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13 初心者教育(3)

だんだん誤記訂正が間に合わなくなりつつあり、恥ずかしながら今後の投稿を月、水、金の週3回にさせていただきます。

遅筆で申し訳ありませんが、今後も、見捨てずに読んでやってください。

よろしくお願いします。

「ギルドの聞き取り調査は、何聞かれるかと思って身構えてたんですけど、あっちのパーティーの事ばかり聞かれて拍子抜けでしたね~」

 ユリとラッシュ・フォースよる救護作業の後、駆けつけてきたギルド職員に捜索と怪我人の救護を引き継ぐと、そのままギルドに連れていかれて、隣の大事故についての聞き取り調査を受けていた。そのため、ユリの放った大魔法はとくにギルドから詮索されることも無く、そのまま解放されることになった。

 それで、ユリは安心しきっていたのだが、リーダーはそうではなかった。

「何、能天気なこと言ってんだ。こっちのことを聞かれなかったのは優先順位の問題で、そのうち問い(ただ)されるから覚悟しておけ」

「でもほら、不幸中の幸いっていうか、私たちがいたエリアにも被害が出てるから、多少は誤魔化せるんじゃないですか?」

「そうだといいがな」

「はいはい、ウルフもユリも、戯れ合いはそこまで~!」

「マリエラさん。私たち別に、戯れ合っちゃいないですよ~」

「いいからユリは静かにしてて」

「ぶぅ~」

「で、ウルフ。何か分かったの?

 あたしを担当したギルド職員は何も教えてくれなかったけど、ウルフは『聞かれたことに答えて終わり』ってわけじゃなかったんでしょ?」

「俺も大したことは聞けていない。教えてもらえたのは、吹き飛んだ連中が、セーフ・ゾーンって名前の8人構成の中堅パーティで、死んだのが調査係(リサーチャー)のディックと会計係のギールだったってことくらいだ」

安全地帯(セーフ・ゾーン)とはまた、随分と皮肉な名前ですね」

「あんた、何いってんの?」

 ユリの自動翻訳では、名前は翻訳されないので、ユリがセーフ・ゾーンを「安全地帯」と直訳しても通じなかった。そもそも"safe zone"は英語にない言葉であって、『安全地帯』も日本の道路交通法用語であるから、聞いた人間に通じないのは当然だった。

「ところで、調査係(リサーチャー)と会計係って何ですか?

 ラッシュ・フォースにそんな仕事してる人いましたっけ?

 もしかして幽霊社員ですか?」

調査係(リサーチャー)っていうのは、ダンジョンで罠を見破ったり、隠密行動で敵の秘密を探ったりするのが仕事だ。昔は泥棒(シーフ)って呼ばれてた職業なんだが、真っ当な仕事なのに泥棒(シーフ)じゃ聞こえが悪いってんで、今は調査係(リサーチャー)と呼ぶことになってる」

「えーっ! 泥棒(シーフ)泥棒(シーフ)でしょ!

 過剰なコンプライアンス反対!」

(冒険譚で泥棒(シーフ)調査係(リサーチャー)なんて書いたら、読者にそっぽ向かれちゃうわよ!)

「何を興奮して喚いてるんだ、お前は。

 えーっと、あと会計係だったな。会計係ってのは、文字通り会計担当だ。パーティーによっては、数字に弱くて釣銭の計算もできない連中ばかりってことがあってな、そういうときに雇われる。

 どっちも大所帯のパーティーで雇われる職業であって、うちのパーティにはいない。幸いうちの連中はみんな、金勘定が得意だしな」

(会計と泥棒(シーフ)って、如何にも悪事に手を出してそうな関係だけど、小説だとミスリード役でもあるのよね~。あっ、泥棒(シーフ)がイオトカ君に近づいて、本当の泥棒になっちゃったとかもあるのかな?)

「でしたら、リーダー。その二人が死んだのが、狙われたからなのか、偶々(たまたま)その二人が運動音痴だったからなのかが問題ですね」

「ユリったら、そんな握りこぶし突き上げて言うことじゃないでしょ。

 大体ねー、あたしたちが助けに行かなけりゃ全員死んでたんだから、死んだのがその二人なのは偶々(たまたま)でしょ」

「マリエラ。決めつけるのは、まだ早いですよぅ」

「分かったわよ。それで、あの怪しい女のことは何か聞けたの?ウルフ」

「そっちは、取り調べがこれからだったから、何も聞けていないな。

 ただ疑わしいことについては伝えておいたから、念入りに調べてくれるだろう」

「そっ、じゃぁみんなでご飯行こう!」


    *    *    *


 それは、ユリたちが、ぞろぞろとギルドを出て、建物の角を曲がろうとしたときのことだった。


 ドーン!!


 頭上で爆発音がして、ギルドの建物の二階の窓のひとつが吹き飛んで、黒い司祭服の女が壁の破片と一緒に降ってきた。

「へっ?」

 ユリが間抜けな声を上げている間に、ジェイクが落ちて来る女の下に移動して受け止めようとしたが、女はジェイクの胸を蹴って地面に着地すると、そのまま走り去ろうとした。

「女を捕まえろ!!」

 二階の壁の穴から顔を出したギルド職員が、下にいた仲間に女の捕縛を命じるのが聞こえたが、その瞬間、女の足が地面に足首まで沈み、そのまま地面に氷が張って足が固定された。

(しまった、つい捕まえちゃった! ここは冒険譚のために、血湧き肉躍る捕り物を演じて見せるべきでした!)

 どうやら、捕獲したのはユリだったようだ。

 ユリが意味不明な反省をしていると、ユリを睨みつけた女が、右手をユリに向けて何かしら詠唱してたかと思うと火球を飛ばしてきた。

(おーっ! これがあの有名なファイアーボール!)

