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戸惑い  作者: 暦海
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……うん、ほんと自分でも――

「……その、ほんとにごめんね瀬那せなくん。その、僕のせいで……」

「おいおい、もう何回目だよそれ。流石に、耳に胼胝たこが出来ちまうよ」

「……う、うん、ごめん……」



 それから、数日経た放課後のこと。

 帰り道、たどたどしく謝意を述べる僕に呆れたような微笑で答える瀬那くん。……まあ、それはそうだよね。彼の言うように、もううんざりするほど聞かされちゃってるわけだし。



 もしかしたら、本当に彼が訴えられて――そんな恐怖がずっと胸中を巡っていたし、今だって僕の胸を締め付けている。自身の行動を省みた上で、訴える方が危険リスクが高い――今のところ彼女からの訴えがないのは、恐らくそのように判断してのことだと思うけど……それでも、油断はならない。僕のためとはいえ、瀬那くんが晴香はるかさんに暴力を振るってしまったのは事実。なので……もしも、彼女がなりふり構わず訴えるようなことがあれば、多少なりとも瀬那くんが罪に問われる可能性も――


 だけど……もしもそんなことになったら、流石に僕も黙ってない。クラスメイトの、校内の、世間の知るところとなっても構わない。瀬那くんのためになることなら僕はなんだって話すし、なんだってする。それこそ、代わりに僕がその罪を負い刑務所に入ることだって……なんて、きっとどれだけ願ってもそればかりは無理なんだろうな。



 ……ところで、それはそれとして……もう一つ、言わなきゃいけないことが――


「……あの、瀬那くん。その、瀬那くんは僕のために、ここまでしてくれたのに……それでも、僕は……」


 そう、おずおずと口にする。ここまでしてもらって、本当に申し訳ないのだけど……やっぱり、僕は彼をきっとそういうふうには好きになれない。尤も、明確な根拠があるわけじゃないけど……それでも、少なくとも、今までそういう感情を抱いた相手はみんな女性で――


「……なんだ、そんなことか」


 すると、何処か呆れたように微笑みそう口にする瀬那くん。……ひょっとして、僕の勘違い……と言うか、思い上がりだったのかな? まあ、もちろんそれならそれで良い。むしろ、彼のためにもそうであった方が――



「――悪いが、俺はお前を諦めてやるつもりはない。例え、叶わない想いでも……それでも、俺は誰よりお前が好きだよ、逢糸あいと」 

「……瀬那、くん」


 すると、僕の思考を遮るように、太陽よりも眩い笑顔でそう放つ瀬那くん。……馬鹿だなぁ、ほんと。僕なんかには、本当にもったいないよ、その気持ちは。

 それに……どれだけ想ってくれても、僕は応えられない。だから、その気持ちは今すぐにでも他の誰かに向けるべきで。……なのに――


「……逢糸?」


 すると、今度はポカンとした表情で尋ねる瀬那くん。まあ、それもそのはず――卒然、僕の右手がそっと彼の左手を取ったのだから。


 ……うん、自分でも分からないよ……なんで、こんなにも胸が痛むのか。




 



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