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22 勇者討伐【シャイニング・スターズ編3】

 ユリは怖かった。ひたすら怖かった。

 狼の群れも、黒虎狼(マーナガルム)の群れも、タートルベアも、ユリは怖いとは思わなかったし退治もした。しかしスライムストームに対しては、自分たちの身を守るので精一杯で、退治なんて考える余裕すらなかった。

(これって、魔物(モンスター)と自然災害のキメラなのかな? そんなのってあり?

 まさか、大地震とか火山とか巨大隕石とかと合体しないでしょうね?

 絶対にやめてよね!)

「リーダー、スライムストームって魔物(モンスター)なんですか?」

魔物(モンスター)ではなくて、魔力の災害、魔災だな。最初はスライムの集合体なんだが、スライム自身も溶けちまって、スライムの胃液と魔力だけの存在になっちまってるからな」

「ウルフ!!何なのよあれは!!ダンジョンに出る奴じゃないでしょ!!一度の出現で村が三つ消える奴じゃない!!何であれがここにいるのよ!!しかも後ろから来るってどういうことよ!!」

「そんなの俺に言われたって分かるわけないだろうが」


 ミラは、さっきまでの恐怖はどこへ行ったのか、周囲に散らばった白い骨を、膝を曲げて興味深そうに見ている。これが海岸で貝殻を拾ってる姿なら絵になるのだが、相手は骨だ。

「随分と大きい骨ですねぇ。

 あれなんて、一本でユリさんの背丈くらいありますよぅ。

 あ、あっちは今日出会った、タートルベアの甲羅ですかねぇ?

 今日退治した子の二回りくらい大きいですねぇ」


 ミラに倣ってユリも辺りの骨を見ていたら、離れたところに嫌なものを見つけてしまった。

「リーダー。あっちにあるのって、人の骨じゃないですか?

 さっきから私たちの跡を付けてた人たちの」

「なにっ!!」


 見つけた骨に近寄ってみると、他の獣や魔獣の骨と一緒くたになってしまっていて、はっきりとした判断はできないが、確かに人間のものと(おぼ)しき頭蓋骨とハンターの装備が残っている。

「また、面倒なことを。

 跡を付けてたってだけじゃ、盗賊とは断言できんからなあ。

 悪党じゃなくても、自己責任だから同情はせんが、埋葬して、ギルド証くらいは拾っていってやるか」

 ユリは、これだけ骨だらけの場所で、人の骨だけを埋葬する意味があるのか疑問ではあったが、リーダーの指示に従って、骨と遺品を拾い集め、骨は埋葬した。

 ミラが土饅頭に祈りを捧げている間に、ユリはリーダーと会話する。

「彼ら、性別不明だから彼女らかもしれませんけれど、全然お金持ってませんでしたね。骨は6人分あるのに、ハンターギルド証は3人分しかありませんし。何なんですかね?」

 ダンジョンに潜るには、ハンターギルド証が必須で、持たずにはいるのは違法行為だった。

「食うに困って無理な盗みをしようとしやがったのか。アホな奴らだ」


「それにしても何であんなのが出たんですかね?

 あんなの対処しようがないじゃないですか。

 スケルトンに襲われた方がよっぽどマシです」

「ははは、スケルトンの方がマシか。たしかにスケルトンが相手なら、俺でもぶん殴れるもんな」

「ちょっと、ウルフ、変なこと言ってると、本当に出るわよ。

 あの嵐にスケルトンだって巻き込まれてたかもしれないだからね」

「マリエラさんってば、そんなベタなお約束、あるわけないじゃないですか」


 そのときだった、地面に転がっていた骨のひとつがピクリと動いたのだ。

「邪気の流れがありますねぇ」

「ミラさん、それマジですか!?」

 するとあちこちで、散らばった骨がカタカタと音を立てて集まり、徐々に形を成していく。

 猿のようなもの、狼のようなもの、(いのしし)のようなもの。骨なので獣か魔物(モンスター)かは区別がつきにくいが、タートルベアだけははっきりと分かった。同一個体の骨であることに(こだわ)りがないのか、左右の手足の大きさが違ったり、大蛇の骨の頭が大きな牙のある(いのしし)になってたりもする。ミラがお祈りしたお蔭か、さっき埋葬した人骨がスケルトンにならなかったことだけが救いだった。

 各種スケルトンは、辺り一面、無数にいて、一個体ずつ退治してたら、ユリたちはすぐに力尽きてしまうだろう。かといって、ユリの魔法でこの数を退治しようとすると、ダンジョンも破壊して、間違いなく全員が生き埋めになる。


「ええっと、どうします?リーダー」

「ミラ、浄化できるか!?」

「数が多すぎると思いますねぇ」

「ミラさん、私、全力で支援しますから、ぜひやってみてください」

 ユリは、直ちに周囲に堅固(けんご)な防護障壁を張ると、スケルトンの侵入を防ぎつつ、エティスの加護によるミラの浄化魔法の強化とミラの魔力の支援を強く願った。

 ミラが詠唱を始めると、マリエラは小声で詠唱して、万が一スケルトンが侵入してきたときのための攻撃の準備をする。


 ミラの詠唱はいつ聴いても美しい。自動翻訳されないので、詠唱の言葉は全く分からないのだが、清らかな歌声のように聞こえる。それが浄化魔法のせいもあるのだろう。聴いているユリの心も奇麗に洗い流されていくのを感じていた。


 ガンッ!ガンッ!ガンッ!