「「「「ユリ!」」」」

火球が迫ってもぼけーっと眺めているユリに、四人が呼びかけたが、その間もなく、ユリの眼の前で見えない壁に阻まれて、火球が砕け散った。

(いやー、ついつい眺めちゃいました。次はそうはいきません)

 女は既に次の詠唱を終えていて、すぐに次の火球を打ち出した……と思ったら、火球が離れる前に破裂し、その焔が女を円柱状に囲んで蒸し焼きにした。

「ユリ、あんた、えげつない技も使うのねー」

「そんな、私はただ、防御結界を裏返しで彼女の周りに張って、攻撃魔法を放ったら自滅するようにしただけです」

「それをえげつないって言うの。まぁいいわ。それより、あそこで黒焦げになってる奴、火傷の治療ぐらいしたほうがいいんじゃない?」

「ミラ、面倒だろうが頼む」

「ふふっ、ユリさん、いきますよ」


    *    *    *


 ユリは、ミラの詠唱の歌声は何度聞いても美しいと思った。その治癒効果が、実力なのか、ユリのエティスで嵩上げされているのか分からないが、黒焦げの女は燃えた髪や睫毛(まつげ)も元通りになり、奇麗な姿になっている。ただ衣装は復元されず、半裸状態になっていて、通行人の男たちを喜ばせていた。

 見かねたユリが収納から(むしろ)を一枚取り出して女に被せ、次に「はい!」という掛け声と共に(むしろ)を捲ると、そこに女の姿は無かった。それは、手品を知らない人々には全く意味不明なパフォーマンスだったのだが、ユリは一仕事(ひとしごと)終えたかのように、胸を張って満足げな顔をしていた。

 観衆が唖然としている中、ユリが仲間の元に戻ると、マリエラが声を掛けた。

「あんた、相変わらずやることがめちゃくちゃね。それで、あの女は?」

「こっちです」

 ユリは、建物の脇の、人ひとり入れるかどうかという隙間にきて言った。

「ここです」

 そう言うと、ユリは収納バッグで二つ目に大きい『携帯小屋』の扉を建物の隙間で開いて中に入り、ラッシュ・フォースの四人を招き入れた。次に、ユリがアイテムボックスに隠していた女をそこに取り出して寝かせると、携帯小屋の中をしげしげと眺めていたリーダーが感心した声を上げた。

「ほう、こんなのもあったのか。で、なぜこんなところに持ってきた」

「この姿を人前に晒すのはどうかと思いまして。それに、マリエラさんの作業に都合がいいかと」

 ユリがそう言うと、リーダーがニヤついた顔でマリエラに声を掛けた。

「マリエラ、自白させてくれ」

「この魔法、二日続けて使うのは初めてね。結構疲れるのよ」

 マリエラが寝ている女に自白魔法をかけ、頬をひっぱたいて目を覚まさせると、リーダーが尋問を開始した。


    *    *    *


 実際はリーダーが問いかけると、女が喋り続ける一人舞台となった。

「あたしたちのパーティーは、ずっと、報酬の取り分で揉めてたの。

 私とギールの取り分は、三年前からずっと、二人合わせて10分の1よ。クエストの成功報酬が出た後の宴会も、私とギール抜きでやるし。いくらなんでも馬鹿にし過ぎじゃない!?

 だからね、ギールと二人で、パーティーの収支から直接お金を抜くことにしたの。私たちには当然の報酬でしょ。あいつら商人との交渉もできなきゃ、簡単な足し算や引き算もできない馬鹿ばかりなのよ。私たちがパーティーに入るまで、パーティー収入は今の3分の1も無かったの。私たちのおかげで3倍以上になったのよ?だったらパーティー収入の2割抜くくらい、文句言われる筋合いじゃないのよ。

 でもね、ディックの奴が気づいて、ボスにバラされたくなかったら、分け前よこせって言ってきたの。それでも、収支から抜く額を増やせば何とかなるかって思って、あいつに金渡すようにしてたんだけど、今日、技能試験場に行ったら、ボスがいきなりディックの尋問を始めちゃったの。私とギールは宴会に参加しないから知らなかったけど、あの馬鹿いきなりボスたちの前で金遣いが荒くなってたのね、そのせいでボスにバレてたのよ。それを指摘されて、ボスに問い詰められたら、私とギールのことあっさり喋りやがって。

 それで、ボスがディックを殴ったのが引き金になって、3対5で戦闘が始まったのよ。

 でもね、ディックの奴、予め準備してたのね。あいつ、爆裂魔法(エクスプロージョン)のマジックアイテムを岩の下に仕込んであるから、合図したら点火しろって言ってきたのよ。最初はそうするつもりだったわ。

 でもね、戦闘しているうち、ディックの奴がボスに殺られそうになったときにギールを盾にしたの。そのせいでギールが殺されちゃって。なんでギールが殺されなきゃいけないのよ!

 だから、あいつら全員が岩の近くにいるときに、爆裂魔法(エクスプロージョン)のマジックアイテムに点火してやったのよ。全員吹き飛んでいい気味だったわ。私は離れたところで防御結界張ってたのに、結界ごと壁にたたきつけられて、崩れてきた壁の下敷きになって、もう死んだっていいやって思って。

 でも私は生き残った。ディックの奴は粉々になって死んだけど、それ以外は、ギールを殺したボスまで生き残ってて。ふざけんじゃないわよ!

 だからさっき、後始末してやったの。

 あはっ、あはっ、あははははははははははは……」


 その後、いつまでも笑い続ける女をギルドに連れて行って、ミラが記憶していた証言内容を文字に起こしてギルドに伝え、ようやくこの事件は幕を閉じた。


「そういえば私、未だにこの女の名前を知らないんだよねー」


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