表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/13

02 達磨さんからの依頼(指令?)

 ユリは、『イリーザ・オーロン・トン・カコン』の正体に憤っていた。


「諸悪の根源ってなによ、諸悪の根源って。

 私が何したっていうの? 酷すぎない?

 大体、おかしいじゃない。

 諸悪の根源って、普通は傾国の美女とか、でなけりゃ王妃様とかでしょ。

 存在自体に役得がある人間のことじゃない。

 私は被害者なのよ。

 本人が被害を受ける諸悪の根源なんて、聞いたことないわよ!!」


 憤懣やるかたないなか、ユリは、担任教師に「コリンちゃん」と言われた日のことを思い出していた。あの後、クラスメイトの男子から「おまえはコリンっていうよりコ✕ンだよな」と言われたのだ。当時のユリは、その言葉の意味を理解していなかった。

(そうか、あれは、行った先々で凶悪事件が起きる死神キャラって意味だったんだ。今になって分かったわ。あんの野郎。

 でも、コ✕ン君が諸悪の根源なら、私も諸悪の根源たり()るってことね。

 あぁでも、あの子の悪態もその力の影響だったのかな)


 ユリがショックで一人でウダウダと考え事をしていると、それを見守っていた達磨さん(神様)が頃合いをみて割り込んだ。

「ところで、さっき呼びかけていた、ユリアとは誰のことじゃ?」

「……前話の最後に勢いで言った冗談の解説を求めるのは野暮(やぼ)です。

 やめてください」

「前話の最後というより、世紀末……」

「ピピピーーーッ! それ以上の深追い禁止!!」


「で、問題はおまえさんに備わった『イリーザ・オーロン・トン・カコン』じゃ」

「その長ったらし~の、何とかならないの?」

「なら諸悪の根源と呼ぶか?」

「そんなの人前で聞かれたら不味いでしょ!

 わかったわ。今度からイオトカ君って呼ぶ。

 断固そうする!」

「意思疎通する上で誤解を招かない名称ということなら、まぁいいじゃろう」

「まったく、はた迷惑なもんよこしてくれやがったわね~」

「元々はお前さんの母に与えられるはずだったものじゃ。

 それが、お前さんの母がお前さんを受胎したのと(とき)が重なってな。

 それで、お前さんの方に授けられてしまったのじゃよ」

「あのね、私今25なんですけど!

 仕事のミスを25年も放置してんじゃないわよ!」

「神にとっては些細なこと。25年なんぞ一瞬じゃ」

「あ~~、ぶん殴りたい。

 まぁ過ぎたことはもういいから、さっさとそのスキルを消してよね!」

「それはできん。 すでにお前さんの魂と一体化してしまっておる。」

「はぁ? 力を抑えることもできないの?」

「その力は常時発動型でコントロールできんのじゃ。

 しかも、ここ5年で力が増してきておる」

「ちょっと。そんなんじゃ、世界中悪人だらけになっちゃうじゃない」

「それは少し違う。

 お前さんと関わった者が悪事に走るといっても、絶対ではない。

 お前さんと出会わずとも遅かれ早かれするだろうことをしているだけじゃ。

 この力は、善良な人間には影響しないのじゃよ」

「善良な人間って、そんな完璧超人、どこにいるってのよ」

「いないことはないが、数は少ないな。 じゃからお前さんの前に儂がきた」

「来ても役に立ってないじゃない」

「確かにこには床がないから、立ってはおらんの。ホッホッホッ」

 そうだ、ここは辺り一面真っ白な謎空間だった。


「そんなこと言ってんじゃないわよ!

 ふざけてばかりいるなら、あんた縛り付けて、あんたが邪神に堕ちるまで私の近くでこの変な力浴びせ続けるわよ!」

「それは困るのぅ。

 だが安心せよ。お前さんには、これに対抗する新たな力を授けよう」

「大丈夫なんでしょうね?」

 ユリは疑り深そうに聞いてしまう。

「それはお前さん次第じゃな。

 新たな力は『エヴロギア・ティ・ステア』じゃ。

 この力も常時発動型だから、意識せずに使えるぞい」

「また和訳すると碌でもないやつじゃないでしょうね?」

「あえて言うなら『女神の恩恵』じゃな」

「なんだ、まともじゃないの!

 でも、長いし、こっちも人に聞かれると面倒なことになるんでしょ。

 だから、エティスって呼ぶわね」


 かってな命名をして、さあこれで解決かとユリが安心していたら、達磨さん(神様)が面倒なことをいいだした。


「ただしな、これを授けるには条件がある」

「お金ならないわよ」

「金ではない」

「じゃ、何よ」

「お前さんには、新たな力を行使する修行してもらわねばならん」

「うぇ~、修行?

 不衛生な施設で時代遅れな鍛錬するのは勘弁して欲しいわ~」

「そうではない。

 お前さんには、お前さんの周りに湧いて出る悪を退治して回ってもらう」

「そんなの警察の仕事じゃん」

「修行の場は、お前さんにとっての異世界じゃ。警察はおらんの」

「さっきエティスは常時発動型で意識せずに使えるって言ったじゃない。

 そんなもの、どう修行するのよ」

「女神の加護は、具体的にイメージすることで、より強力な意味を持つ。

 修行は、そのイメージを明確に描くことじゃ」

「ん~~、なんかよくわかんないんだけど。まぁいっか。

 それで、異世界でって、病院で寝てる私の(からだ)はどうなるの?」

「薬物が抜けるまで、まだ暫くかかるからの。

 目覚めることができるようになるまで、十分に時間はある。

 それに、異世界から戻るときは今のこの時間に戻る。

 何年掛かろうと大丈夫じゃ」

「異世界に何年もいるってこと?」

(それはちょっと……いや、かなり嫌だ)

「なに、あっという間じゃ」

「だいたい、今に戻るんだったら、行くのは今でなくたっていいじゃない」

「今だからいいのじゃよ。やる気になるじゃろ?」

「まさか、私の(からだ)を人質にしようっての!?

