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28 勇者討伐【束の間の休息3】

「たっだいま~」

 ユリが宿に帰り、ジェイクとリーダーがいるだろう食堂に顔を出すと、ラッシュ・フォースの四人が全員揃っていた。なんとなく不貞腐れた感じだが、疲れは取れたんだろうか?


「みなさん顔色が悪いみたいですね~。

 一日お休みしても復活できませんでした?」

「遅い!!」

 マリエラがユリの問いに答えることなく、苦情を訴えてきた。

「えっ、えええっ!? 私、マリエラさんと何か約束してましたっけ?」

「マリエラ、約束してないことに文句を言うのは無茶ですよぅ」

「でも、ミラだって待ち草臥れてたでしょ!?」

「待ってはいましたけど、草臥れてはいませんよぅ。

 それより、ユリさんはとても元気そうですねぇ」

「そうよ。あんた、昨日あれだけ魔法使いまくってて、何で朝から夕方まで元気に遊んでられるのよ」

「え~~っと、美味しいもの食べたから?」

「一人でいい思いしてんじゃないわよ!」

「今朝誘ったのに、誰も一緒に来てくれなかったじゃないですか~」

「あたしだって昼から出かけるはずだったのよ!」

「マリエラ、そこまでにしとけ!」

 リーダーのウルフが止めに入って、話を続けた。

「ユリ、実は昼飯の後で呼び出しを受けて、ここにいる全員、お前が帰ってくるのを待ってたんだ。マリエラが苛ついてるのは勘弁してやってくれ」

「えっ? ええ、まぁ、リーダーがそう言うなら。

 でも、ハンターギルドの呼び出しなら、リーダーがひとりで行くんじゃないんですか?」

「俺ひとりで行くのを当然とするな!

 それと、今日の呼び出しはハンターギルドからじゃない。王城からだ」

「え~~~~っ。貴族様の相手は嫌ですよ~」

 ユリが読んだ日本の小説(ラノベ)、要するにユリの偏った読書傾向によれば、貴族という存在は碌なものではなかった。

(イオトカ君に近寄っても平気な貴族っているの?

 昨日だって、なんとかって伯爵がおかしくなってたじゃない)

「知るか! 当日に呼び付けるなんてのは、どうせまともじゃない奴か、まともじゃない要件だ。しかも貴族相手なんてのは、向こうから呼び出しておきながら、行ってみたら半日待たされるなんて、珍しくもないからな。今からだと、夜明けまで待たされるかもしれないからそのつもりでいろ!

 それじゃぁ、今から行くぞ。ユリ、ちゃんとついてこい」

「え~~、夕飯はどうするんですか~?」

「昼に、何か旨いもの食ってきたんだろ? だったら我慢しろ!」

「そんなのパワハラです!虐待です!断固抗議します!」

 そうやって不平不満を言いながら、四人についていくユリであった。


    *    *    *


 王城に行ってみれば、案の定待たされた。殺風景な待機所で椅子に腰掛けて、することもなく待たされ続けている。

「この部屋もそうですけど、入口からここまでの廊下とか、意外と質素なんですね? 王城って、なんて言うか、もっとこう、豪奢(ごうしゃ)?なもんかと思ってました」

 何を表現したいのか不明だが、ユリは胸の前で大きな荷物を抱えるような恰好で訴えていた。

「ユリ、お前なぁ、平民が入ってくるところを無駄に飾るわけないだろ。

 ギンギラに飾り立てるのは、貴族しか入れないところだ」

「意外とケチ臭いんですね。

 待たせておいて、お茶もお菓子も出ないのも、そのせいですかね~?」

「ユリ、あんた贅沢言ってんじゃないの」

「え~っ、だって私だけ、お夕飯食べてないんですよ~」

「みんな食べてないわよ。 当たり前でしょ」

「えっ!?」

(そうだ。ラッシュ・フォースは底抜けのお人好し軍団だった。

 私だけご飯抜きとか、するはずなかったんだ……)

「ごめんなさい!!」

 飛び跳ねるようにピョンと立ち上がって、頭を下げた。

「そこまでしなくていいから、座ってなさい」

 マリエラに言われて座ったものの、何か気まずい。

「あっ、そうだ! みんな夕飯がまだなら、これ食べます?」

 そういって、日中に仕入れてアイテムボックスに入れてあった、串焼き10本、ドーナツ20個を取り出して見せた。どちらも作り立てのように熱々で湯気を立てている。

「「「「……」」」」

 全員無言だったのは、驚いたというより、こんな場所で極秘の魔法を使ってしまう、ユリの無神経さに呆れていたからだ。

「あれ? 食べないんですか?」

「もらうわよ。お腹ぺこぺこなの。

 だけどどうしてこんなに沢山買い込んだのよ?」

「いやぁ~、屋台で道を聞いたり、店を教えてもらったりする度に買ってたら、こうなっちゃいました」

「ユリ、あんたねー……」

 マリエラは、言うだけ無駄だと、後の言葉を飲み込んだ。

「じゃぁ、誰か来ると面倒だから、早く食べちゃってくださいね。

 あ、食べ終わったあとの串は回収しますから」

「ところでユリ」

「はい?」

「お茶はないの?」


    *    *    *


 みんなでハフハフと串焼きとドーナツを食べ、ユリが串を回収して、まだ待たされるのかと居眠りし始めたときになってやっと、待機室に若い男が入ってきた。

(わぁ、執事みたいな人きたー!

 あれ? 王城の執事ってスチュワードだっけ?

 今風の言い方ならCA、キャッスル・アテンダントね!)