 押し寄せてきたスケルトンが、防護障壁に行く手を阻まれて、ある者は頭突きし、ある者は大口を開けて牙を剥いて威嚇し、ある者は他の者から奪った骨で殴りつけ、またある者は体当たりしてきている。

 防護障壁に守られているとはいえ、それらのスケルトンを目の前にして、ミラは恐れることもなく、淡々と詠唱を続けている。

 すると、ミラを囲むように、少しずつ周囲がほんのりと淡く光り始め、その光は徐々に範囲を広げていき、やがて目の届く限り、辺り一面が心温まる光に包まれた。そこが光に満たされた世界になると、その中にいたスケルトンたちは動きを止め、少しずつひび割れ、ポロポロと細かく砕け落ちていき、やがて全てが白い土と化した。


 スケルトンが全て土に還ると、ミラは詠唱を終え、大きく深呼吸して言った。

「皆さん清らかな死を迎えてくださいましたねぇ」


 ミラ以外の四人は、スケルトンがどこかに隠れて残っていたりしないか警戒していたが、再び登場する気配がないと分かると、全員が力を抜き、ほっと息をついた。

「ミラさん、凄いです! 見事です!

 今度広場か教会でリサイタルを開きましょう!」

「ミラ、あんた、こんなに凄かったっけ? まるで大聖女じゃない!」

「ユリさんが、何か手伝ってくださったんですかねぇ?」

 ミラがユリに視線を向けてきたが、ユリはそっぽを向いて否定した。

「いえ、私はミラさんの浄化魔法の効果が強くなるといいなって、お祈りしてただけです」

 祈った相手が、掟破りのエティスだったことを除けば、ユリが祈っただけというのは事実だった。

「まあ、それじゃあ、ユリさんには、これからもお祈りしていただきましょうねぇ」

「お祈りなら、まかせてください」


「それにしてもスライムストームに遭遇しただけでも生きてるのが不思議なくらいなのに、その後にスケルトン軍団って、スライムストームからの生還者がいないのも頷けるわ」

「ラッシュ・フォースの皆さんなら、大丈夫だって証明されたじゃないですか」

「馬鹿言わないで。あんたがいなけりゃ全滅してたわよ。二度と御免よ」

「私はお祈りしていただけです」

「それはもういいって」


「ところで、リーダー。

 他に私たちを追って来てたのがいたとしても、もう残ってないと思うんですが、どうします?」

「もともと返り討ちにする場所はここじゃない。

 予定通り、もっと先に進もう」


    *    *    *


「リーダー。気持ちいいくらい、何もいませんね」

「あれから5階層も下りて来ましたけれど、何もいませんねぇ」

「スケルトンもいないな。ミラの浄化魔法はここまで及んでたのか」

「凄いです!ダンジョン丸ごと浄化しちゃったかもしれません!

 リッチとかゴーストとかレイスとかゾンビとか、きっとアンデッド系は全滅ですよ!」

「アンデッドはともかく、普通の魔物(モンスター)もいないじゃない。

 いくら何でもいなさ過ぎよ!

 あのスライム野郎、何階層分の魔物(モンスター)食い荒らしてったのよ」

「ミラさんの浄化魔法を嫌って、逃げて行ったのかもしれませんね」

「困ったな。もっと多くの黒虎狼(マーナガルム)とか、石頭猪(ハーディボア)とかの群れをやり過ごしてから戻るはずだったのに、雑魚すらいないのか。

 跡を付けてきてたのも、さっき骨になってた連中だけか」

「今日のところは戻りますか?

 もっと地上に近いところで、シャイスタも骨になってるかもしれませんし」

「そうだな。さっきスライムストームが発生した時点で、俺たちの計画は破綻してたんだ。これ以上奥に行っても無駄だろうな」


 元々の計画では、ユリとラッシュ・フォースのメンバーは、魔物(モンスター)の群れを(かわ)しながらダンジョンの中層辺りまで行き、そこから魔物(モンスター)を地上まで追い立てて意図的にスタンピードを引き起こして、コロシアムで討伐ショーをする予定でだった。その計画は、ハンターギルドにも伝えてある。ユリたちは、討伐ショーで、シャイニング・スターズの化けの皮を剥がす計画だったのだ。

 しかし、ダンジョン内でスライムストームが発生し、その後の浄化魔法の影響もあって、そこから下層の魔物(モンスター)がいなくなってしまった。残りは全て、深層に逃げてしまったことだろう。あのスライムストームが、どこから湧いて出たのか分からないが、その地点より上の階層の魔物(モンスター)なら多少は残っているかもしれない。しかし、スタンピードと言えるほどは残ってはいないだろう、というのがリーダーの考えだった。

「あのう、リーダー。問題になっているのは、闘技場でする討伐ショーに出演させる魔物(モンスター)の数が足りないってことですか?」

「ああ、ここから地上までじゃ、横穴に潜んでた雑魚しか残ってないからな」

 そこでユリがとんでもない提案をした。


「私、結構な数の魔物(モンスター)、生きたまま捕獲してありますけど、使います?

 あっ、スケルトンについては『生きたまま』じゃないですけど」

「「「「はぁ!?」」」」


自分でも、時々ごちゃ混ぜになって間違えるんですが、この作品では以下の使い分けをしています。

・防護障壁:物理的な力を防ぐ。魔力や熱や光は通過する。

・防御結界:物理的な力の他に魔力や熱や光を防ぐ。(向こう側を見るために光は少し通す)


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