 本当に大丈夫なんでしょうね。」

「お前さん次第……と言って欲しいのかの?」

「もし死んだらどうしてくれるのよ?

 犯罪者だらけの世界に行くんでしょ。

 いつ死んだっておかしくないってことじゃない」

「異世界で死んだら、ここに戻ってきてリトライじゃな」

「ライフ無限ってこと?

 十分チートではあるけど、でもなぁ、私非力なのよね~。

 犯罪者見たら逃げることしかできないわよ?

 悪者退治なんて絶対無理」

「そこはそれっ、チート能力を使えるようにしてやる。

 お前さん、冒険譚(ラノベ)が好きじゃろう?」

「それって、大魔導師の魔法が使えるようになるってこと?」

「異世界にいる間だけな。

 エルフよりも不老長寿、病気にもかからん体にしよう。

 好きな魔法を好きなように使えるようにしてやる」

「なんかチート過ぎるような?

 ……ってちょっと待って、不老長寿って。

 まさか100年以上やらせる気じゃないでしょうね!?」

「お前さん次第じゃ。三日で終わるかもしれんし、三千年かかるかもしれん」

「さんぜ……うぇ~~、お先真っ暗。本当にできるの?

 私なんか悪いことした?」

「悪いことをしたのはお前さんの二親(ふたおや)じゃな。

 親の因果が子に報いたんじゃが、お前さん、悪者退治したがっとったろ?」

「悪事が嫌いなだけよ。

 悪者退治なんて大それたこと、したいなんて言ったこと一度もないわよ。

 まぁいいわ。それで、その異世界って、どんなとこ?

 江戸時代風?

 未来世界?

 それとも定番の中世ナーロッパ?」

「この世界で言えば、ヨーロッパの中世とルネサンスの混合文化かの」

「言葉はどうすんの?」

「自動翻訳されるから心配いらん」

「人種差別とかない?服やお金は?」

「排他的ではあるな。

 姿形や服装は好きにさせてやろう。

 金銭も十分に用意する」

「おぉぉ、太っ腹!

 それじゃ、それじゃ、もしかしてあの『アイテムボックス』ってやつも使える?」

「アイテムボックス?

 ちょっと待て……」


 達磨さん(神様)がユリの頭の中を探って、どのアイテムボックスを思い浮かべているか知ると、笑みを浮かべて答えた。

「ふむ、その『アイテムボックス』なら、次元操作魔法がよいな。

 出立前にレクチャーして進ぜよう。

 では準備を始めるかの」


    *    *    *


 達磨さん(神様)から次元操作魔法をレクチャーされ、アイテムボックスを使えるようになった後で、人前で使うならこれの方がよいからと、アイテムボックス(もど)きのマジックアイテムを渡された。これも次元操作魔法の産物らしいが、これを形作るのには手間と時間がかかるというので、今回は達磨さん(神様)から提供してもらったのだ。


 一般名称は『収納バッグ』だが、収納先の形状に応じて『携帯背負子』『携帯小屋』『携帯倉庫』と使い分けされているという。

 達磨さん(神様)にもらったのは、ひとつのバッグでその全部が使い分けできる優れものだったが、普通はどれかひとつだけらしい。


 その見た目は小さなバッグだが、『携帯背負子』の場合、蓋を開くと、異空間にある80リットルぐらいの容器と繋がり、物品の出し入れが可能となる。普段使うのはこれだ。

 これが『携帯小屋』や『携帯倉庫』だと、蓋を開くと扉のない出入口が現れ、異空間にある収納小屋や収納倉庫との出入りが可能となるつくりだ。

 それぞれ、その収納場所の中には仮想重力が働いている。収納バッグの内部は、時間停止はしないが、蓋を閉じた状態では空気や熱の出入りがない。つまり、気密性と断熱性を備えた普通の収納庫として機能する。

 中に入れる荷物は、普通の収納庫と同様に手で持って出し入れするか、あるいは小屋や倉庫なら台車や荷車で出し入れする。積み方が悪いと下のものが潰れたり、荷崩れしたりするので、荷物を積む際は、その形や重さを意識して、自分で整理して配置する必要がある。

 その代わり、収納バッグをひっくり返そうが振り回そうが、中のものには影響しない。だからトラックに(異世界なら馬車に)積み込むよりはずっと楽だ。『携帯背負子』の場合は、蓋を開いて上下ひっくり返しても中身が落ちてこない。その容量が小さめなのは、使用者の腕が底に届くサイズにする必要があったからだ。

 収納バッグは、そのままだと生鮮食品の収納には向かないが、冬山で出入口を開いて一晩おいて中を冷却し、雪や氷を中に入れておくことで、それが溶け切るまでは冷蔵庫代わりにすることができる。

 生体も入れられるが、収納中の空気の出入りがないので、長時間になると窒息の恐れがある。


    *    *    *


 次元操作魔法のアイテムボックスと、その産物の収納バッグには本当に関心した。それよりも驚いたことに、達磨さん(神様)が言うには、次元操作は本来は魔法ではなく、ユリの世界の人間による科学的な研究成果だという。名前は教えてくれなかったが、その人は、その研究成果を使って自ら異世界探訪してるというから、そのうち会うことがあるかもしれない。


補足)

 ユリに悪態をついた男子クラスメイトは、その後ニートになって、

 SNSで暴言を撒き散らして何度も警察沙汰になっていた……

 ということをユリは知らない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