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様子がおかしい小公爵(Part.1)


 結局、公爵に下がるよう言われて私とコルネリウスは執務室を出た。

 ベルンは公爵と話があるのか、執務室に残った。


 待ってくれていたシーラとシュヴァルトと共に、来た道を戻って部屋に向かうのだが、背中が痛い。

 コルネリウスの部屋も同じ方向で、距離も近いとなれば、行き先が同じになるのは当然。……でも、背中を針で刺されてるような、地味に痛くて鬱陶しい視線は止めてほしい。

 だからといって声をかけるのは嫌なので、ほんの少しだけ歩幅を大きくしてスピードを上げた。


 距離を十分取ったところで、シュヴァルトが小声で話しかけてくる。


「お嬢様に何かお伝えしたいことがあるご様子でしたが、いかが致しますか?」

「シュヴァルトには申し訳ないけど、いつもと同じで部屋の前で待機しててくれる? 入って来ようとしたら止めてほしいけど……無理に押し通るようなら、小公爵様と一緒に入って来て」

「承知致しました」


 コルネリウスの言いたいことは分かりきってる。

 だから相手にする気がない。

 そんなことより、公爵が押し付けてきた『仕事』の方が問題だ。


 早いところベルンに話を聞いてみないと、人の言う「簡単」が、自分にとっても「簡単」かは、意見が別れると思う。

 

 何かで「コピー機も使えない新人さん」の話を見た。

 当時の私は、批判的な意見が多いことに驚いたのだ。

 大多数の意見として、コピー機は誰でも当たり前に使える。……というのが前提にあったように思うけど、実は私もコピー機が苦手な人だ。

 普通にA4で資料のコピーやらは問題ない。が、……B5だったり、紙のサイズが変わると「?」となる。

 上手く印刷できなかったりしたものが手元に残って、残念な気持ちになったことが何度かある。


 そんな私にとって「コピー機も使えない新人さん」は、批判的対象ではなく、むしろ仲間だ。

 私が見たものは新人さんに言及されていたが、人にコピーを頼むようになった人もまた、コピー機を十分に使えないと思う。

 長年コピー機に触れていなくとも、その機能を十全に使える人もいるんだろうけど。……羨ましいし、教わるならメモを取ろう。


 なので、大多数の人にとって「当たり前」で「簡単」な仕事であっても、それが相手にとっても「当たり前」で「簡単」かは別問題。

 逆もまた然り。私はそう思ってる。

 まぁ、仕事となると思うところがお互いにあるのもわかるけど。


 そもそも、公爵が私に任せようとする仕事の内容に、検討がつかないから余計に不安なのだ。

 カリカリした気分のせいか、コルネリウスが後ろをチョロチョロついて来るせいか……あっという間に部屋の前だった。


 部屋に入ればティナが「おかえりなさいませ」と声をかけてくれる。

 おざなりな返事だけして、とりあえずソファーに座れば……扉の外で声がする。


「騒がしいですね、私が出ましょうか?」

「……誰が出ても無駄だと思うわ」

 

 シュヴァルトの声は控えめで聞き取りづらいけど、もう片方はハッキリ聞こえる。

 ちょっと距離があったのに、わざわざ走って来たのか。

 そう考えると気分が滅入る。


「おいっ! どういうことだ!」


 バンッと扉を叩く勢いで侵入してきたコルネリウスの後ろには、シュヴァルトが居て、私に向かって首を横に振って合図を出してくれている。

 私が「でしょうね」という意味で頷けば、シュヴァルトのオレンジ色の目が、コルネリウスを軽蔑するように見ていた。


「不躾だとは思いませんか? 小公爵様ともあろうものが、レディの部屋に、ノックもなく……」


 怒り心頭のコルネリウスには見えていないらしい。

 シュヴァルトを筆頭に、ティナとシーラも冷めた目で見ていることに。


「どういうことだと聞いてるんだ! よりによって、お前が俺を庇うなんて……何のつもりだ!?」


 想像通りの質問にため息しか出てこない。

 ここで突っかかってくるなら、公爵の前でしてくれればいいのに。

 肝心なところで役に立たないお兄様だ。


「勘違いしないでいただけますか? 私が庇ったのは、テネーブル大公です。小公爵様が最初から、私をエスコートするつもりがなかったことなど、屋敷を出る前から知っておりました」