 むろん、王城にキャッスル・アテンダントなどという職業は存在しない。

 部屋に入ってきた男は、部屋に籠った油と肉汁の匂いに、しばし鼻をひくつかせていたが、怪訝な顔のまま声を掛けてきた。

「ご案内します」


 五人が案内人に従って王城の、質素だが象でも通れそうな幅広い廊下を進んでしばらく行くと、案内人が大きな扉の前で立ち止まって、扉の奥に声を掛けた。

「お客様をお連れしました」

「入って」

 部屋の中から案内人に答えたのは、女性の声だった。

「お入りください」

 案内人が開いた扉の向こうにいたのは、椅子に座ったままの年若い女性と、その後ろに立つ二人の警備兵だった。

 その女性は、絵に描いたような金髪碧眼の白人で、目鼻立ちのはっきりした美少女だった。幼さの残る表情と、顔の肌つやから見て15歳前後だろうか。服装は、パーティードレスのような派手さはなくて、クラシカルエレガントな、肌の露出が一切ない、クリーム色のブラウスに茶系統のスカートを身に着けている。また、その髪は、どんな手順でやればそうなるのか想像できないほど、複雑に編み込まれていた。

(あ、これはもしかして……)


「第三王女、エレノーラ様でいらっしゃいます」

(おぉぉ!ついに来た!定番の第三王女!!)


 相手の態度と姿からその身分を想像していたラッシュ・フォースの四人は、即座に片膝ついて首を垂れ、その様子をみていたユリも、あわてて真似をした。

 首を垂れたまま、ユリは冷や汗を流していた。

(この第三王女、イオトカ君の影響受けたりしないよね?

 お願い、そう言って!

 王女殿下に悪意向けられたら、国を敵に回さなきゃいけなくなっちゃう!)


「みなさん、(かしこ)まらなくてもいいですよ。

 さ、そちらの椅子に座ってください」

 言われるままに全員が椅子に座ると、リーダーが自己紹介する。

「私が、ラッシュ・フォースのリーダー、ウルフです。こちらから順に、メンバーのジェイク、ミラ、マリエラ。そして、ここしばらく行動を共にしているユリです」

「まぁ、ユリさんはパーティーに加入しなかったんですか?」

「ええっと、色々とあって、いまは偶々(たまたま)一緒に行動してる状態でして……」

 ユリがどう答えたものか迷っていると、リーダーが口を挟んだ。

「恐れながら殿下、今日はどのようなご用件でしょうか?」

「まあ、そんなに焦らないでくださいまし。

 お茶を用意させてますから、お話は、それが来てからにいたしましょう。

 お茶菓子は、……どうしましょう、みなさんドーナツは食べ飽きていらっしゃいますでしょうし、油っぽい食事をされたばかりのようですから、軽いものにいたしますね」

「「「「……えっ……」」」」

 ついさっきの食事のことは、全て知られているようだった。覗き穴から監視されてたのだろうか?

 そのときユリだけは、いつものように、全然関係ないことを考えていた。

(自動翻訳って、敬語はどうなるのかな?

 変な風に訳されて不敬で怒られたら、ダルシンさんの責任よ!)


 ユリが首を(かし)げている間に、お茶が用意されて振る舞われた。お茶はハーブティーかと思っていたら、なんと紅茶。お供の菓子は、チョコレートだった。

(中世ヨーロッパには存在しなかった紅茶とチョコ! さすが異世界!)

「わぁ、今日はお昼からずっと、大好きな紅茶を飲んだりチョコレートを食べたりしたかったんです! 市場の屋台には無かったのに、あるところにはあるんですね!」

「ちょっ、ユリ!子供みたいにはしゃがないで」

 不敬となることも(いと)わずに興奮するユリを、慌ててマリエラが(たしな)める。

「いいんですよ。遠慮せずに召し上がってください。

 ところで、ユリさんは、紅茶やチョコレートをご存じだったんですね。しかも大好きだとか。羨ましいですわね。(わたくし)だって、滅多に口にできませんのに」

 ラッシュ・フォースのメンバーの視線がユリに集まり、ユリは自分の失言に気が付いて冷や汗をかいていた。

 リーダーのウルフは、その様子を横目で見ながら、紅茶に口をつけ、チョコレート菓子を一粒口にして礼儀を果たした後、改めて質問をした。

「では、改めてお伺いします。

 今日はどのようなご用件で呼ばれたのでしょうか?」

「そうですねぇ、聞きたいことと、伝えたいことがあって、どうしましょう。

 そうね、伝えたいことからにしましょうか」

「俺たちに伝えたいこと?」

「ピッグヤーロウ公爵の長男の襲爵(しゅうしゃく)が決まりました」

(なんて名前! 豚野郎公、豚ハムじゃないですか!)

「それは、そのピッグヤーロウ公爵閣下が隠居したってことですか?」

「ええ、そう」

「それが俺たちと何の関係があるのでしょうか?

 俺たちに伝える理由をお教え願います」

「彼はね、ブルックナーという男から、多額の賄賂を受け取っていて、それと引き換えに、虚偽の功績を理由にしてブルックナーに伯爵位を与えていたの。

 伯爵になったブルックナーは、シャイニング・スターズに勇者の称号を与えて庇護して、いろいろと悪いことをしていたみたいですね。

 国王陛下は、それを大変お怒りになられて、本日付けで公爵の代替わりを命じられました。表向きは、病気により執務困難なため。まもなく病死されることでしょう」

(ええっ、このお姉さん、すごく怖いこと言っちゃってますよ……)

「あの豚公爵が失脚したので、ブルックナーの影響も完全に失われて、あの男が庇護していたもうひとつのパーティー、ブレイヴ・ソードを守る権力は完全に無くなりました。そのことを伝えたかったのです」

(えええっ、この姫様、今はっきり『豚公爵』って言っちゃいましたよ。

 もしかして、これも自動翻訳ミスだったりする?)


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