日はわざわざ、水の家門のためにお越しくださり、ありがとうございます」


 自分でもびっくりするくらい棒読みになってしまった。

 かといって、グレイスが気を悪くした様子はなく、顔を上げるなりパッと笑顔になる。


 まだ詳しいことは聞いてないが、今回の祝福祭では毎年の水花に加え、粗品を渡すことになったから、その粗品を準備しろ。

 私だとどんなモノを用意するかわからないから、グレイスが手伝いに来てもらった……感謝しろ、と?


「せっかくお越しいただいて申し訳ございませんが、私も詳しい話はまだ聞いておりませんし、私にも考えがございますので……お手伝いであれば小公爵様の方をお願い致します」


 さっきよりはマシな棒読みでも、特におかしなお断り文句ではないと思う。

 それなのに……グレイスはこの世の終わりみたいな、かなりショックを受けた顔をして、コルネリウスは当然の如くブチギレた。

 

「えっ……?」

「リースベット・ブラウエル! 反抗的な態度もいい加減にしろ! 友人も居ないお前が、まともな品を考えられるはずがない! つまらない意地を張るくらいなら、ベネット嬢の手助けを受け入れろ!」


 とりあえず、人の話をちゃんと聞いてほしい。

 私が言った言葉は勝手に、悪女言葉にでも変換されて聞こえるのか?

 ……その可能性はあるかもしれない。


 ちょっと不安になってティナを見れば、ティナも不思議そうに首を傾げている。

 ひょっとしたら、グレイスと攻略キャラにだけ、暴言として聞こえているのかもしれないと心配になった。


「あの、つかぬことをお伺いしますが……先ほどの私がなんと言ったか、復唱していただけますか?」

「お前が詳しい話を聞いてないだの……」

「小公爵様は偏見があるようなので、ベネット嬢にお願いしても構いませんか?」

「え、っと……公女様もまだお話を詳しくご存知ないということと、公女様には何かお考えがあるというで、ブラウエル小公爵様のお手伝いを……と仰られておりました」


 どうやら、悪女言葉に変換されている線はなさそうだ。


 

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