「……っ、」


 図星を突かれて言葉に詰まるなら、いちいち突撃して来ないでほしい。


「エスコートも無しに会場入りするのは……と、テネーブル大公にエスコートを頼んだのは、軽率な私の責任です。あの方にご迷惑をかけないためにしたことを、勝手に「庇った」などと勘違いなさらないでください。あの方にご迷惑がかからないのであれば、私が小公爵様に有利な発言をするわけないでしょう?」


 最後に、さっさと出て行っての意味を込めて、公爵閣下の言葉が事実なんですから……と言えば、コルネリウスの顔が面白いくらい歪んだ。

 クール系のキャラが台無しだ。


 話は終わった。気持ちとしては「シッ、シッ!」と追い払ってやりたいところだが、勝手に退出するだろう。


「……テネーブル大公とは、どこで知り合った」


 どうやら、私の考えは甘かったらしい。

 帰るどころか、先ほどまでとは違って冷静に訊ねられた。


「コネがあった、とだけお答えしておきましょう」

「テネーブル大公には関わるな。あの方は……危険だ」

「は……?」


 何を言い出すのかと思えば……よりによって、だ。

 思わず心の声が出た。


「忠告はしたぞ」


 まるで、これでさっきの件はチャラ。みたいな台詞を言い捨て、部屋を出て行った。


「私も退出させていただきます」

「あ、うん。ありがとう、シュヴァルト」


 シュヴァルトにお礼を言いながらも、私の顔はシーラを見てしまう。


「どういうこと?」


 私の個人的な見解として、危険人物はコルネリウスたち含む攻略キャラたちの方だ。

 祝福祭でのやり取りを思い返すと……ちょっと、色々気恥ずかしさはあるけど……最初から最後まで紳士的な人だった。

 まぁ、よく知らない。というのはあるので、紳士的に見えて実は……なんて話、現実でもザラにある。本当の紳士も居るし、男性に限った話じゃないけど。


「お嬢様」


 私が顔を見ていたからか、シーラの表情はどこか不安げだった。


「以前お仕えしていた私が言うのでは、信憑性は低いかも知れません。……ですがっ、」

「そこまで」


 どう伝えようか、悩みに悩みながら言葉にするシーラを、言葉と手で制止させる。

 これ以上は聞いちゃいけない。

 聞きたいか聞きたくないかなら、好奇心が勝つ。つまり、聞きたいけど……聞いちゃダメ。

 何故なら、何が契約違反に繋がるかわからないから。


 知りたいなら、情報屋に行けばいい。

 褒められたことではないかもしれないが、一応アレでも商売だ。かなりグレーな商売だけど。


 ただ、シーラがテネーブル大公のことを話すのは、転職した人が転職前の会社のことを話すようなものだ。

 転職先の同僚同士で何気ない会話として話していたり、あるいは面接で訊ねられたりもする。けど、そこは話しちゃいけないし、答えちゃダメなところ。面接は質問内容による。


 私自身、何度耳にしたかわからない。

 職場、カフェ、ファミレス、居酒屋……キリがない。


 本人たちはただの愚痴。くらいの感覚だとしても、意外と聞いてる人は居たりする。

 壁に耳あり障子に目あり、という言葉がある。

 現実はSNSが普及してる情報社会。

 たまたま聞いていたのが、前の職場関連の人じゃないとは言い切れない。

 そして、たまたま聞いていた人がSNSにアップしたら?

 情報はまたたく間に、目に見えない速度で世界中に飛んでいく。

 大体の人が入社、退職のタイミングで、守秘義務に関する項目に署名する。

 ただの愚痴が、守秘義務違反や会社のイメージを(そこ)なう、(おとし)める……に繋がるわけだ。


 シーラが言おうとしてることが、悪いことではないから聞いても大丈夫。言っても大丈夫。……ならいいけど、一言『善人』です。と言えないなら、言わせちゃダメ。聞いちゃダメ。


「シーラが何を言いたかったのか、伝えたかったのか、私にはわからない。……けど、私にとってテネーブル大公は間違いなく『良い人』よ」


 ホッとするシーラには悪いけど、今のところは、という言葉が後ろにつく。

 私の頭の中は、公爵の言う『仕事』と『テネーブル大公』でいっぱいだ。


 

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